第21話|現場は何に困っている by AI事務員宮西さん–データ組織立ち上げ編 | データで越境者に寄り添うメディア データのじかん
カテゴリー
キーワード
第21話|現場は何に困っている by AI事務員宮西さん–データ組織立ち上げ編

第21話|現場は何に困っている by AI事務員宮西さん–データ組織立ち上げ編

「AI事務員宮西さん」とは?

AI事務員なだけにAI生成画像を使って作っていて、AIデータについて書いた漫画です。保険会社で事務員として働く宮西さん。勤めている保険会社もこれからはAIの時代だとデータ部門の新設を行うことになりました。なぜか事務員の宮西さんが配属されることになり、データ組織を立ち上げるまでの話です。同じようにデータ組織を立ち上げる事を考えている人に入門書として書いてます。それでは本編をご覧ください。

本特集一覧はこちらから

         

登場人物

宮西 京華(みやにし けいか)
保険会社で事務職をやっているデータマネジメント担当。歌い手動画を見るのが好き。


第21話|現場は何に困っている by AI事務員宮西さん--データ組織立ち上げ編


作者|西宮さんより解説

データマネジメント解説、連載の第21回が始まりました。
宮西さんは目標達成のために、実際に現場に赴いて、データを使って利益貢献できそうなビジネスを探しに行くことにしました。

・・・・・

ビジネスでどのようにデータが使われているのか知るためには現場に行った方が良いのは理解しているが、足は動かない。

「やっぱり、現場を見なきゃわかんないか」

パソコンの画面を閉じて、私は自分に言い聞かせるように呟いた。データアーキテクチャだの、成熟度だのといった言葉は頭の中に並べるだけなら簡単だけど、実際にどこでどう使われているかなんて、座って考えていても見えてこない。だから私は現場に行ってデータを使っていて時間のかかっている業務を聞き出してみることにした。

きっかけがなければ何も始まらない。まずは保険申込受付のチームに声をかけた。ここの業務は、データ入力が多くて大変だと噂で聞いていたからだ。

「え、あのデータについて? ……紙の申込書を見ながらExcelに転記してるやつ」

「あれ、全部手作業なんですか?」

「そうだよ。スキャンしてPDFにして保管はしてるけど、肝心の入力は全部手」

「何で自動化されてないんですか?」

「……そういう仕組みが、うちにはないんだよね」

そう言って、チームのリーダーさんが苦笑する。Excel画面とにらめっこしている担当者の手元を見ると、紙を見てはキーボードを叩いて、また紙をめくっている。ああ、そういえばウチの現場はこんな感じだった、私も昔はやっていた。データ利活用とも言えないようなもっと根本的なものだが、改善の余地がある。それが目に見えてわかった。

現場に行ってみると、自分では気が付いていなかった改善点が見えた。そして何か手を打てないかと考えながら帰路に就いた。

「OCR、使えないかな……」

帰り道、私はひと息つきながら、ふと思いついた。紙の文字を読み取って、デジタルデータに変換する技術。今どきは手書きの申込書でもかなりの精度で読み取れるし、最近はクラウドサービスでも手軽に使える。

「もし、OCRを使えば……紙をスキャンした時点で、データ化できるんじゃないか?」

それをシステムと連携させて、社内のデータベースに反映できるようにすれば、転記作業は激減する。人手も減らせるし、ミスも減る。時間が浮けば、別の業務に使ってもらえる。なにより、データが生まれた瞬間から使える状態になる。

これだ。これが「データ利活用」ってやつなんだ。いままでどこか他人事だった言葉が、自分の中にストンと落ちてくる感覚があった。

「松田先輩。OCRって、うちでも使えると思いますか?」

翌朝、出社してすぐに聞いてみた。松田さんは、いつものようにおっとりとした声で答える。

「使えると思うわよ、ただ、どうやって業務で使うかの方が大事だと思うな」

「どうやって業務で使うか、ですか?」

「うん。現場にもいろんな業務があるんだから、他の業務と兼ね合ってこれで楽になるって思えるように設計できれば、使える。逆に、押し付けっぽく見えちゃうと、どんなに便利でも敬遠されちゃう」

なるほど。技術があれば解決、というわけじゃない。現場にとってわかりやすくて、ありがたいものでなければ、定着しない。

でも、それでも私は思った。これを積み上げていけば、貢献利益1億円に近づける。まだ実現方法は荒削りだ。でも、あの現場で見た人たちの表情。紙とExcelの間で忙しく作業していた様子。その一つひとつが、私のモチベーションに火をつけてくれる。

実際現場を見てみるまでは、「一億円」なんて遠すぎて、夢みたいだった。でも今は違う。このOCRの仕組みを入れれば、1人1日30分の作業を削減できる。これはもう、ただの理想じゃない。数字で語れるビジネス価値が見えてきた。

「一億円。意外と……現実味、出てきたかもしれない」

呟いた言葉に、自然と笑みがこぼれた。データ利活用という言葉は、どこか無機質で、距離があるように感じていた。

でも、今は違う。それは誰かの時間を救い、誰かの仕事を変え、会社の未来を少しずつ動かしていく――そんな力を持っている。そして、その始まりは、私が「現場に話を聞きに行った」たったそれだけのことだった。

・・・・・

データ利活用という言葉が独り歩きしている場面をよく見かけますが、そもそも「何のために」「どこに向かって」利活用するのかが曖昧なまま、ツール導入や可視化だけが進んでしまうことが少なくありません。そうしたアプローチは、短期的な活動実績としては評価されても、長期的なビジネス価値には繋がりにくいのが実情です。

宮西さんが計画を立てる過程で直面したように、データマネジメントの成熟度を高めるにはアーキテクチャ、特にビジネスアーキテクチャへの理解が不可欠です。つまり、どのような業務の流れの中で、どのようなデータが発生し、どのように使われているか。それを把握しなければ、どんなに整備されたデータ基盤があっても、それはただの「立派な箱」に過ぎません。

その意味で、彼女が現場に足を運んだ行為は、非常に本質的なアプローチでした。データ利活用を通じて成果を出すには、まずどこに改善の余地があるのか、どこにデータを活かせる可能性が眠っているのかを、現場の肌感覚を通じて掘り起こすことが出発点になります。

今回注目したのは、手作業で負担が大きい業務でした。これはとても良い着眼点です。現場の人たちにとっては日常的すぎて問題だと気付いていない作業でも、外からの視点で見れば、非効率なプロセスであることが浮かび上がることがあります。手入力や転記、紙からの読み取りといった作業は、改善によるインパクトが大きい典型です。こうした作業の自動化は、単なる業務効率化に留まらず、そこから得られるデータの即時性や信頼性向上にもつながります。そうした小さな成功体験の積み重ねが、データ利活用の社内浸透にとって非常に重要なステップになります。

データ利活用で成果を出すには、現場の業務を知り、どこにデータを活かす余地があるのかを共に考える姿勢が不可欠です。そして、その第一歩は、机の上で戦略を練ることではなく、実際に現場に出向いて話を聞くことです。自分の目で見て、耳で聞いて、肌で感じることで、初めてデータと現場の接点が見えてきます。

よしむら@データマネジメント担当
IT業界、金融業界、エンタメ業界でデータマネジメントを担当した経験を持ち、現在もデータマネジメント担当している。データマネジメント業界を盛り上げるために、経験を通して得た知識の発信活動を行っている。


本記事は「よしむら@データマネジメント担当」さんのデータマネジメントを学べることをコンセプトの4コマ漫画「AI事務員宮西さん–データ組織立ち上げ編」のコンテンツを許可を得て掲載しています。

 

特集|AI事務員宮西さん(データ組織立ち上げ編)

保険会社で事務員として働く宮西さんは、会社がAI時代に対応するために新設したデータ部門に突然配属されました。事務員からデータマネジメントのリーダーへと成長していく宮西さんの奮闘記を描いた物語。

本シリーズ「データ組織立ち上げ編」では、宮西さんがデータ利活用組織を立ち上げるまでの挑戦を描きます。IT業界、金融業界、エンタメ業界でデータマネジメントを担当した経験を持つ著者「よしむら@データマネジメント担当」さんが豊富な経験を基に執筆しています。データ組織の一員の皆様には、ぜひご一読ください。

本特集はこちらへ
×

メルマガ登録をしていただくと、記事やイベントなどの最新情報をお届けいたします。


データ活用 Data utilization テクノロジー technology 社会 society ビジネス business ライフ life 特集 Special feature

関連記事Related article

書評記事Book-review

データのじかん公式InstagramInstagram

データのじかん公式Instagram

30秒で理解!インフォグラフィックや動画で解説!フォローして『1日1記事』インプットしよう!

おすすめ記事Recommended articles

掲載特集

デジタル・DX・データにまつわる4コマ劇場『タイムくん』 デジタル・DX・データにまつわる4コマ劇場『タイムくん』 データのじかんをもっと詳しくデータのじかんフィーチャーズ データのじかんをもっと詳しく データのじかんフィーチャーズ 「47都道府県47色のDXの在り方」を訪ねる『Local DX Lab』 「47都道府県47色のDXの在り方」を訪ねる『Local DX Lab』 DXの1次情報をを世界から『World DX Journal』 DXの1次情報をを世界から 『World DX Journal』 データで越境するあなたへおすすめの『ブックレビュー』 データで越境するあなたへおすすめの 『ブックレビュー』 BIツールユーザーによる、BIツールユーザーのための、BIツールのトリセツ BIツールユーザーによる、BIツールユーザーのための、BIツールのトリセツ CIOの履歴書 by 一般社団法人CIOシェアリング協議会 CIOの履歴書 by 一般社団法人CIOシェアリング協議会 なぜ、日本企業のIT化が進まないのか――日本のSI構造から考える なぜ、日本企業のIT化が進まないのか――日本のSI構造から考える 日本ビジネスの血流である帳票のトレンドを徹底解説 日本ビジネスの血流である帳票のトレンドを徹底解説 データを武器にした課題解決家「柏木吉基」のあなたの組織がデータを活かせていないワケ データを武器にした課題解決家「柏木吉基」のあなたの組織がデータを活かせていないワケ BI(ビジネスインテリジェンス)のトリセツ BI(ビジネスインテリジェンス)のトリセツ 入社1年目に知っておきたい差が付くKPIマネジメント 入社1年目に知っておきたい 差が付くKPIマネジメント CIOLounge矢島氏が紐解くトップランナーたちのDXの“ホンネ” CIOLounge矢島氏が紐解く トップランナーたちのDXの“ホンネ” データのじかん Resources越境者のためのお役立ち資料集 データのじかん Resources 越境者のためのお役立ち資料集 AI実装の現在地点-トップITベンダーの捉え方 AI実装の現在地点-トップITベンダーの捉え方 データでビジネス、ライフを変える、面白くするDATA LOVERS データでビジネス、ライフを変える、 面白くするDATA LOVERS データマネジメント・ラジオ by データ横丁 データマネジメント・ラジオ by データ横丁 データのじかんNews データのじかんNews データ・情報は生もの!『DX Namamono information』 データ・情報は生もの! 『DX Namamono information』 ちょびっとラビット耳よりラピッドニュース ちょびっとラビット耳よりラピッドニュース AI事務員宮西さん(データ組織立ち上げ編) AI事務員宮西さん(データ組織立ち上げ編) 藤谷先生と一緒に学ぶ、DXリーダーのための危機管理入門 藤谷先生と一緒に学ぶ、DXリーダーのための危機管理入門 生情報取材班AI時代に逆行?ヒトが体感した「生情報」のみをお届け! 生情報取材班AI時代に逆行?ヒトが体感した「生情報」のみをお届け! データはともだち 〜怖くないよ!by UpdataTV Original データはともだち 〜怖くないよ!by UpdataTV Original データ飯店〜データに携わるモノたちの2.5thプレイス by UpdataTV〜 データ飯店〜データに携わるモノたちの2.5thプレイス by UpdataTV〜 インサイトーク〜データで世界を覗いてみたら〜by WingArc1st + IDEATECH インサイトーク〜データで世界を覗いてみたら〜by WingArc1st + IDEATECH データの壁を越え、文化で繋ぐ。データ界隈100人カイギ データの壁を越え、文化で繋ぐ。データ界隈100人カイギ
close close