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【書評】たった1人からはじめるイノベーション入門 総務だって営業だってイノベーションは起こせる

         

「イノベーションを起こせ」――。そんな号令がかかっている職場も多いのではないかと思います。ところが、今回紹介する『たった1人からはじめるイノベーション入門』の著者・竹林一氏によれば、イノベーションは自ら起こすものではないと語っています。

同氏によれば、イノベーションとは「自分がやりたいことをやりきり、その後に新しい価値が生み出され、それを外部の人が『イノベーション』であると言っているに過ぎないもの」だそう。たしかに、イノベーション先行でコトを起こそうとすると、あまり良い結果にならない気がします。

という具合で筆者は「イノベーションを起こす」という表現に疑念的ですが、それでは記事が終わってしまいます。そのため、ここでは便宜上、イノベーションは起こすものであるとして考えていくことにしましょう。

イノベーションを起こそうとすると、必ず何らかの壁にぶち当たります。本書には、イノベーションを起こそうとしている人、壁にぶち当たっている人の参考になる内容がたくさん載っています。ぜひとも、日々現場で闘っている人に読んでもらいたい1冊です。

イノベーションは誰にでも起こせる

イノベーションというと、精巧な機械などを思い浮かべますが、実はそれほど遠い存在ではありません。本書では、「それぞれの場で、新しいやり方で新しい価値を創ったら、それはイノベーションである」と述べています。つまり、人事でも総務でも、経理でも営業でも、イノベーションは起こせるのです。

私の話になりますが、ある福祉施設に出向になった時のこと。赴任して驚いたのが、そこで働いている人はみな「チャットツール(チャットワークやSlack)」のような存在を知らなかったことです。そのため、やりとりは口頭か付箋で行っていました。しかし、従業員はいつも同じ場所にいるとは限らず、外出などで自席に一日に一度も戻らないこともしばしばありました。そのため、情報の伝達がうまくできていませんでした。そこで私はチャットツールを全職員に導入することにしたのです。

はじめは「使い方がわからない」「面倒」といった意見が多かったのですが、しだいに「便利ですね」「これでコミュニケーションのロスを減らせる」という意見をもらえるようになりました。以降、その施設ではチャットツール無しでは仕事が進まないほどにまで浸透。これも一職員(しかも出向間もない私)が起こしたイノベーションと言えます。

イノベーションは日本独特?

本書に登場する、「海外の企業で働いてきて、『イノベーション』という言葉を聞いたことがない」というインド系アメリカ人。日本人は「イノベーションを起こせ」と言いつつも、席に戻ると「オペレーション」ばかりしていると辛辣なコメントを残しています。

そんな彼が主張するのは、「あなたの仕事はどんなインパクトを与えているか」というもの。彼自身の答えは「検索エンジンの検索時間を数ミリ秒早めた」ことだそうです。これは一見細かい話に思えますが、世界中の人々の時間を世の中から削減したと考えると多大なるインパクトです。これこそ、日本で言うところのイノベーションなのでしょう。

しかし、ごく一般的なビジネスパーソンの多くは「検索エンジンの検索時間を早める」ようなことはできません。インパクトを与える規模が大きすぎます。しかし、部門・部署規模でインパクトを与えることは可能ですし、それを実現させるための行動をとることはできるのではないでしょうか?例えば、私がやったのは、同僚にCtrlキーの使い方を教えることでした。本当に大したことではありませんが、意外とコピペの際にCtrlキーを使わない人は多いです。教えた結果、同僚の入力スピードは上がり、大いに感謝されました。まさに一石二鳥であり、少なくともチーム内には良いインパクトを与えられた(小さなイノベーションが起きた)のではないかと思っています。

自分のキャラを見極める

本書によると、イノベーションを起こすには、自分のキャラクターを客観的に見極める必要があるそうです。

人は「起」「承」「転」「結」の4つのタイプに分けることができ、「起」は0から1を仕掛ける人材、「承」は1をn倍(10倍、100倍、∞倍)する構造をデザインする人材、「転」は1をn倍化する過程で目標指標を策定し効率化かつリスクを最小化する人材、「結」は最後に仕組みをきっちりオペレーションする人材、だそうです。これらはクリエイティブな「起承」型人材と、オペレーションを回していく「転結」型人材にわけられます。そして、イノベーションは「起承」の人たちと「転結」の人たちがうまく連携したときに生まれるのではないかと述べています。いずれも100%どのタイプであるというわけではなく、「どの要素が強いのか」によって性格が出てくるらしいのです。

面白かったのは「起」タイプ。このタイプの人はアート思考の持ち主で、発想力に優れています。一方、自由な性格の持ち主でもあるようで、上司に相談なしに勝手に行動してしまうこともしばしば。実は私も勝手に行動してしまう傾向がありまして、止められない限り、永遠とアイデアを出し続けてしまう傾向があります。そんなわけで上司からは呆れられることも多かったのですが、果たして私のような「起」タイプはどうすればその力を活かすことができるのでしょうか?

本書には、「起」タイプの人の側には「承」タイプの人がいると良いとあります。「承」タイプの人は「起」が出した荒いアイデアを再定義し、グランドデザインを描いてくれるのです。設計の概念からいえば「構想設計」であり、それができるのも「承」の人材の持つ「概念化する力」と「巻き込む力」にほかなりません。

「承」の人材によってグランドデザインができあがると、「転」「結」の人材に「起」が何を考えているかが伝わるようになります。いわば「承」の人は橋渡し的な役割を持っているということですね。別の言い方をすればビジネストランスレーターの役割を果たしている人ということになります。

ちなみに筆者はいまの日本に一番足りない人材が「承」の人であり、「承」人材の育成が急務であると述べています。日本人には「転」「結」人材は元来多い気がします。そして「起」のような人も時々見かけます。しかし、「承」の人はなかなか見ないのではないでしょうか。ということは、逆に考えれば希少人材であり、人材市場では市場価値が高いとも言えます。

イノベーションよりも、まずはチーム編成を

本稿では、竹林一氏の著書「たった1人からはじめるイノベーション入門」を要約してお届けしましたが、どうやらイノベーションはアイデア出しのコツよりもまず、チーム編成のほうが重要であるように思えます。つまり上で触れた「起」「承」「転」「結」人材をうまく配置することが、そのチームのイノベーションを加速させることにつながるわけです。

考えてみれば、日本を代表する企業には、かつてカリスマ性のあるリーダーと、それを補佐する人材がいました(ソニーでいえば、井深大氏と盛田昭夫氏のような関係)。高度経済成長という時代背景があったにせよ、お互いの得意・不得意な点を補い合っていたからこそ、世界に冠たる企業がいくつも生まれたのではないでしょうか。今の時代、「転結」型人材の社長が多すぎる気がしますが、やはり激動の令和に再び世界的企業が生まれるには、各企業・組織ごとに人材のタイプの分析を行い、それに基づいた人材開発が急務なのではないでしょうか。「イノベーションを起こして欲しい」と上司に言われて困ったことがある方はもちろん、仕事の仕方やあり方について示唆の多い内容となっている一冊ですので、気になった方はぜひ読んでみてください。

またデータのじかんでは竹林一氏の取材記事も掲載しておりますので、そちらも合わせてご覧ください!

(安齋 慎平)

 
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