

目次
最初に取り上げるのは、Pluralityとは何かについて。

違った言葉を使い、異なった能力を持ち、多様な欲望を持ち、それぞれの正義を抱える我々。また、その考え自体、家族といるとき、公共の空間にいるとき、働いているときなど場面場面によって流動的に変化します。しかし、私たちの社会はその仕組み上、均質化され、単純化された社会像に従って運営されてきました。
そんな従来のあり方を超えた社会の設計思想として提示されているのが‟Plurality”です。
ほとんどの国は、利用可能な情報システムの限界のため、そのような価値観と真っ向から衝突し、一元論的アトム主義の型に従って、社会制度を均質化し単純化せざるを得ない。⿻社会科学とその上に築かれた⿻の大きな希望は、ITの潜在能力を利用してこれらの限界を次第に克服することなのだ。
※引用元:Part 3-3 Plurality:失われた道|『PLURALITY 対立を創造に変える、協働テクノロジーと民主主義の未来』日本語版
※上記における⿻とは、Pluralityのこと。書籍では、Pluralityに対しても一義的な意味を与えず、より普遍的に概念を伝えるため記号⿻を用いて表現されている。

Plurality(⿻)は、「違いを持ち、変化する我々がそのままで協働できる社会をつくること」と言えるでしょう。そこでは、異なる価値観や文化、知識体系をもつ複数の“世界(plural worlds)”が、互いを排除せず、部分的に重なり合いながら共に進化していく関係性が重視されます。
しばしば混同されるDiversity(多様性)やConsensus(全会一致)が「違いの存在を認めること」「皆の同意を得ること」だとすれば、Plurality(⿻)は「違いを前提に社会を前に進めるための仕組み」により近い概念です。
この理念を象徴するのが、書籍『PLURALITY』の制作のあり方そのものです。GitHub上で世界中の参加者が加筆・翻訳・修正を行い、著作権をCC0(完全にパブリックドメイン)として公開。執筆者のそれぞれの立場や母言語を越えて、“みんなで書く”というプロセスそのものがPluralityの実践となっています。読者は消費者ではなく、著者と同じ立場でこの思想を拡張する一員なのです。
Plurality(⿻)の思想は、二つの潮流の融合によって生まれました。
一つは、オードリー・タンが率いる台湾のデジタル民主主義運動。g0v(ガブゼロ)やvTaiwanといった市民プラットフォームを通じて、オンライン上で意見を集約し、ポリス(https://pol.is/home)というツールで合意を可視化することで、政府政策に市民の声を反映させる試みが続けられてきました。
もう一つは、経済学者E.グレン・ワイルが主導する「RadicalxChange」運動。市場や投票制度をより公平に再設計するためのメカニズムデザイン研究であり、クアドラティック・ボーティング(累乗投票)などの新しい仕組みを提唱しています。
この二つの潮流が交わる地点で、Plurality(⿻)は生まれました。市民テクノロジーと制度設計の知見を組み合わせ、「協働を増幅するテクノロジー」をどう設計するかという実践的課題に挑むプロジェクトこそ、Plurality(⿻)なのです。

Plurality(⿻)がユニークなのは、「違った人々がどう協働できるか」をコード(技術)とメカニズム(制度)で設計しようとしている点です。
では、実際にそれはどう実現されるのか?
ここからは、Plurality(⿻)が実際に社会に実装される具体例をご紹介します。
よく言われることですが、通貨とはそれ自体に価値があるものではなく「信用」や「感謝」を交換可能な形とするために利用するツールに過ぎません。Plurality(⿻)マネーでは、この「信用」や「感謝」といった社会的なつながりそのものを、より多様で柔軟な形で可視化・共有しようとしています。
たとえば、その一種として挙げられるのが、地域活動や教育、創作支援など、目的の異なるコミュニティがそれぞれの文脈に合わせたトークンやポイントを発行し、参加者の貢献度に応じて交換・評価するような仕組みです。これらの通貨は部分的に相互利用できるものの、あくまで各コミュニティの合意のもとで運用され、外部の普遍通貨とは自動的に換算されません。
そうすることで、これまでの通貨に合った不公平感や格差の問題を解消し、直接的な貢献と恩恵のやり取りを可能にするというわけです。その際、ブロックチェーンや分散型IDなどの技術を活用し、誰が誰にどのような貢献をしたかを安全に記録・可視化する技術が貢献します。
上記の内容は「Part 4 Freedom 4-3:商取引と信頼」で触れられています。
従来の投票には、2つの主要な選択肢のうちどちらも賛成ではないが選ばざるを得ない場合がある、投票の参加者ごとに関心の度合いは異なるといった問題があります。
Plurality(⿻)投票では人それぞれの思いや関心の強さを反映するなど、「1人1票」で多数決を取るこれまでの仕組みを更新するアイディアが盛り込まれています。
たとえば前述の「クアドラティック・ボーティング」では、投票の数を増やすほどコストが高くなる仕組みを取り入れ、強い関心を持つ人ほど多く票を入れられるようにします。これにより、単なる“数の多さ”ではなく、“思いの強さ”も判断に反映できます。また、「液体民主主義(LD)」では、自分の票を信頼する人に委ねることができます。たとえば、環境問題なら専門家に、地域政策なら地元代表に票を託すといった柔軟な参加が可能になります。
適応型代表制、予測投票、クアドラティック液体民主主義などより先を見据えた方法も書籍では提案されています。
上記の内容は「Part 5 Democracy 5-6:⿻投票」で触れられています。
人が人を評価するのは容易なことではありません。そのため、学歴や資格、前職といった情報からしかその人材を判断できず、異分野や地域コミュニティでの実績や意外にマッチする特性が判断しづらいという問題が存在しています。
Plurality(⿻)採用では、人それぞれの“文脈に根ざした貢献”を可視化し、相互に翻訳して比較できるように従来の採用を刷新します。
たとえばAIと社会IDを用いてその人物の様々な資格や実績を改ざん耐性のある形で束ね、第三者検証つきで提示、多様な文脈で翻訳すれば、どんな職場でもその人物の能力を正当に評価できる扉が開かれます。また、感覚や体験までも共有できる採用体験を実現すれば、候補者に職場環境や働き方をより深く理解してもらうことができ、ミスマッチの大幅な改善につながると考えられます。
また、AIに評価をゆだねることで権限も貢献度や適性に合わせて柔軟に与えられるなど、組織のあり方自体も進化する未来が書籍では描かれています。
上記の内容は「Part 6 Impact 6-1:職場」で触れられています。
3つの分野でPlurality(⿻)の具体的アイディアをご紹介しました。書籍ではこのほかにもメディア、学習、保健医療、環境などさまざまな分野におけるPlurality(⿻)が紹介されています。
その内容に特に批判的に触発された場合は、Gitのプルリクエストを通じて変更を送信するか、多数の貢献者のひとりに連絡してコミュニティの一員になることで、このドキュメントとそのすべての翻訳の生きたコミュニティ管理の継続に貢献してほしい。この作業に対する批判者の多くが、オープンソースのマントラ「だったらおまえが修正しろ! (so fix it!)」に触発されることを願う。
※引用元:Part 5 Democracy:協働テクノロジーと民主主義 『Plurality:協働テクノロジーと民主主義|『PLURALITY 対立を創造に変える、協働テクノロジーと民主主義の未来』日本語版
上記の記述にあえて反する形で書籍『PLURALITY』への批判を展開するとすれば、基本的なITの知識や専門用語の混じった長い文章を読み解く根気、好奇心などがなければ手を出しづらいという点が挙げられます。
元の文章は英語、日本語、タイ語、中国語などに翻訳して展開され、CC0ライセンスにより自由に翻訳、改変、配布が許されているわけですが、読者一人一人のリテラシーや立場によって「多元」なバージョンが展開されなければ『PLURALITY』が真にPlurality(⿻)性を体現したとは言えないでしょう。
本記事も、同書を翻訳する多元的な試みの一種であり、それゆえに元の書籍からあえて切り捨てたニュアンスも、新たに追加された視点も存在します(たとえば、「Plurality(⿻)の三部構成」の話題などはあえて切り捨て、なるべく明快な定義を心掛けています)。
ぜひ、ChatGPTや、Claude、Google NotebookLMなどのAIサービスやScrapbox上でコメントを書き込みながら読み進められるPlurality和訳も活用し、あなたの『PLURALITY』を創造・構築しながら読んでみてください。
書籍『PLURALITY』の書評をベースに、Plurality(⿻)という概念やその実践例、真に理解するための読書法などについて語ってまいりました。安野貴博氏が党首を務める「チームみらい」が重要な活動の基盤とするなど、日本でもPlurality(⿻)が実践フェーズへ入りつつあります。
同書を読むことで、あなたの中に新たなPlurality(⿻)が生まれます。実践としての読書に、ぜひあなたも着手してみてください!
(宮田文机)
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