タッパーウェアブランズ・ジャパン 「財務指標を改善させるDX〜CIOへのリクエスト~」 CIOJapanSummit2021イベントリポ−ト-後編 | データで越境者に寄り添うメディア データのじかん
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タッパーウェアブランズ・ジャパン 「財務指標を改善させるDX〜CIOへのリクエスト~」 CIOJapanSummit2021イベントリポ−ト-後編

         

ホテル椿山荘東京にて開催された「CIO Japan Summit 2021」リポートの後編では、タッパーウェアブランズ・ジャパン株式会社代表取締役社長の石井恵三氏による「財務指標を改善させるDX ~CIOへのリクエスト~」の内容を中心に取り上げる。石井氏は、DXの目的を「オペレーション最適化によるコスト削減」と「売り上げ向上によるマーケットシェア拡大」とし、基本戦略の概要を解説。閉会挨拶では、議長を務めたIIBA日本支部 代表理事・寺嶋一郎氏が「愛あるDX」をCIOに呼びかけた。

目的なきDXは必ず失敗する

2021年2月にタッパーウェアブランズ・ジャパン代表取締役社長に就任した石井恵三氏は、これまで日本コカ・コーラのCDO(最高デジタル責任者)の他、エクスペディア・ジャパン代表取締役社長、ELCグループにてCRM (顧客関係管理)とオンライン事業部ディレクターを務めてきた。

タッパーウェアブランズ
プラスチック製密封容器の代名詞として「タッパー」・「タッパーウェア」として親しまれている「タッパー」はタッパーウェアブランズの登録商標で、そのネーミングは容器の開発者であるアメリカ人、アール・S・タッパーの名前に由来している。1963年、日本タッパーウェア株式会社が設立された。

この日のテーマは「財務指標を改善させるDX」。石井氏は冒頭で、デジタル化のためのDXを行っていないかと視聴者に語りかけ、「目的なきDXは必ず失敗する」と続けた。

タッパーウェアブランズ・ジャパン株式会社代表取締役社長 石井恵三氏

「日常生活に当てはめて考えてみましょう。中華料理が食べたい、これが“目的”です。ならば自分でつくるか、食べに行くか、出前を頼むか。これは“戦略”に該当します。このうち『自分でつくる』という戦略を選んだとしたら、次に“アクション”としてネギを刻み、肉を炒め、味付けをする。これで料理が完成します」

このように人の行動は、「目的→戦略→アクション」の上に成り立っていることを説明。

「いきなりネギを刻んだら『外食する』『出前をとる』という戦略に戻れず、冷蔵庫にあった残り物のうどんをゆでて食べてしまったら『中華料理』という目的に戻れません。これと似たようなことが多くの企業で起こっています。デジタル化の潮流に乗ろうと大きな投資でシステム開発したけれど『あれ、目的はなんだっけ? 戦略はなんだっけ?』という状況です。デジタル化は目的ではなく手段に過ぎません。目的なきDXは必ず失敗するし、その先も永遠に目的を達成することのないDXを続けることになります」(石井氏)

DXの大目的2つを取り違えてはならない

DXの目的は何なのか。石井氏はそれを「オペレーション最適化によるコスト削減」と「売り上げ向上によるマーケットシェア拡大」の2つだとした。

石井氏スライドより

「コストを下げて、売り上げを伸ばす。極端に言えばこの2つを別の手段で達成できるのなら、デジタル化は必要ありません。とはいえ、そうした企業はまれでしょう。だから手段としてDXが必要なのですが、最初の考えを踏み違えると1歩目で失敗してしまう恐れがあります」(石井氏)

さらに、DXの基本的な戦略、そして注意点について語った。まずは1つ目の目的「オペレーション最適化によるコスト削減」だ。基本的には「人がやっていた作業をシステムが無人で行えばコストが下がる」ということを指し、「外部委託費の削減、ヒューマンエラー削減(コールセンター入電減など)、内部人材の有効活用」などがそれに該当する。

コスト削減は「将来的なコスト抑制と合わせて考える」

「オペレーション最適化によるコスト削減」では、どのくらいのシステム投資を行えばよいか頭を悩ますDX担当者も多い。最適化のためのシステム開発がコスト削減分を上回ってしまえば本末転倒だからだ。石井氏は「私の持論で、信じるか信じないかは皆さん次第」と前置きしながら「コストリダクションとコストアボイダンス」の考え方を推奨。なおコストリダクションは「コスト削減」、コストアボイダンスは「コスト抑制」を意味する。

石井氏スライドより

「会社が出している事業プランや事業戦略において、将来、売り上げが減少すると予測する企業はほとんどないでしょう。このとき、私は『現状のコストをどれだけ削減できるか』と『将来売り上げが成長したときの成長売り上げ分のコストをどれだけ抑制できるか』を分けて考えます。なぜならば、将来売り上げが成長する保証がどこにもないからです。私がよく言っているのは、現状の売り上げからのコスト削減分(コストリダクション)だけを見るのであれば、3年以内に回収できる金額。成長売り上げ見込みからのコスト削減(コストアボイダンス)も合わせて見るのであれば、2年以内に回収できる金額。これがDXの一次開発にかける上限金額です」(石井氏)

売り上げ向上のためのデータ活用は「消費者行動を洗い出せ」

DXのもう1つの目的が「売り上げ向上によるマーケットシェア拡大」。こちらは「自社の過去データと外部ビッグデータを組み合わせれば、AI(アルゴリズム)分析で将来の予測データを活用できるようになる」ということを指し、「生産体制の調整、マーケティング活動、プライシング最適化、製品開発」などが該当する。

石井氏スライドより

「売り上げ向上によるマーケットシェア拡大」ではデータとの付き合い方が大きな課題だ。マーケットシェア拡大のためにいかなるデータを駆使するか、石井氏はAmazon(アマゾン)での経験からその勘所を示した。

「アマゾンにとっての『データ』とは『個人情報』ではなく、『消費者行動』そのものです。氏名、年齢、住所、電話番号、性別、職業、メールアドレスなどは、何の役にも立たない。『どうやってサイトに来たか』『どこからやってきたか』『他に興味のあった商品は何か』『他に見ているサイトは何か』『よく見るコンテンツは何か』をデータとして注視しています。先ほどと同様に料理に例えると、個人情報とは料理をするときのガス台で、個人情報だけならばガス台のみで料理をつくろうとしているようなもの。売り上げを伸ばすための食材に当たるのが、消費者行動なのです」(石井氏)

消費者行動をいかに売り上げ向上、マーケットシェア拡大につなげればよいのか。

「一般メーカーだと小売りと同じようなデータ取得に難しい面があるかもしれませんが、方策としてはモバイル、eコマース、直販チャネルなどが挙げられます。以上をミクロデータだとすると、外部から購入できるマクロのビッグデータ(パネルデータ、位置情報、天気・気候データなど)が活用できます。こうして自社のチャネルデータと外部ビッグデータを組み合わせることができれば、Predictive Model(予測モデリング)を確立できる。それによりマーケティングオートメーション、ダイナミックプライシング、ロジスティック最適化、生産体制強化といったアクションの自動化を達成でき、それがシェア拡大、そしてさらなるコスト削減をもたらします」(石井氏)

DX成功には「3人の主役」によるチームワークが必須

オペレーション最適化によるコスト削減と、売り上げ向上によるマーケットシェア拡大。これらDXの目的は、連綿と続いた“DXの成功ストーリー”であると言える。

「2つのうち『コスト削減』の方が『売り上げ向上』よりも取り入れやすいはず。まずはオペレーション最適化で目下の経費削減を行い、そこで成果を上げれば次の戦略も立てやすくなります。(売り上げ向上における)将来予測に大量データを入手する過程が必要になることを考えても、オペレーション最適化から始めるのがDXの近道です」(石井氏)

さて、ここで重要なのは、それを誰がやるのかである。これについて石井氏は「DXの主役は3人いる」と述べた。

石井氏スライドより

「3人とは、ITサイドの代弁者である『CIO』、ビジネスサイドの代弁者である『CDO』、ファイナンスサイドの代弁者である『CFO』の3人です。その中でも、DX推進ではCIOが議論の主役になります。いずれにせよ、CEO直下のフラットな最高権限機関として3人の“コミッティ”をしっかりと開設・運営することがとても重要。このとき誰か1人に権力が集中してしまうとその1人に有利な方向へ物事が動いてしまい、それがDXの失敗につながります」(石井氏)

トップダウンでDXが進んでいくことも多い。しかしアイデアは必ず現場から上がってくる。現場にいる社員のアントレプレナー化こそが、実はDX成功の最大の鍵であり、3人の主役には、そうしたアイデアをボトムアップで現場に提案させるための最大限の努力が求められるとする。CIOは『ITを分かりやすく説明できる存在』、CDOは『デジタルの可能性を訴える存在』、CFOは『簡易P/L(損益計算書)を提供する存在』。石井氏は、「DX成功には、これらの役割をしっかりと果たした3人のチームワークが必須なのです」と提言し、講演を締めくくった。

CIOは「愛あるDX」の先導役

IIBA日本支部 代表理事 寺嶋一郎氏

2日間のプログラムが終了し、議長閉会挨拶では、IIBA日本支部 代表理事の寺嶋一郎氏が総括した。

初日・開会挨拶では「“愛”をベースとした社会が構築される」と話した寺嶋氏だが、2日間の講演の内容を受けて、「いろいろなものが共振し、自律する個人・ティール化する組織・内省と対話によるリーダーシップへと変化している新たな時代、そこではますます“愛”が重要になる」と熱弁した。

「ハーバード大学で、ある調査が行われました。75年以上にわたり『ボストンで育った貧しい成人男性』と『ハーバード大学を卒業した成人男性』を2グループに分け、両グループの心と身体の健康を追跡調査したものです。この調査が結論付けたのは、『幸福や人生の豊かさをもたらしてくれる最大の要因は“愛”である』というものでした。私は“愛”を考えるとき『与えること』『感謝すること』『行動として表すこと』の3つが大事だと考えます。Well-Beingの根底も“愛”です。利益至上主義から社会貢献へ、そしてこれからは“愛のある経営”へ、それが今後のトレンドになることでしょう」(寺嶋氏)

さらにCIO Japan Summit 2021の締めくくりとして寺嶋氏は、CIOがデジタル時代に飛躍するために、「ビジネスに貢献する企画の実現に注視すべし」「実力をつけ、ITの活用でイニシアティブを取れる力を持つべし」「ビジネスアジリティに対応せよ」、そして「CIOの変革型リーダーシップでDXを先導せよ」と視座を共有した。

最後に、「CIOの皆さんには、全社を俯瞰でき、“デジタル”という武器を持つ立場・メリットを生かし、どんどん越境し、全社の各部門を結ぶハブの役割を担いながら、“愛あるDX”の先導役になってほしい」とエールを送った。

イベントCIO Japan Summit 2021
開催日時2021年11月24-25日
主  催マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン・リミティッド

(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣/安田  PHOTO:落合直哉 企画・編集:野島光太郎)

 

 
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