About us データのじかんとは?
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「ああ、10年前に戻れたら……」と妄想したことは誰にでもあるのではないでしょうか。
未来に何が起こるかわかっていれば、大手デジタルプラットフォーマーの株を購入し、ビットコインを大量に買い漁り、海外旅行に惜しげなく資金を費やし、そもそもコロナ禍をなんとか阻止したいと筆者は思います。
しかし、それは絵に描いた餅。いま、未来に向けてできることをすべきですよね。そこで知っておきたいのが「フォアキャスト」と「バックキャスト」という2つの未来に向けたアプローチ法です。それぞれの意味や具体例について詳しく見ていきましょう!
フォアキャストは、英語で“前”の意味を持つ「フォア(fore)」+“投げる”を意味する「キャスト(cast)」で構成された言葉。現在よりも前にあるデータや経験をもとに未来を予測し、今できることを積み上げてそれに近づいていくことを指します。英語で天気予報のことをweather forecastというのですが、英会話やビジネスで何かを予想することを「フォアキャスト(する)」と表現したことがある方も多いでしょう。
一方、バックキャストはその名の通り“後ろ”の意味を持つ「バック(back)」と「キャスト(cast)」の組み合わせで、“そうあってほしいイメージ”に向かって現在の施策を策定し、未来を創造することを指します。
バックキャストの実例としてよく取り上げられるのが、「温暖化対策」です。我が国は2050年カーボンニュートラル宣言を行い、“2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする”というイメージに向けて国産自動車のEV化や再生可能エネルギーの主力電源化といった施策に取り組んでいます。
資源エネルギー庁の委託により作成された『令和2年度エネルギー需給構造高度化対策に関する調査等事業(福島県における水素社会のモデル構築に関する調査)報告書』(株式会社野村総合研究所作成)でも、バックキャストにより水素ステーションの必要基数などの予測値が記載されています。
温暖化対策はSDGsで掲げられる17の目標(詳しくはコチラ)の7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」や、13「気候変動に具体的な対策を」に深くかかわりますが、貧困やジェンダー平等に関わるその他の目標全てに対してもバックキャストのアプローチは有効であると目されています。
「あるべき未来を描き、それに向けて達成すべきマイルストーンを設定する」というのは誰もが無意識に行ってきたことですが、それをバックキャスト的なアプローチと名付け、一般的な未来予測や目標設定で用いられる「フォアキャスト」と区別することで、”何のために予測するのか”、“どんなデータが必要なのか”が見えてきやすくなるはずです。
バックキャストはSDGsなど社会的な課題にしか役立たないのでしょうか?
──もちろん、そんなことはありません。
経営やマーケティングなどビジネスにまつわるさまざまな領域で、バックキャストの手法は日常的に用いられており、またその活用に注目が集まっています。
例えば、マーケティングやブランディング、消費者とのコミュニケーションにまつわる知見が共有される「宣伝会議サミット」2015において、講演されたのが回転ずしチェーン株式会社あきんどスシローの「バックキャスト・マーケティング」でした。
従来のマーケティングにおいて、常套手段となっていたのは、なるべく解像度高く消費者像を描き、それに対しベストな販促施策を講じることで「購買(来店)」という結果につなげることです。あきんどスシローはその、いわばフォアキャスト的なアプローチを逆転させ、年間約1億3,000万人の来店で得られた購買ビッグデータをもとに、購買者と同じ行動データを持つ消費者に結果から割り出された最適なアプローチを行う施策をとったということです。
バックキャスト・マーケティングのカギとなっているのが、予約・発券やメニュー表としての機能を持つ同社公式アプリから得られる行動データです。プラットフォームを通じてデータを取得し、戦略策定とUX向上に生かしプラスの循環を生み出すというのは、「アフターデジタル」世界における企業戦略の王道であり、バックキャストはその有力な手法の一環としても位置づけられるでしょう。
あるべき結果に対し何をすべきかを確固たるエビデンス(証拠)とともに導き出すための材料として、データは大きな力を発揮するのです。
あるべき姿を元に、未来を創造する手法──バックキャストは、先が読めないVUCA時代において、確固たる戦略を描くための羅針盤となります。「5年後はこうなるだろう」という予測が一国、一企業の動きや災害、パンデミックによって容易に揺るがされるのであれば、未来を見通すよりもつくるほうが我々にとって合理的な選択肢になるでしょう。
とはいえ、従来のフォアキャストの手法がもはや意味をなさないかといえば、そんなことはありません。まず、先の見通せない時代と言っても、人口が減るか増えるかなど、ある程度確証をもって見通せる未来はあります。それに向けて複数のシナリオを策定し、迅速な意思決定を可能にするシナリオ法は温暖化に対するアプローチでも、ビジネスでも頻繁に用いられています。
ほかにも、未来予測の手法は以下のようにさまざまに存在します。
・シミュレーション法:現実の対象や現象をコンピューター上でシミュレーションすることによる手法
・デルファイ法:対象の分野の専門家集団に同じ質問をし、回答を収れんさせることで統一的な見解を得る手法
・スキャニング法:対象の分野に関する情報の海から将来大きなインパクトを及ぼすことが予想される変化の兆候を捉え、複数の角度で分析する手法
参考:第1章 科学技術による未来予測の取組<令和2年版科学技術白書 本文(HTML版)┃文部科学省
重要なのは、フォアキャストにより、ありうる未来の可能性を導き出しながら、バックキャストにより、あるべき未来を創造する形で、未来に対する2つのアプローチを個人や企業の中に定着させることなのです。
未来に対する2つのアプローチ「フォアキャスト」と「バックキャスト」について解説してまいりました。
博報堂生活総研の『未来年表』によると、2100年には「米国の富豪がすべての病気を根絶」し、「宇宙人が発見される」ということです。そんな未来が本当に来るのかとついつい疑ってしまいますが、その未来を作っていくのも私たちとその子孫ですよね。「10x」の姿勢で、2100年といわず、もっと早く宇宙人に会えるよう、フォアキャストとバックキャストを仕事に、人生に生かしていきましょう!
【参考資料】
・村越 力『未来予測はすべての企業の常備薬。必要なのは「未来の創造」〜未来アイデア発想支援メソッド① ファクトカード〜』┃DO! SOLUTIONS
・2050年カーボンニュートラルの実現に向けて┃環境省 脱炭素ポータル
・スシローの躍進を支える「バックキャスト・マーケティング」とは?┃宣伝会議
・第1章 科学技術による未来予測の取組<令和2年版科学技術白書 本文(HTML版)┃文部科学省
・未来年表┃博報堂生活総研
(宮田文机)
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