「ああ、10年前に戻れたら……」と妄想したことは誰にでもあるのではないでしょうか。
未来に何が起こるかわかっていれば、大手デジタルプラットフォーマーの株を購入し、ビットコインを大量に買い漁り、海外旅行に惜しげなく資金を費やし、そもそもコロナ禍をなんとか阻止したいと筆者は思います。
しかし、それは絵に描いた餅。いま、未来に向けてできることをすべきですよね。そこで知っておきたいのが「バックキャスティング」という未来に向けたアプローチ法です。
「バックキャスティング」の意味や「フォアキャスティング」との違い、メリットやデメリット、実践方法や事例まで詳しく見ていきましょう!
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バックキャスティングとは、まず望ましい未来のビジョンを描き出し、そこから現在に向かってそのビジョンを実現する方法を逆にたどるシナリオ策定のアプローチです。
これは、現在から始めて未来を予測するフォアキャスティングとは異なります。フォアキャスティングは、現在の状況から将来を想定するのに適していますが、現在とは全く異なる未来を想像するのは難しいです。
バックキャスティングでは、現在の制約を考慮せずに理想の未来を定めることができ、大きな変化を必要とする場合に特に有効です。
バックキャスティングとフォアキャスティングは、将来を考える上で対照的なアプローチです。フォアキャスティングは現在の状況から出発し、将来の目標を特定せずに進行します。技術やビジネスの改善にしばしば用いられ、現在の積み重ねに基づく未来を描きますが、その未来が望ましいかは保証されません。
一方で、バックキャスティングは望ましい未来のビジョンを最初に設定し、未来から現在に向かって考えます。特に、大規模な社会経済的変革が必要な場合、バックキャスティングは有効です。
「あるべき未来を描き、それに向けて達成すべきマイルストーンを設定する」というのは誰もが無意識に行ってきたことですが、それをバックキャスティング的なアプローチと名付け、一般的な未来予測や目標設定で用いられる「フォアキャスティング」と区別することで、”何のために予測するのか”、“どんなデータが必要なのか”が見えてきやすくなるはずです。
バックキャスティング型のシナリオ作成手法は、企業が持続可能な経営を目指す上で役立ちます。2015年に国連サミットで採択された「2030アジェンダ」では、持続可能な開発目標(SDGs)が設定され、全国連加盟国がその達成に取り組むとされています。
さらに、近年は機関投資家がESG(環境、社会、企業統治)の要素を考慮した投資を推進しており、SDGsやESGの目標への対応として、バックキャスティング型思想が有効です。
具体的には以下の3ステップが、バックキャスティング型のシナリオ作成です。
それぞれ詳しく解説します。
バックキャスティング型のシナリオを策定する際、まずは問題の定義から始めます。この過程ではシナリオの目的を具体的にし、達成を目指す目標を詳細に記述し、結果として望む未来のビジョンを明確にします。
次に、シナリオの目指す未来像に到達する過程を描くために、その未来を実現するのに必要な出来事や状況をリストアップし、これらを原因と結果の関係で逆順に整理して「ロジックツリー」を作成します。
このロジックツリーでは、シナリオの目的を出発点とし、そこから目的達成に至るまでの出来事や状況をツリー形式で展開します。このロジックツリーを末端から出発点に向かって辿ることで、目標達成へのステップが順序立ててわかるようになるでしょう。
ロジックツリーを整えたら、最後にシナリオの構成に移ります。
目標の達成に重大な影響を及ぼす施策をロジックツリーから選出し、選ばれた重要イベントに基づいて、ストーリー展開を作り上げ、ロジックツリーで表現できなかった現在の動向、目標達成の副次効果、目標達成の障壁、必要な状態間の相互作用などを組み込みます。
さらに、ストーリー展開では、目標が達成可能かどうかを検証するために、現状から未来へと順を追って記述することで、バックキャスティング型シナリオが完成します。
バックキャスティングのメリットは以下の3つです。
それぞれについて詳しく解説していきます。
バックキャスティングのアプローチでは、まだ解答が存在しない「未来」に注目し、望ましいビジョンや理想の形態を描き出します。このプロセスには正しい答えはなく、チーム全体が共同で決定した内容が、行動を導くべき「答え」となります。
現代は不確実性が高く、明確な答えがない複雑な問題が多いため、バックキャスティングをビジネスに取り入れる企業が増えていると考えられます。
バックキャスティングを用いると、制約のない自由な思考が可能になります。
このアプローチにより、現状や問題点を基に徐々に解決策を探る方法と比べて、利害関係や既存の状況に囚われずに前向きな環境の中で、従来にない革新的な解決策が見つかりやすくなります。
バックキャスティングでは、フォアキャスティングに比べてより野心的な目標を設定することが多いため、それに伴う行動を取ることで大きな成果が得られる可能性が高いと言えます。
現代では、自ら問題や目的を設定し、積極的に行動する人材や自律的な組織が重宝されています。
このような環境でバックキャスト思考を身につけることは、不確実性を乗り越えながら持続的に優れた成果を出せるチーム、つまり自律型組織への移行を助けることになるでしょう。
バックキャスティングのデメリットは以下の2つです。
それぞれについて詳しく解説していきます。
バックキャスティングでは理想的なビジョンが重視されるため、決定や行動は常にそのビジョンに沿って行われます。しかしこの方法では、理想の未来と現実の間に大きな差がある場合、目標が非現実的だと感じることがあります。
また、努力していても目標達成が難しいと判断されると、途中で取り組みが停止してしまうこともあります。特に、SDGs戦略においては、経営トップがビジョンを掲げても、従業員が最初からそれを不可能と考えてしまうケースも企業にはよく見られます。
バックキャストのプロセスを成功させるためには、最初から最後まで高いモチベーションを保つことが重要ですが、途中で疲弊し保てないことがデメリットとして挙げられます。
特に、進行が思うようにいかない時や、外部環境の変化によって元のビジョンに疑問を持ち始めた時は、モチベーションが急速に落ちる可能性が高いです。また、計画段階での情熱が時間の経過と共に冷めてしまうこともあるため、モチベーションの低下はあらゆる組織で起こりうることです。
バックキャスティングはSDGsなど社会的な課題にしか役立たないのでしょうか?
──もちろん、そんなことはありません。
経営やマーケティングなどビジネスにまつわるさまざまな領域で、バックキャスティングの手法は日常的に用いられており、またその活用に注目が集まっています。以下の2つがバックキャスティングの活用事例です。
それぞれについて詳しく紹介します。
マーケティングやブランディング、消費者とのコミュニケーションにまつわる知見が共有される「宣伝会議サミット」2015において、講演されたのが回転ずしチェーン株式会社あきんどスシローの「バックキャスト・マーケティング」でした。
従来のマーケティングにおいて、常套手段となっていたのは、なるべく解像度高く消費者像を描き、それに対しベストな販促施策を講じることで「購買(来店)」という結果につなげることです。
あきんどスシローはその、いわばフォアキャスト的なアプローチを逆転させ、年間約1億3,000万人の来店で得られた購買ビッグデータをもとに、購買者と同じ行動データを持つ消費者に結果から割り出された最適なアプローチを行う施策をとったということです。
バックキャスト・マーケティングのカギとなっているのが、予約・発券やメニュー表としての機能を持つ同社公式アプリから得られる行動データです。プラットフォームを通じてデータを取得し、戦略策定とUX向上に生かしプラスの循環を生み出すというのは、「アフターデジタル」世界における企業戦略の王道であり、バックキャストはその有力な手法の一環としても位置づけられるでしょう。
あるべき結果に対し何をすべきかを確固たるエビデンス(証拠)とともに導き出すための材料として、データは大きな力を発揮するのです。
バックキャストの実例としてよく取り上げられるのが、「温暖化対策」です。
我が国は2050年カーボンニュートラル宣言をし、“2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする”というイメージに向けて国産自動車のEV化や再生可能エネルギーの主力電源化といった施策に取り組んでいます。このことを「日本低炭素シナリオ」と言います。
資源エネルギー庁の委託により作成された『令和2年度エネルギー需給構造高度化対策に関する調査等事業(福島県における水素社会のモデル構築に関する調査)報告書』(株式会社野村総合研究所作成)でも、バックキャストにより水素ステーションの必要基数などの予測値が記載されています。
温暖化対策はSDGsで掲げられる17の目標(詳しくはコチラ)の7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」や、13「気候変動に具体的な対策を」に深くかかわりますが、貧困やジェンダー平等に関わるその他の目標全てに対してもバックキャストのアプローチは有効であると目されています。
あるべき姿を元に、未来を創造する手法──バックキャスティングは、先が読めないVUCA時代において、確固たる戦略を描くための羅針盤となります。
「5年後はこうなるだろう」という予測が一国、一企業の動きや災害、パンデミックによって容易に揺るがされるのであれば、未来を見通すよりもつくるほうが我々にとって合理的な選択肢になるでしょう。
とはいえ、従来のフォアキャスティングの手法がもはや意味をなさないかといえば、そんなことはありません。まず、先の見通せない時代と言っても、人口が減るか増えるかなど、ある程度確証をもって見通せる未来はあります。
それに向けて複数のシナリオを策定し、迅速な意思決定を可能にするシナリオ法は温暖化に対するアプローチでも、ビジネスでも頻繁に用いられています。
ほかにも、未来予測の手法は以下のようにさまざまに存在します。
参考:第1章 科学技術による未来予測の取組<令和2年版科学技術白書 本文(HTML版)┃文部科学省
重要なのは、フォアキャストにより、ありうる未来の可能性を導き出しながら、バックキャストにより、あるべき未来を創造する形で、未来に対する2つのアプローチを個人や企業の中に定着させることなのです。
未来に対するアプローチ「バックキャスト」について解説してまいりました。
博報堂生活総研の『未来年表』によると、2100年には「米国の富豪がすべての病気を根絶」し、「宇宙人が発見される」ということです。そんな未来が本当に来るのかとついつい疑ってしまいますが、その未来を作っていくのも私たちとその子孫ですよね。「10x」の姿勢で、2100年といわず、もっと早く宇宙人に会えるよう、フォアキャストとバックキャストを仕事に、人生に生かしていきましょう!
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(宮田文机)
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