最後はアカデミックな領域からより実際的に生かされるバイオインフォマティクスについてご紹介します。
ゲノム情報を解析することで最も恩恵を得られるのが、医学・薬学の分野です。
人間の塩基配列には約1,000塩基に一つの割合で個人差が存在し、その結果体質や病気へのなりやすさが決まります。その内容をあらかじめ踏まえることで一人ひとりに最も適した「テーラーメード医療」を行うことも可能になるかもしれません。
また、DNAチップを活用することで薬がどの部分に作用しているのかを解析する技術も研究が進んでいます。すでに開発されているものもあり、より研究が進めば病に効く薬の使い方、組み合わせを的確に選択できるようになるでしょう。
タンパク質の構造予測を用いれば、ウイルスの構造を解き明かし早期のワクチン発見につなげられる可能性もあります。実際、現在イギリスの研究機関が、アルファ碁を設計したディープ・マインド社開発のAIを用いてコロナウイルスの構造分析に取り組んでいるとか。
第五次産業革命後に期待されるのが、バイオインフォマティクスで得た生物の構造情報を用いて新たな工業製品を生み出せる可能性です。DNAを解き明かすことで、スマートセルインダストリーの可能性は大きく広がるといえるでしょう。
また、農業においても作物や果樹のバイオインフォマティクス研究が開始されており、その情報を活用することで品種改良を加速させ気候変動や害虫に負けない食物を生み出し食糧危機の解決につなげることが志向されています。
バイオインフォマティクスとは何か、そしてその活用の可能性についてご説明してきました。
生物はDNA配列によって構成されており、その秘密を解き明かすことにコンピュータは非常に適しています。一見対極にあるように思われる生命の世界と情報処理の世界が高度化することで重なるのは面白い現象です。
いずれ大きく世界を変えることになるであろうバイオインフォマティクス。今から注目しておいて損はありません!
【参考資料】
・岩部直之, 川端猛, 浜田道昭, 門田幸二, 須山幹太, 光山統泰, 黒川顕, 森宙史, 東光一, 吉沢明康, 片山俊明, 藤博幸『よくわかるバイオインフォマティクス入門[Kindle 版]』講談社(2018)
・iSCB
・特定非営利活動法人日本バイオインフォマティクス学会
・藤博幸「バイオインフォマティクスとは何か?」┃産総研TODAY
・「バイオインフォマティクスの面白さは、計算機を使って生物の法則を解明したり、予測したりできること。」┃東京工科大学
・詫摩雅子「特集:発見の科学 生命に迫るバイオインフォマティクス」┃日経サイエンス
・バイオインフォマティクス分野で、高度なビッグデータ解析を実現する〜渋谷 哲朗・東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター 准教授┃Top Researchers
・次なるカギはAIか ~新型ウイルスで進むAI活用~┃NHK
・遺伝子とゲノム┃生命情報・DDBJセンター
・農業ゲノミクス: 進行する世界的食糧不足を解決┃日本ヒューレット・パッカード株式会社
・肺がん薬の効果、血液で判別 DNAチップ研が開発┃日本経済新聞
・NCBI Genome
・タンパク3000構造ギャラリー
・ヒトゲノム計画: その歴史とインパクト @ NIG International symposium 2017┃統合TV
(宮田文机)
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