経済産業省が2018年9月7日に発表した「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」という報告書が話題を呼んでいます。
官公庁の資料といえば、そこそこ周知の事実を希望的観測に基づいてまとめるのが定石ですが、「2025年の崖」とは題名からしてやたらと煽情的ではありませんか。いったい2025年にどんな危機が待ち構えているというのでしょうか?
DXとは「デジタルトランスフォーメーション」の象徴語で、現在のITシステム(報告書中では主に基幹系システム)の刷新を意味します。時代遅れかつ複雑化した現在の基幹系システム=レガシーシステムをこのまま使い続けると、2025年までにデジタル文脈上で起こる様々なイベントに対応しきれず、多額の経済的損失や社会的な混乱を巻き起こす、というのです。
具体例としては、現在から2025年まで順次以下のようなイベントが待ち構えています。
2020年-2025年
2020年
2024年
2025年
上記に関連して、DXの遅延により以下のような損失が生じると予想されます。(経産省によるDXレポートから抜粋)
日本全体の損失
システムユーザーの損失
システムベンダーの損失
そもそも日本の基幹系システムというのは、2000年代初頭から推し進められてきたデジタル化の中で、随時エンジニア達によって集中処理型システムにツギハギされてきたものが中心。そのためいわばブラックボックス化しており、データ移行や体系化のためのマップを作ろうとしても手が付けられない状態です。
さらに、システムのベンダー側の思惑も絡んでいます。専門的なエンジニアを自所で多数抱えるとコストがかさむため、ほとんどのユーザーは自社のシステム構築をベンダーに外注しています。ベンダーとしては、ユーザーにはカスタマイズできないシステムを構築すれば永遠に自分のところに仕事が回ってくるわけですから、当然クローズドシステムを構築します。こうしてブラックボックス化が進行します。
このベンダー以外の他者と情報が共有されないクローズドシステムは、「ベンダー・ロックイン」と呼ばれます。地方自治体のシステムはベンダー・ロックインだらけだと言われています。DXの推進はもちろんベンダー・ロックインの解除が前提ですが、自社の首を絞めることになるためベンダーが率先してロックイン解除に取り組むことはないでしょう。
このような状態では、基幹系システムをイチから作り直す方が容易だと考えられています。しかし、新しい基幹系システムを構築するためのリーダーを選び、ある程度全体に共通するスキームを取り決めるところからの話になるため、多額の投資と人材が必要で、政府や企業が刷新に着手するのを先延ばしにする原因となっています。
このまま何もせずに座して2025年を待てばそうなるかもしれませんが、経産省はさすがにそれではまずいと考えてDXレポートを発表したわけです。経産省としては、法律で規制をかけてでもDXを推進していく構えです。
この法律は各企業について強制力を持つものでないといけないため、これまでの「IT基本法」や「情報処理促進法」のようなデジタル化促進のための環境整備のための法律とは違い、チェック機能を持つことになるでしょう。
例えば、基幹系システムの根本改革をコーポレート・ガバナンスやコンプライアンスのように企業が遵守するべき法規として整備しようとする動きがあります。こうすることでユーザー・消費者の企業に対する信用度を担保に入れるわけです。
数兆円にのぼると言われるDXコストがこの先どう国家予算に計上され、どう振り分けられるのかも興味深いポイントです。
【参考記事】
(佐藤ちひろ)
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