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これからのIT部門はビジネス課題を可視化して 全社をつなげる橋渡し役となれ

DXやデータドリブン経営に取り組む日本企業のIT部門のリーダーたちが一堂に会する「CIO Japan Summit 2021」が、2021年11月24・25日に開催される。同サミットにも登壇する3人のオピニオンリーダーにスポットを当て、インタビューを行った。

         

1人目は、CIO Japan Summit 2021のインタラクティブ セッションの議長も務める寺嶋一郎氏。大手化学メーカーのIT責任者を長年勤め、現在はIIBA日本支部の代表理事として「BA(ビジネスアナリシス)」の普及・啓蒙に尽力する同氏に、現代のCIOに求められる条件や能力、そして目指すべき方向性などを伺った。

ビジネスとITを結ぶハブとしてCIOの存在はさらに重要に

IIBA日本支部 代表理事 寺嶋 一郎 氏

寺嶋氏のこれまでの経歴は、まさに現在求められている「ITとビジネスの連携」を実現するチャレンジの連続だったと言える。積水化学工業に37年間在籍し、FA(ファクトリーオートメーション)をはじめとする工場の制御システム開発を振り出しに、子会社のシステム企業の責任者などを歴任。同社の住宅事業の中核である「セキスイハイム」を支えるシステム基盤の構築・整備などをリードし、2000年に本社の情報システム部長に就任してからは、グループ会社を含めた全社のITを統括してきた。

「住宅事業においては、営業や工場、そして開発で使うシステムを、互いに連携できるよう構築していきました。膨大な住宅部材の要件をシステムに落とし込んでいくには、設計業務の本質を理解している必要があります。そのために住宅の設計部隊の中に入り込み、技術者と同レベルで考えたり議論したりできるまでに勉強していきました」

現在、「ビジネストランスレーター」など、ITと経営・業務のハブ(結節点)の役割を果たせる人材が求められているが、寺嶋氏は30年以上も前から、すでに橋渡し役としてのITを強く意識してきた。そうした自己の経験をもとに、企業のDXへの取り組みが広がっていく中で、IT部門の果たす役割は限りなく大きくなっていくと示唆する。各業務システムや顧客向けのサービスフロントエンドが、ERPやCRMなどの基幹システムと緊密な連携を求められるようになれば、それらを組織横断的かつ統合して管理できるのはIT部門しかないからだ。

もちろん、それを実現するにはIT部門を取り巻く人々の意識も変えなくてはならない。従来のように業務部門と対立しがちな存在ではなく、新しい製品やサービスを実現していく上で必要な技術や考え方を一緒に担ってくれる仲間だという視座を持つことが大切だと寺嶋氏は話す。

「それらをリードできる存在がCIOです。いわゆるバイモーダルITのうち、既存ビジネスの維持・継続のための『モード1』と、事業革新やビジネス創出のための『モード2』の双方を、バランスを取りながらマネジメントしていく。さらに、ともすれば無駄だと言われかねない『モード2』を守って育ててゆく。これはCIOにしかできない役割であり、DXの時代に求められるCIO像の重要な側面でしょう」

「ビジネスアナリシス」とはITが業務を理解する最適の方法

寺嶋氏は、現在の日本におけるCIOの最重要課題として、「ビジネスを理解する能力の強化」を挙げる。というのも、これまで日本企業のCIOと呼ばれるポジションには、IT部門の出身者が就くケースがほとんどだった。エンジニアとしてインフラやバックヤードのシステムには精通しているが、ビジネスの現場や実情には触れる機会がなかった人も少なくない。CIOになったからには、経営陣や業務の現場と、お互いにビジネスの目線で語れなくてはならないのに、経験が足りずせっかくのITとビジネスをつなぐ立場を生かせない。このジレンマを解決する重要なアプローチが、「BA(ビジネスアナリシス)」だと寺嶋氏は言う。

「BA(ビジネスアナリシス)」とは、ビジネスにおける問題やニーズを明確に定義し、そこに関わるステークホルダーに価値を提供するソリューションを推奨することで、企業の業務や活動に変革(チェンジ)を引き起こす活動だ。簡単に言えば、自社の業務を深く理解し、そこに潜むニーズや課題を“見える化”して、解決のためのIT提案を進める取り組みであり、ここでもCIO以下IT部門が大きな役割を果たすことになる。

「IT部門にだけ所属していた人は、ビジネスの現場のことはなかなか分かりません。しかし、これからのIT部門は、自社のビジネスを深く理解し、そこに現れた問題を解決するためのITソリューションや考え方を、社内外に積極的に提供していく存在にならなくてはならない。そこで、ビジネスを分析、課題を可視化し、共通の言葉でITとビジネス双方の担当者が語り合える環境をつくり上げる必要があります。ビジネスアナリシスはそのための具体的なメソッドであり、プラットフォームになる活動なのです」

寺嶋氏は現役のエンジニア時代、自らビジネスとITの乖離(かいり)を感じることがしばしばあった。それがある時、国際的なビジネスアナリシスの啓発を行う非営利団体であるIIBA (International Institute of Business Analysis) 日本支部の代表理事への就任を要請され、ビジネスアナリシスの可能性に注目するようになったと明かす。

「特に日本の企業は現場を重視するあまり、経営者が具体的な取り組みを現場に任せた結果、ブラックボックス化してしまいました。これをDX推進に向けて変革していくためにも、ビジネスプロセスを可視化し、全員が同じ土俵で議論できる環境づくりは欠かせません。ビジネスアナリシスはそのための知識やスキルを与えてくれます。だからこそ、CIOはもちろん全てのIT担当者に学んで欲しいと考えています」

アフターデジタルの到来に備えてアジャイルな組織を社内に築け

今回のCIO Japan Summit 2021では、「2021年の主要議題」として6つのテーマが提示されている。中でも「アフターデジタルの世界への一歩を踏み出す」は、まさにこれからの日本企業の目指す方向を指し示すものだ。この課題に、CIOはどう取り組んでいくべきだろうか。寺嶋氏は、第一にその企業が何を目指して、その実現に何を行っていくべきかを考え、全社的なコンセンサスの下で方針を決定していくことだと強調する。

「アフターデジタルでは、製品やサービス単体だけでなく、カスタマージャーニーまでをきっちり設計しておかなければなりません。従来のインフラ設計とは全く異なるアプローチが必要です。どういうビジネスモデルでこれからやっていくのか、それを真っ先に決めないと、その先に踏み出せません。IT部門は、ここで必要になる文化(モード2)を開発し、提案していく役割を担います。またそれには、従来のように外部のSIerに丸投げしていたのでは間に合いません。ビジネスの変化のスピードに負けないアジャイルなITチームと文化を、今から社内に構築して備える必要があります」

もう一つの重要な課題は、人材の獲得・育成だ。もちろん、ここでもCIOは強力なリーダーシップを発揮することが求められる。ここで寺嶋氏は、「エンジニアにとって魅力のある職場づくり」が鍵を握るという。

「強い指導力で引っ張っていくのも大事ですが、エンジニアというのは自分で魅力を感じられる風土がないと、すぐに他に移ってしまいます。だからこそ、外部から優秀な人材を獲得しようと考えるなら、外から見て何かキラキラ光って引きつけるもの――、例えば独創的な技術やサービス、あるいは技術者の意志や意欲を尊重するといった特徴のある職場に育てておく必要があります」

エンジニアを大切にして、彼らの意志を尊重する姿勢は何より重要となる。これまでのように、IT部門やエンジニアをコストだと思っている企業には、優秀な人は絶対に育たないし、来てくれない。それを経営層や社内に理解してもらうためにも、まずCIO自身がそうした認識と信念、そして仕事だけにとどまらない人間的魅力を持っていることが不可欠だと寺嶋氏は断言する。

CIO Japan Summitの参加を通じて
自社変革への意識を高めてほしい

今回のCIO Japan Summit 2021では、参加される方々にどのようなことを伝えていくのだろうか。寺嶋氏は、現在盛んにDXが叫ばれている現状を、IT部門にとってはまたとない追い風だと表現する。

「DX推進の掛け声はあちこちで聞かれ、取り組みも進んでいますが、DXの本質的な部分を実現できている企業は、まだ少ないのが実情です。組織をつくってはみたものの、その先に進めないというケースも少なくありません。IT技術を導入することがDXではなく、テクノロジーを使って自分たちの会社を変革するとはどういうことなのか、その実行に当たってIT部門はどこまで力を発揮できるのかを、真剣に考えるべきタイミングに来ています」

今を好機と捉え、予算を投入する、人を増やす、部門を立ち上げるなど、今やっておくべきことは数え切れないと寺嶋氏は言う。

「だからこそこのDX熱の高まっている時期に、CIOもIT部門の担当者も、自分たちの頑張りで会社を変えていこうという心意気を持ち、今やっておくべきことを見つけて欲しい。今回のCIO Japan Summit 2021がその一つのきっかけになると期待しています」

IIBA日本支部 代表理事 / TERRANET代表
寺嶋 一郎 (てらじま いちろう)氏

1979年に積水化学工業入社。製造現場の制御システム、生産管理システム構築などに従事。1985年マサチューセッツ工科大学留学を経て、人工知能ビジネスを目指した社内ベンチャー、アイザック設立に参画。2000年に積水化学 情報システム部長に就任、IT部門の構造改革やIT基盤の標準化などに取り組む。2016年に定年退職し、IIBA日本支部代表理事、BSIA事務局長、PCNW幹事長などを通じて日本企業のIT部門を支援する活動に着手。

(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣/工藤  PHOTO:Inoue Syuhei 編集:野島光太郎)

 

 
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