

博士後期課程を説明するにあたり、大学院の全体像を説明したい。大学院とは、学部で学んだ知識を基に、発展的・専門的な研究を行う教育機関である。博士後期課程は、大学院にある一課程だ。
学部から、大学院へ進学すると、博士前期課程に在籍する。博士前期課程の標準修業年限は2年である。30単位を修得し、修士論文を提出・合格すると、修士号が得られる。しかし、修士号では研究職に就くことは難しい。
研究職に就くには、博士後期課程に進学する必要がある。博士後期課程の標準修業年限は3年だ。30単位を修得し、博士論文を提出・合格すると博士号が得られる。国際的にも、研究職への就職には、たいがい博士号が必要だ。
ところで、大学院に在籍しなくても博士号は取得できる。博士論文の審査に合格すれば、博士号を取得できるのだ。大学院に在籍し、博士論文を提出・審査し、合格した際に授与される学位を「課程博士」、大学院に在籍せず、博士論文を提出・審査し、合格した際に授与される学位を「論文博士」という。なお、修士号の取得には、大学院に在籍する必要がある。
ちなみに、私は国立大学で修士号を取得した。しかし、博士後期課程には進学しなかった。あくまでも、私の主観だが、野球に例えると、卒業論文は高校野球、修士論文は大学野球ないし社会人野球、博士論文はプロ野球といった感じだ。つまり、修士論文と博士論文の間には、相当の差が存在するのだ。

ここからは、博士後期課程の生活ぶりを知るべく、文部科学省が調査した「令和4年度『先導的大学改革推進委託事業』博士(後期)課程学生の経済的支援状況に関する調査研究」を用いたい。調査期間は2022年12月~2023年2月。博士後期課程の学生の回答率は18.8%(75,295名中14,166名)だった。学生の属性は約35%が課程学生、約36%が社会人学生、約23%が留学生である。なお、アルバイトやパートは、社会人学生には含まれていない。
課程学生が学内で収入を得る方法として、TA・RA業務が挙げられる。TAは教育補助、RAは研究補助だ。課程学生でTA・RA業務に従事していない人は37%だった。残りの63%はTA・RA業務を両方、もしくはどちらかに従事していた。TAとRAでは、収入差がある。TA従事者のうち約53%は、年間10万円未満しか得ていない。

※出典:文部科学省「令和4年度「先導的大学改革推進委託事業」博士(後期)課程学生の経済的支援状況に関する調査研究(概要)」
一方、RA従事者は年間収入10万円未満(17%)、20~40万円未満(20%)が存在する一方、100万円以上は13%だ。

※出典:文部科学省「令和4年度「先導的大学改革推進委託事業」博士(後期)課程学生の経済的支援状況に関する調査研究(概要)」
次にアルバイトだ。アルバイトもしくは副業をしていた学生は35%である。アルバイト・副業従事者のうち、30%は年間100万円以上の収入を得ていた。年間100万円未満は53%である。なお、アルバイト・副業に従事する理由のうち、81%が「生活費を稼ぐため」と回答した。
大学院生の頼みの綱のひとつが、学部と同じく、日本学生支援機構の奨学金である。しかし、奨学金制度の利用は意外と少なく、15%しかない。年間貸与額は120~180万円未満が最も多かった。なお、日本学生支援機構の奨学金は条件をクリアすれば返済が免除されるが、受給者のうち、52%が2022年度も貸与を受ける一方、免除の内定は受けていない。大学では年間授業料の減免も行っているが、減免を受けていたのは35%だった。
最も注目すべき項目は、その他の経済的支援である。「受けていた」と回答したのは30%だった。受けていた経済的支援のうち、20%超だったのが、大学独自の給付金制度(給付型)と次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)であった。続いて、16%台が日本学術振興会特別研究員(DC)と民間団体(企業等)等の奨学金制度(給付型)であった。年間受給額は60万円未満(22%)、60~120万円未満(17%)、120~180万円未満(18%)、180~240万円未満(17%)、240万円以上(15%)であった。

※出典:文部科学省「令和4年度「先導的大学改革推進委託事業」博士(後期)課程学生の経済的支援状況に関する調査研究(概要)」
まとめると、TA・RA業務+授業料減免+その他の経済的支援(給付型)の1人あたりの総受給額は「支援なし」が最も高く37%、次いで60万円未満が23%だった。一方、生活費相当額(180万円以上)は16%にとどまっている。参考までに、博士課程の学生に関して、学費+生活費の年間平均支出は223万円である。多くの学生は、家族の仕送りやアルバイトで何とか賄っていることが伺える。また、在籍期間が長ければ長いほど、「支援なし」の割合が増えていることも興味深い。

先ほど見たその他の経済的支援(給付型)のうち、それなりのウエイトを占めていたのが日本学術振興会特別研究員(DC)であった。私は博士後期課程には進学しなかったが、それでも先輩からは「学振」というワードが聞こえてきた。また、研究者にとっても、無視できないのが学振の給付金である。しかし、採択率が下がっていることに対し、大学院生や研究者から嘆きの声が聞こえる。ここでは、学術振興会特別研究員(DC)の実態を見ていきたい。
そもそも、日本学術振興会とは、学術研究の助成、研究者の養成のための資金の支給、学術に関する国際交流の促進、その他学術の振興に関する事業を行うため、2003年に設立された独立行政法人である。2003年以前は特殊法人であった。
博士後期課程の学生に関係する給付金制度が、日本学術振興会特別研究員(DC・PD・RPD)である。特別研究員制度が採択されると、生活費(研究奨励金)に加え、研究費(特別研究員奨励費)を獲得できる可能性がある。
このうち、修士2年春に申請するDC1は、研究奨励金が月20万円、特別研究員奨励費が最大300万円(期間)、博士1年・2年春に申請するDC2は、研究奨励金が月20万円、特別研究員奨励費が最大450万円(期間)が支給される。支援期間はDC1が博士課程3年間、DC2が翌年4月から2年間だ。給付額を見ると、TA・RAやアルバイトよりも高く、学生にとって魅力的に映るのは無理もない。
しかし、特別研究員制度に採択されるには、二段階の書類選考を通過する必要がある。この書類選考が難関なのだ。2025年度の採用率はDC1が14.3%、DC2が14.7%であった。なお、DC1の採用率の推移は20.4%(2021年度)→18.5%(2022年度)→17.3%(2023年度)→15.1%(2024年度)→14.3%(2025年度)。
採用率が高かった2023年度のDC1の申請者は3,991名(採用者691名)、2025年度のDC1の申請者は4,591名(採用者694名)。2023年度のDC1の申請者は3,991名(採用者691名)、2025年度のDC1の申請者は4,959名(採用者708名)だった。

SNSでは「国は博士後期課程の学生への支援が薄い」という類の投稿が見られる。しかし、国も手をこまねているわけではない。2021年には、次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)がスタートした。SPRINGの影響もあるのだろう。20年以上下がり続けてきた博士後期課程の進学者数が、2023年度・24年度は増加に転じた。
それでも、博士後期課程の学生の経済状態は良好ではない。学生への支援の必要性を感じる。しかし、在籍年数が長ければ長いほど、その他の経済的支援が「支援なし」の割合が増えている点も留意しないといけない。ひょっとすると、在籍年数が長い学生は、給付金の申請をする余力すら残っていないのかもしれない。優秀な学生には支援を手厚くする一方、展望が開けない在籍年収が長い学生には、早期にアカデミック以外の道を示すなど、メリハリのあるサポートが必要なのだろう。
(TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之)
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