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日本の「起業家不足論」はナンセンス?本当の課題「成長不良」の原因を探る

「日本では起業家が少ない」と言われて久しくなります。この日本経済にとって危機的な現状認識は官民学問わず共有され続けてきました。そして、2022年11月28日に政府はついに「スタートアップ育成5か年計画」を立ち上げ、スタートアップ・エコシステムの発展に本腰をあげて取り組み始めました。

 

ただ、実はデータを眺めていくと、ここ数年の動向を見る限り、日本のスタートアップは決して少ないわけではありません。それではなぜ、「日本では起業家が少ない」と何となく言われ続ける根本的な原因は一体どこにあるのでしょうか?

 

この記事では、日本のスタートアップの現状について振り返り、日本では起業の萌芽があるものの、それが育ちきれない理由を分析します。

         

「日本では起業が少ない」のは本当か?

政府が発表した「スタートアップ育成5か年計画」において、スタートアップは「社会的課題を成長のエンジンに転換して、持続可能な経済社会を実現する、まさに『新しい資本主義』の考え方を体現するもの」とされています。

つまり、スタートアップの出現は日本社会の課題解決と経済成長と密接につながっているということです。そのため、経済成長が鈍化し、さまざまな社会課題が放置されている空気を感じる時、だれもがなんとなく「日本では起業家が少ないからね…」とつぶやいてしまうのかもしれません。その根拠はどこにあるのでしょうか?

日本のスタートアップの現状

よく「日本では起業家が少ない」「スタートアップが育たない」と言われますが、実は日本のスタートアップの数は着実に増えています。

INITIALの『Japan Startup Finance 国内スタートアップ資金調達動向』に掲載されているデータによると、資金調達を行ったスタートアップの数は2013年の1,994社から2019年までは右肩上がりで上昇し、3,400社になりました。

その後、2019年から2022年にかけてはほぼ横ばい状態が続き、2023年は2,828社まで減少しました(2022年は3,675社)ものの、レポートによると、2023年に関しても後から判明する数を考慮すると、前年を上回る可能性が高いとのことです。また、資金調達総額も2013年の907億円から2022年には9,664億円と10倍以上になっています。

※図版:INITIAL「2023 Japan Startup Finance -国内スタートアップ資金調達動向決定版」をもとに編集部作成

スタートアップが育たない2つの大きな要因とは?

本当の注目すべき日本の問題はスタートアップが立ち上がるものの「育たない」ことであり、その大きな要因の1つが資金調達の難しさです。

例えば、海外とよく比較されるのはユニコーン、つまり「起業して10年以内で、評価額が10億ドル以上」かつ「非上場」企業の数です。2023年における各国のユニコーンを比較すると、アメリカ653社、中国(香港を含む)176社で圧倒的な多さを誇るのに対し、日本では7社(2024年3月時点)に過ぎませんでした。

もっとも日本では米国と比較して上場しやすい環境があるため、一概にユニコーンの数だけを比較して、日本でスタートアップが「育たない」と断定はできませんが、資金供給の手段の少なさが大きな壁になっていることは確かでしょう。例えば、2021年のベンチャーキャピタルによる調達額は米国で約36兆円、中国では約14兆円でしたが、日本では約8,000億円程度でした。

そして、スタートアップが育たないもう1つの理由とは、起業家のマインドです。経済産業省は、日本で起業が少ない要因として「失敗に対する危惧」「身近に起業家がいない」「学校教育」を挙げています。これは設立5年以内のスタートアップ起業1,459社に対して実施したアンケート調査に基づいています。

※図版:経済産業政策局「事務局説明資料(スタートアップについて)」をもとに編集部作成

「失敗に対する危惧」の具体的事例として、日本では創業の際、民間金融機関から借入を行うときには、経営者による個人保証を付与することが求められ、起業に失敗するとそのまま多額の借金を抱えるリスクがあります。

一方でスタートアップは社会課題を解決するのに欠かせないプレイヤーと言われながら、他方で失敗すると自己責任で片付けられ、後ろ指をさされてしまう不安感、心理的安全性の欠如こそがスタートアップが育たない根本的な原因といえるでしょう。

「スタートアップ育成5か年計画」とは?

日本の大学ではベンチャーの萌芽が見られ、実際にスタートアップの数は増えているにも関わらず、育ちきれない一つの要因が資金調達の難しさである、という問題意識のもと、2022年に立ち上がったのが、政府の「スタートアップ育成5か年計画」です。この計画では、2027年にはスタートアップの投資額を10倍にすることを最大の目標とし、将来的にはユニコーンを100社創出、スタートアップを10万社創出し、日本がアジア最大のスタートアップハブになることを目指します。

資金調達のハードルを下げるだけでなく、スタートアップエコシステムを創出するためには、上述した起業家のマインドを変革していく必要があります。そのため、「スタートアップ育成5か年計画」では、起業家教育やメンターによる若手育成人材支援を大きな柱に据えています。

まとめ

日本にはスタートアップの萌芽はあるものの、それが育たない理由は資金調達の難しさと起業家のマインドにあることを述べました。また、起業家の心理的安全性を担保するためには容易な資金調達を可能にするエコシステムが欠かせません。

エコシステムが上手に形成されるためには、大学、企業、投資家の連携が重要です。また、また各プレイヤーをつなぐ役割として自治体による取り組みも欠かせません。次回はスタートアップが集まるエリアとして注目されている福岡の事例を取り上げます。

著者・図版:河合良成
2008年より中国に渡航、10年にわたり大学などで教鞭を取り、中国文化や市況への造詣が深い。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。現在は福岡在住、主に翻訳者、ライターとして活動中。

TEXT:河合良成 編集:藤冨啓之

 

参照元

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