世界が注目するスタートアップハブ「FGN」事務局長 池田貴信さんに聞く!福岡の「場づくり」のしかたとは?–スタートアップが育つエコシステムのつくり方:第3回 | データで越境者に寄り添うメディア データのじかん
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世界が注目するスタートアップハブ「FGN」事務局長 池田貴信さんに聞く!福岡の「場づくり」のしかたとは?–スタートアップが育つエコシステムのつくり方:第3回

日本では起業家が「出てこない」とよく言われます。しかし、実のところ「出てきても育たない」のが現状です。このシリーズではスタートアップを育てるために欠かせないエコシステムに注目します。

シリーズ3回目となる今回は、2012年9月に「スタートアップ都市ふくおか」を宣言した福岡市で、2017年からスタートアップの「場づくり」をしてきた官民共働型支援施設「FGN(Fukuoka Growth Next)」にフォーカス。閉校した小学校校舎を改築したユニークな建物を拠点とするFGNを訪れ、事務局長の池田貴信さんにスタートアップのエコシステムを醸成するためにしてきたこと、これからの野望についてお聞きしました。

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「天神ビッグバン」と命名された再開発事業がすすむ福岡市の中心・天神エリア。100年に1度ともいわれるほど大規模なものであり、2030年代までにおよそ100棟ものビルの建て替えが見込まれています。

そんな変わりゆく天神エリアにあって、築90年以上の歴史を誇る旧大名小学校の校舎に拠点を置く官民協働型のスタートアップ支援施設がFGNです。2012年に「スタートアップ都市ふくおか」を宣言して今年で12年目、当初は「背伸び」の感が強かった肩書きがここ数年はすっかり身の丈に合ってきたのには2017年に設立されたFGNの存在がありました。

FGNには小学校時代の面影が随所に残る一方で、最先端のアートも融合している。取材当日、隣接する福岡大名ガーデンシティでは「RAMEN TECH」というイベントが開催されており、その賑わいが一層印象的だった。

「ヒトもカネも集まりやすい東京ではなくなぜ福岡なのか?」を自問自答しながら歩んできた」変遷と、「スタートアップ都市ふくおか」は今後何を目指すのか、FGN事務局長の池田貴信さんにお話をうかがいました。

「支店経済」からの脱却が官民の共通認識だった

FGN運営委員会事務局長 池田貴信さん

─池田さんのご経歴を教えてください。

池田貴信さん(以下、敬称略)「FGN運営委員会事務局長。2008年福岡地所株式会社入社後、リバーウォーク北九州やキャナルシティ博多のプロジェクトなどを歴任しました。その後、同社リーシング業務、社長室、開発事業本部を経て、2017年よりFGN運営員会副事務局長、2024年現在はFGN運営委員会事務局長を務めています」

─「スタートアップ都市ふくおか」は、そもそもはどのようにして始まったのでしょうか?

池田「『スタートアップ都市』を宣言したのは2012年からですが、現職の高島宗一郎福岡市長が初就任した2010年からその土壌を築く施策が行われていました」

池田さんによると、高島市長は就任間もない2011年にシアトルを視察し、マイクロソフトやアマゾン、スターバックス、コストコなどのグローバル企業がニューヨークではない別の拠点で生まれていることに衝撃を受けたそうです。

池田「当時はリーマンショック直後ということもあり、官民問わず、福岡市も『支店経済』から何とか脱却しないと東京の景気に左右されてしまう、という共通意識も持っていました。そこで、目指すべきなのは単に外から大企業を誘致するのではなく、福岡で企業を生み出し、育てることだという現状認識の上にスタートアップに対する熱は徐々に高まっていきました。高島市長は今も現職のため、その温度感はずっと続いています」

■支店経済都市

全国規模で展開する企業の支社、支店、子会社などが集中している地方都市のこと。該当地域の全事業所における支店の割合が高い都市を指し、福岡市のほか仙台市や広島市、首都圏の政令指定都市に集中するケースが多い。

2011年に始動したのが「異種交創」を体現するムーブメントとして毎年開催されるようになったフェスティバル・イベント「明星和楽」です。そして、2012年には孫正義さんの弟であり、投資家・実業家である孫泰蔵が橋渡し役となり、民間のさまざまなポジションのメンバーと行政が交わるコミュニティが作られていきました。

関連リンク|http://myojowaraku.net/

池田「今から考えると早い段階で行政が参加するエコシステムで形成されたのが福岡のスタートアップ支援の特徴だったように思います。1人につながれば、そこからさらにどんどんつながっていける、コンパクトシティならではのコミュニティが生まれました。そして、ついに同年『スタートアップ都市・ふくおか宣言』がなされたんです」

その後、2014年には、起業の裾野を拡大すべく「スタートアップカフェ」が開設。これは、先だって佐賀の武雄図書館で「場づくり」に成功していたカルチュア・コンビニエンス・クラブに福岡市が委託することで始まりました。

関連リンク|https://takeo.city-library.jp/

池田「1年365日夜10時まで相談に乗ってくれるスタートアップカフェには自然と起業家たちが集まり、商工会議所ではなかなか相談できない困りごとや悩みを相談できるようになりました。このように福岡市が積極的に起業家たちの声にとにかく耳を傾けてくれることで、起業の文化が根付き始めたように思います」

─行政と民間がしっかりタッグを組んで、スタートアップ支援がなされてきたんですね。どのように2017年のFGN設立につながったんですか?

池田「起業家たちが集まれる場は作ったものの、いざ本当に起業したいときにサポートできる支援組織がないことに気づかされ、それがFGN発足につながりました。バタバタで準備したため、1年半後には解体予定だった旧大名小学校の校舎にとりあえず入居しようということになり、支援企業を募集したところ、40室に対して180社もの応募があり、手ごたえを感じました」

池田「その後、起業にはエンジニアの力が欠かせないと考え、エンジニア集団を募ろうとしたんです。しかし、エンジニアからは『俺たちはスタートアップの道具じゃない』と不満の声が。そこでエンジニアの声を聞くために集まったのがラーメン屋『一風堂』。店を貸し切り、ひざを突き合わせて話しました。この流れが2019年の『エンジニアカフェ』のオープンにつながりました」

■Engineer Cafe(エンジニアカフェ)

2019年8月にオープンしたエンジニアのための交流、作業、イベント、学習施設。コワーキングスペースのほか、レーザー加工機・3Dプリンター・CNCフライス盤などの専門機材を備えた作業場、イベントスペース、カフェバーなどを設けてエンジニアの成長やビジネスの創造を支援している。

池田「FGNは旧大名小学校校舎でしたが、エンジニアカフェも110年の歴史を誇る赤煉瓦文化館内にオープン。いずれも建築費をかけずに、既存の歴史建造物に活用したため、コストも最小限に抑え、スピーディに支援を進められたように思います」

FGNはマネジメントしないコミュニティ

─2017年のオープン以来、FGNはどのように活動してこられたのでしょうか?

池田「正直、今でもずっと自分たちがどこに向かっているのかずっと分かりません。でも、とにかく一生懸命やってきた。一生懸命にやっているから課題がでてくるし、出てきた課題にひたすら取り組み続けてきました。それでもスタートアップカフェ利用者の起業数や新規事業所数が増加しているのは、行政と民間が同じ方向を向いて活動してきたからこそだと思います」

池田さん言葉の裏側には福岡市のスタートアップ支援が始まったばかりの頃から変わらない姿勢もあるといいます。

池田「当時、スタートアップ支援の立ち上げに関わっていただいていた小笠原治さんに『コミュニティはマネジメントするもんじゃない。コミュニティはマネジメントした瞬間、壊れる』と言われたんです。そのアドバイスを受けて生まれたFGNの支援のスタンス、敢えてマネジメントをしない』という共通認識を今でも持ち続けてます。FGNは福岡市に加えて10社くらいのジョイントベンチャー(JV)でやっていますが、それぞれが「運営事務局」の中でフラットな関係でつながっています。間違いに気づいたらお互いに正せるし、みんなの考えでやっているので暴走しないんです」

■小笠原治氏

起業家、投資家。現在は京都芸術大学教授。1998年より、さくらインターネット株式会社の共同ファウンダーを経て、ネット系事業会社の代表を歴任。代表を務める「株式会社ABBALab」は、2019年にFGNの運営企業の1社である福岡地所と「FGN ABBALabファンド」を設立。
https://www.kyoto-art.ac.jp/info/teacher/detail/1762357

池田「大切なことは、他都市と比較しないことだと思います。真似してもうまくいきません。福岡だからこそうまくいっている要素がある以上、スタートアップを支えるエコシステムも福岡流にカスタマイズするしかないのです」

広げた裾野に高みを出すのが今後の課題

─今後の課題は何ですか?

池田「『スタートアップ支援のゴールとは何か』を模索しています。2017年にスタートしたときは、『将来のユニコーンを生み出す』だったんですが、ユニコーンどころか上場に近いスタートアップに出会えない状況でした。あまりに背伸びし過ぎました」

池田「そこで、2019年からスタートした2期では『もっと足元を見なければ』ということになり、「スタートアップの裾野を広げる」ことが課題だと認識し、『未来のユニコーン企業』を100社生み出すことをビジョンに掲げました」

FGNは2024年から第3期を迎えています。FGNの入居企業・卒業企業と福岡市に登記されているスタートアップを含めると、時価総額10億円を超える企業は100社以上になりました。そこで今期のFGNは「福岡を代表するスタートアップを創出」をミッションに掲げました。

池田「これまでの『福岡市って行政がスタートアップ支援を頑張っている』から、スタートアップ企業名から福岡を想起してもらえるような形にシフトしていきたいと考えています。そのためには、民間企業がもっと積極的にスタートアップに絡んで、FGNの35社のスポンサーが高いポテンシャルを持つスタートアップを『えこひいき』して投資し、成長を促してほしいと思っています」

池田「また、これまではFGNに入居していたスタートアップが独り立ちし「卒業」することを目標として掲げてきましたが、さらなる高みを目指すためには、「卒業後」も積極的なサポートを継続する必要があると強く感じています。FGNから働きかけることに加え、さらにお互いに常に情報交換を行える体制を構築したいと思っています」

池田「第3期では、そのネットワークから年間10社程度を「High Growth Program」に選び、企業のニーズに合わせて集中的にサポートしています。2024年度は、すで7社を採択していますが、目指すのは起業家たちがこぞってこのプログラムに入りたいと思ってもらえることです」

このように2期で広げた裾野からさらに高みを目指せる企業を集中的にサポートしているのが、FGNの現在の第3期です。

─起業を考えている方々にFGNからメッセージをお願いします。

池田「実は、福岡で起業するとほぼお金がかかりません。福岡市は国の認定を受けて「特定創業支援等事業」を実施していますが、1か月かけて創業に関するセミナーや面談を受けると、国の支援として会社設立の登録免許税は半額になります。また、福岡市の「新規創業促進補助金」を活用すれば、残りの半額も支援してくれます。さらに、FGNに開設している「開業ワンストップセンターでオンライン登記すると、印紙代もかかりません」

池田「上の図が私たちがずっと掲げている「福岡流エコシステム」です。先に述べたように2期がスタートした5年前には「企業価値10億100社」を山頂に据えていたのですが、そのビジョンが実現した今、その時には見えなった景色が見えるようになり、さらに先に「ロールモデルとなるスタートアップの誕生」があることに気づけるようになりました。

そう考えると、いま一番足りないのは「シリアルアントレプレナー(連続起業家)」です。起業家たちは、先輩や経験者から話を聞き、学ばなければ成長できません。今後、このピースがハマれば、福岡のエコシステムはさらに進化するはずです。

もちろん、私たちが目指すのはただ起業しやすい街でなく、福岡でGrowthできるような資金援助を含めたサポートです。まだ、現段階ではまだ出来ていないことが多いので、支援する側も含めて成長しなければと思っています」

■取材後記

池田さんの口から、繰り返し語られたのは「分からない」「手探り」という言葉、そこから感じられたのはサポートする側の誠実で謙虚な姿勢でした。マネージャーがいないコミュニティだからこその難しさがありつつも、だからこそ、そこに集う起業家をはじめとしたプレイヤーたちが自分の居場所を感じ、生き生きとできるエコシステムが醸成されているようにも感じました。

福岡の「リバブル」が起業家たちにとっても魅力といわれますが、それは文字通りの住環境の住み心地の良さだけでなく、そこにいて心地よい「場づくり」がなされていることとも関係しているのかもしれません。

 
池田貴信さんFGN運営委員会事務局長
2008年福岡地所株式会社入社後、リバーウォーク北九州やキャナルシティ博多のプロジェクトなどを歴任。その後、同社リーシング業務、社長室、開発事業本部を経て、2017年よりFGN運営員会副事務局長、2024年現在、FGN運営委員会事務局長の現職。
 
聞き手・執筆:河合良成
2008年より中国に渡航、10年にわたり大学などで教鞭を取り、中国文化や市況への造詣が深い。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。現在は福岡在住、主に翻訳者、ライターとして活動中。
 

(編集:藤冨啓之・野島光太郎 PHOTO:小田賢治)

 

参照元

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