


11月14日、中国外務省は台湾有事をめぐる高市首相の発言をめぐり、中国国民に対し、日本への渡航を自粛するように呼びかけた。報道によると、中国からの団体ツアーのキャンセルはあるものの、個人客は依然として訪日しているという。そんな中、中国外務省は12月11日、12月8日に青森県東方沖で発生した地震を理由に再度の日本への渡航自粛を呼びかけた。
政府観光局によると、自粛呼びかけ前の10月は多くの中国人が日本を訪れた。10月に訪日した外国人観光客数は同月過去最高となる389万人であった。このうち、中国人は71万人であり、全体の2割弱を占める。中国人に限ると、前年同月比は+ 22%という大幅な伸びだ。1月~10月では、前年比+40.7%で、前年からの伸び率ではロシアに次いで第2位。ようするに、多くの中国人が訪れている状況だったのだ。
それでは、自粛勧告が発表された11月はどうだったのだろうか。11月25日に発表したホテル・不動産事業を手掛けるポラリス・ホールディングス株式会社の資料「ホテル運営状況に関するお知らせ(2025 年 10 月度)」を参考にしてみよう。同資料によると、一部のホテルにおいて中国人団体客のキャンセルがあったが、個人客については大きな変動は起きていない。参考までに、ポラリス・ホールディングスが運営する国内にあるホテルの延販売客室数のうち、2025年4月~10月までの期間において、中国(香港も含む)からの宿泊客は13.5%を占めた。このうち、中国団体客は1%にも満たないという。そのため、団体客のキャンセルはホテルの経営にそれほど響いていないといえる。
12月11日に中国外務省が発した再度の自粛勧告から察すると、私が記事を執筆している12月中旬時点では、極端に中国人観光客が少なくなっていることではなさそうだ。

とはいえ、実際には中国人観光客のキャンセルは存在し、少なくとも今後しばらくは大幅な中国人観光客の伸びは期待できない。当然ながら、今後の需要を見越して宿泊料金が決まるわけだから、東京の宿泊料金が下がる可能性もある。そこで、予約サイト「Booking.com」を使い、東京の宿泊料金を調べてみた。調査日は12月11日、宿泊予定日は2026年1月19日から20日の1泊2日である。
エリアを「東京都心」に設定すると、だいたい3割くらいの宿泊施設が、割引価格となっている。最初に設定した価格に二重線が引かれ、新しい価格が明記されている。筆者がホテルで働いた経験から述べると、予約が芳しくない状況は、直前であっても価格を変更するケースも珍しくはない。このような背景からも気になるデータは「割引率」であり、その平均は1~2割が多いようだ。一方、なかには2割以上も割引き、半値に近い宿泊施設も存在する。さらに、興味深いことに、ざっくりとした傾向ではあるが、割引率の大小は地域によっても異なるのだ。
先ほどの「東京都心エリア」において、割引価格表示の50施設のうち、2割引を超える宿泊施設は4割弱だった。一方、「上野・浅草・千住・両国」エリアでは、割引価格表示の施設の大半が2割引を超えた。たとえば、つくばエクスプレス線浅草駅近くにあるホテルでは、スタンダード・ダブルルームが1泊36,120円を27,090円で販売している。また、都営地下鉄浅草線・蔵前駅近くにある3つ星ホテルでは、スタンダード・ダブルルームが20,250円から13,365円(2人利用)・14,247円(1人利用)になっている。
一方、池袋駅周辺の宿泊施設も割引表示の施設はあるが、2割引を上回る割引率の施設は見当たらなかった。大田区では羽田空港近くに割引価格の宿泊施設がある。京急空港線・大鳥居駅近くにあるビジネスホテルでは、ダブルルームが26,000円から15,000円近くまで下がっている。
一方、ホテルの規模、形態と割引率との間に相関関係は見当たらなかった。ただし、都心であっても1泊1万円を切るビジネスホテルが出現したことは明記しておきたい。また、今回は平日で調べたが、平日と土日では宿泊施設の価格は大きく変わる。

少なくとも平日は落ち着いた感じがする東京の宿泊施設だが、本当に中国の渡航自粛が効いているのだろうか。ここでは、東京都が今年6月に発表した「令和6年国・地域別外国人行動特性調査結果」を利用する。このデータを見れば、完璧ではないが、東京都心での中国人観光客(香港は含まない)の動向が把握できる。
東京都心で中国人が最も訪れた場所は以下の通りだ。1位:銀座(52.2%)、2位:渋谷(46.0%)、3位:浅草(42.8%)、4位:秋葉原(41.5%)、5位:新宿 大久保(38.9%)、6位:東京駅周辺 日本橋 丸の内(33.3%)、7位:原宿 表参道 青山(28.3%)、8位:上野(26.6%)、9位:池袋(26.0%)、10位:六本木 赤坂(17.7%)だ。ちなみに、香港人は1位が新宿・大久保であり、浅草は第5位だ。浅草を最も好む国(地域)は台湾(46.4%)だ。一方、中国人が最も好む銀座を1位に挙げる国はなかった。国別に1位となった場所は渋谷であった。
さて、中国人は銀座を好むということから、銀座にある宿泊施設が値下がりしているかもしれない。先ほどの調査だと、確かに割引価格を表示する銀座の宿泊施設はあるが、浅草ほど割引率は高くない。少なくとも、劇的に下がったという感じはしない。
また、コロナ禍以降、都を訪れる中国人観光客の中で、団体旅行者の割合はそれほど多くない。中国人客に占める個別手配の割合は8割を占める。
したがって、今回の渡航自粛の呼びかけによる東京都の宿泊施設の価格への影響はそれほど大きくなく、大幅に下がることはない、というのが私の予想である。一方、中国人観光客が大幅増になることもなく、宿泊施設の価格が大幅にアップすることはないだろう。
ただし、何かしらの政治的な理由で、個人旅行が大幅に減少すると、宿泊施設にとっては大きなダメージになる。それは、単に中国人観光客が多いからだけではない。都のデータによると、中国人観光客のうち5割弱が2回以上訪れている。また、年齢層では男性、女性ともに20代が最も多い。つまり、宿泊施設にとっては潜在的なリピーター客が望めるのが中国人観光客なのだ。参考までに、台湾は男性、女性ともに30代が最も多い。
今後は、宿泊サイトをこまめにチェックすることはもちろん、東京大好きな中国人個人旅行者の動向に要注目である。
(TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之)
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