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SOMPOホールディングス株式会社 中林 紀彦氏

デジタルテクノロジーによるイノベーションが起きている現在、ベンチャーのみならず日本を代表する大企業も変革の必要性に迫られています。

SOMPOホールディングスのチーフ・データサイエンティストの中林紀彦氏は、大胆なデジタル戦略で組織改革を行ってきた先駆者の一人です。

中林氏は、保険事業や介護・ヘルスケア事業を手掛けるSOMPOグループがホールディングスのなかでデータをいかに扱い、また多くの企業が課題としている「デジタル人材の確保」について講演を行いました。

中林氏は外に向けて開いたサードプレイスを設けてプロジェクトを立ち上げることで、課題である人材の確保・育成に新たなアプローチを仕掛けています。

ケニアの事例から学ぶ「デジタルに特化した保険事業」への危機感

保険業界におけるデジタルディスラプションの必要性を解くSOMPOホールディングスは、「損害保険事業」「生命保険事業」「介護・ヘルスケア事業」「企業の合併・買収(M&A)を中心とした海外事業」という保険業を中心とした事業体制があります。

中林氏はそれぞれの事業を「車」「家・都市」「人(生命/医療)」とシンプルに定義し、昨今の自動運転技術やシェアカー、IoTの進歩によりリスクが低減した結果、保険ニーズは低下している現状を明かし「その転換に寄り添わなくてはいけない」と語ります。

グループ事業の詳細についてはこちらをご覧ください。(SOMPOホールディングス株式会社HP)

新興国であるケニアの農業保険の例を挙げ、現地でもっともポピュラーな電子通過「M-PESA(エムペサ)」のスマホ決済事例を紹介。種や苗のパッケージに印刷されたバーコードを読み取ると即座に農業保険へ加入でき、全てスマホ決済可能。さらに気象や耕作地をモニタリングしてリスクを先読みし、今後はより効率的な耕作方法をメールなどでフォローするサービスも展開予定とされています。

「まだ日本ではここまでテクノロジーを活用したサービスを提供する保険会社はありません。しかし技術的には展開可能ですし、経営陣は『もし似たようなサービス存在が日本で誕生すれば、われわれは淘汰されてしまうのではないか』という危機感を覚えました。

そこで2年半前に、デジタル戦略部門という“モード2”の組織を立ち上げました。この部門では保健事業以外の事業の設立、そして既存事業の効率化デジタライゼーションという2つの大きなミッションを抱えて活動しています。経営的な期待も多く、いま2,200億円規模の売上を2020年の早い段階で3,000億に引き上げるという大きなグループの目標があり、そのうち数百億のプロフィットを当部門に期待されています。」

データに付加価値を与え、新たなサービスを生み出す「SOMPO Digital Lab」

SOMPO Digital Lab – SOMPOホールディングス HP

会場では映像を使ってデジタル戦略部門の中枢を担う「SOMPO Digital Lab」を紹介。
研究機関として東京と米国シリコンバレーにを設立し、海外の先進事例を把握しながら、業務の効率化や顧客接点の変化への対応、デジタルネイティブ向けマーケティングの開発をおこなうものです。組織体系としては「既存ビジネスのデジタルシフト支援(デジタルを活用し既存ビジネスを進化)チーム」と「新規事業の創出(既存事業の脅威に自ら取り組む)チーム」に分かれ、東京とシリコンバレーをテレワークでつなぎ、で技術を醸造する目的を持ちます。

「金融でも保険屋でもないIT中心の企業になっていくべきで、保険業以外の新しいポートフォリオを作っていきながら、数年後には『保険屋だった』と言われたいと話しています。
シリコンバレーでデータを集め、日本で応用できそうな技術を輸入する。テレワークについては、最近サイバーセキュリティー事業に本格的にチカラを入れているため、技術の樹立、テクノロジーの模索も兼ねて組織構成となっています。そのなかで私は事業戦略をデータ戦略へと落とし込み、分析環境を作る、データサイエンティストの組織を立ち上げています。」

中林氏は、併せてデータによる新サービスの構想を紹介。例えばヘルスケアならば、スマホやウェアラブルデバイスで集積したデータをもとに、将来的な病気のリスクを予測したり生活習慣を提案するというものです。

データを集計するだけではなく、個人レベルでデータを集めながらサービスの付加価値を向上させることがミッション。私達は全てのデータを集めるのではなく、データの選択と集中をしています。『量的優位』『新規事業活用性』でデータを評価し、最先端のクラウドプラットフォームを用意しデータを活用しています」

中林氏が提唱するのは、闇雲にデータを集めるのではなく、目的をもってデータを集め、価値あるデータを囲い込むアプローチを行うこと。そして重要なデータのみを構築・カタログ化し、データサイエンティストが仮説に基づいたアルゴリズムをつくって検証。そして未来予測に関するAIに特化し開発を進めてきました。こうした手法を用いた事例として、過去に展開してきたディープラーニングを応用したサービスやIoTデバイスを活用したサービス等を紹介。今後は人に関する健康支援データーベースで3つの生活習慣病のリスクを予測する構想を語りました。

「Data Science BOOTCAMP」で人材不足を打破、
オープンイノベーションで新規事業を推進

「これからのデータサイエンティストが目指すべき方向性は、ビジネスの経験をシステムを融合させること。一方で、ビジネスにおける課題の背景までを理解しながら解決するという「ビジネスの経験」が圧倒的に足りていない状況です。これからのデータサイエンティストはデータを集めるだけでなく、システムエンジニアリング(システムのデータの連携、モデルのシステムへの落とし込み)が重要であり、実装力が問われます」

ビジネスの深い理解がデータの理解につながる、つまり「医師免許を持ちディープラーニングができる人材」や、「車のA級ライセンスを持ちディープラーニングができる人材」など、専門知識を持ちながらテクノロジーを理解する人材こそが理想だと語りますが、現実的ではありません。


そこで昨年より人材育成のため、「Data Science BOOTCAMP」を実施。就労者でも参加可能とし、カリキュラムとしては1ヶ月目に機械学習を中心としたデータエンジニアリングを学び、2、3ヶ月目には実際に事業会社がもつデータセットを扱いながら実践的なデータ分析とアウトプットの訓練、最終的には結果をプレゼンし卒業、という構成になっています。現在3回目が終了し、90名を超える参加者が集まったとのこと。

「優秀な人材が集まってくれている一方、待遇を出せずにうまく採用には結びつかない実情ですが、卒業生のネットワークコミュニティが出来ています。また、保健事業以外の方がデータを見ると新たなアイデアが生まれるという発見がありました」と語る中林氏。


そこで2018年より「BOOTCAMP」の卒業生である“Boot Campers”を中心にデザイナ ーやエンジニア、課題を持ち新事業創出に関心のある企業や自治体、スタートアップ企業、フリーランスなどが集まってコミュニティーを作り、社員としてではなくオープンイノベーションで事業を作っていくり、ひとつの企業の枠を大きく超えた「SOMPO D-STUDIO」を設立。アイデア・テクノロジー・顧客起点でテクノロジーを作っていくプロジェクトで、サービスや事業のアイディアを具現化していく活動を始めており、まさに新規事業を2018年12月よりスタート予定だといいます。

「ゆるいコミュニティを作りながらオープンイノベーションで、新しい事業を作っていく。
もしくはデータサイエンスのプロジェクトが先にあり、プロジェクトベースで“Boot Campers”に任せるという人材補給を少しずつ進めています。

冒頭にお話した『車』『家』『人』、というカテゴリーそれぞれに新たなテクノロジーやディスラクティブな要素が増えてきています。我々は既存ドメインを残しつつ、スマートモビリティのサービスやスマートシティの領域など、デジタルな領域に事業を拡張していきます。新規事業チームがこうしたチャレンジの中心となることが、我々が目指すところです」

質疑応答


――「BOOTCAMP」は、社内からは何名が参加している?

「BOOTCAMP」は一回につき30名。社外から25名、グループ企業より5名〜10名ずつくらい参加しています。

――既存事業のデジタル化チームと新規事業チームの人員の割合は? 新規事業の領域はなんでも自由に?

既存事業が5〜6割、新規事業チームが4割程度です。新規事業については既存の「車」「都市」「人・健康」の大きく3つのドメインを定義して、そのなかから新しいサービスを生み出しています。また、リスクを軽減したり回復する“リスクに関するサービス”も事業をつなぐもうひとつの大きな軸です。

まとめ

DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれている昨今、いかにIT技術を活用してイノベーションの創出やビジネス変革の実現を果たすか、各企業は戦略的なチャレンジが求められている。その源泉となるデータ、そしてデータを活用するデータサイエンスに注目が集まっています。ただ、中林氏はそれだけでは不十分と語ります。

新たなデジタル事業領域を作り出すため社内から変革を起こすと同時に、社外をも巻き込みながらアプローチを展開している中林氏。実践的なデータサイエンティスト組織の作り方や人材育成への考え方は、ビッグデータやAIを活用しデータドリブンを目指す日本企業、そしてそれに見合うデジタル人材育成のロールモデルになり得るでしょう。

SOMPOホールディングス株式会社
チーフ・データサイエンティスト 中林 紀彦氏

2002年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。データサイエンティストとして顧客のデータ分析を多方面からサポートし企業の抱えるさまざまな課題をデータやデータ分析の観点から解決する。また、エバンジェリストとしてビッグデータをビジネスに活用することの価値を幅広く啓蒙。株式会社オプトホールディング データサイエンスラボの副所長を経て2016年より現職。重要な経営資源となった”データ”をグループ横断で最大限に活用するためのデータ戦略を構築し実行する役割を担う。また2014年4月より、筑波大学大学院の客員准教授としてデータサイエンスに関して企業の即戦力となる人材育成にも従事する。

(TEXT:伊藤七ゑ PHOTO:Inoue Syuhei)

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