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「ビッグデータ」や「データサイエンス」などが一般的になってきた今、データの可視化の重要性が高まっています。
データの可視化に用いられるのが「グラフ」です。企画書やプレゼンテーション用資料などにグラフを作成して用いたという人も多くいるでしょう。また、最近ではよりわかりやすくするために、グラフィックを用いたインフォグラフィックや、見ている人が自由にデータの視点を変えられるデータビジュアライゼーションなどもよく見かけます。
そんなグラフの基本的な考え方や魅力を伝えるためのセミナー『「伝わるデータ」のつくりかた?Excelだけじゃない! データ可視化の手法と威力を知る』が、2019年12月5日にヤフー株式会社のオープンコラボレーションスペース「LODGE」にて開催されました。その模様をお伝えします。
約140名が参加した本セミナー。司会進行役はCCCマーケティングのデータアナリストで、2018年にMicrosoft MVP for DataPlatform(2018-2019)を受賞した小林寿さん。登壇者は大人の部活 データ可視化集団 E2D3.org 代表でパーソルキャリア マネージャーの五十嵐康伸さん、デコムでR&D部門の統括をする傍ら、データ分析をベースにしたビジネス書の執筆を行っている松本健太郎さんです。
まずは五十嵐さんが登壇。テーマは「データ可視化作品を見ることと作ること」です。五十嵐さんが主宰するE2D3.orgは、「データって、面白い!と感じる瞬間を全ての人に届けたい。」という理念を胸に活動している非営利のコミュニティで、Excel上で、手軽にデータを「動くグラフ」にできるアプリを無料で提供しています。
五十嵐さんらは、昨年「プロ直伝 伝わるデータ・ビジュアル術 ――Excelだけでは作れないデータ可視化レシピ」を上梓し、「統計グラフ」「地図」「インフォグラフィック」「ネットワーク」「Webツール」の分野別に選りすぐりのツールを使った加工方法を書籍の中で解説しています。
そんな五十嵐さんは、グラフを見る方法と作る方法について話すとのこと。
まずは「見る」ことから話は始まります。
最初に気候変動のグラフを例に、グラフの見方についての解説から。1958年から2017年までの北極圏の温度を表したグラフでは、スライスチャートという形式で、毎年の温度変化の推移を表しています。
もうひとつ。こちらはグローバルな温度変化のグラフ。1年が経過するごとにグラフを円状に上書きしていきます。円には1月から12月までの点があります。一番中央が初期の温度。年々温度が上昇しているのがわかりますし、月ごとの温度変化もわかります。
「最初のグラフは、70年間の気温変化が一覧できましたが、比較しにくいものです。それに比べて2番目のグラフは比較がしやすくなっています」(五十嵐さん)
気温に関してだけでも、まだまだグラフがあります。1年12か月分の温度を折れ線グラフにし、それを1年ごとに重ねたものや、各国ごとに放射線状に温度を示したものなど、同じ温度を表したグラフでも、さまざまなものがあります。
このほかにもいくつかのグラフを紹介。イラストを用いたものや、マウスオーバーで動くグラフなどもあり、一口にグラフといってもさまざまな種類や表現方法があることがわかります。
今回、五十嵐さんは「地球の温度上昇」というワンテーマで、10種類以上のグラフを紹介しました。つまり、見る角度や伝えたいことにより、同じデータからさまざまなグラフが作れるということになります。
五十嵐さんは「ワンテーマでこれだけの可視化方法があります。さまざまなグラフを数多く見ていくことで、どれを使えばデータが伝わるか、自分が動かしたい人が動いてくれるかということがわかります」と話します。
「何が言いたいかというと、ここまで調べれば気候変動のような大きな問題を、かっこよくセクシーに扱えるんじゃないかと思うわけです」(五十嵐さん)
データを正確に伝えることはもちろん大切ですが、見てもらう人にもっとわかりやすく、興味を持ってもらうようにすることができる。インフォグラフィックスやデータビジュアライゼーションは、そういう可能性を秘めているのです。
次は松本さんが登壇。まずは「伝わるって何だろう」という話からスタート。ビジネスの現場では、プレゼン資料や報告書、企画書などでデータを使ってグラフを作ります。このとき多くの場合、作り手側が発信することに主眼を置き、相手に伝わるかということを軽視してしまう傾向があります。
「僕が、私が伝えたいということと、相手が知りたいと思うこと。この合致が“伝わる”ということの大前提だと思います」(松本さん)
いくらこちらが情報を発信しても、相手がそれを認識してくれなければ伝わったことにはならないということなのです。
伝えるための手段は、言葉や映像、音、写真、絵など多数存在します。そのなかでも、なぜグラフを選ぶのか。グラフの父といわれるウィリアム・プレイフェアは「表なら1日かかってしまうのと同じ情報量を5分で得られるようにする」と著書に記していますが、松本さんはこの言葉に答えが集約されていると考えています。
「グラフは視覚表現量が少ないままに、表で見た数字の情報量をほぼ損なわずに、内容を一瞬で知覚できる。わざわざグラフにして見せる意味というのは、ここにあると思っています」(松本さん)
グラフを使えば、表よりもわかりやすいということは理解できましたが、いざグラフを作ろうとするとどんなグラフにすればいいのかわからないということも。これに対して松本さんは、「自分の言いたいことを伝えるのではなく、相手に知覚してもらうことが必要」と話します。
グラフの形式は数多くありますが、それぞれ得意不得意があるので、まずはそれを理解しておくことが必要です。グラフの表現としては。比較・推移・偏り・関係という4種類あるとのこと。
折れ線グラフと棒グラフで同じ月ごとの売り上げデータをグラフ化したものを例に見てみましょう。折れ線グラフは推移を表すのが得意な形式。一方棒グラフは比較が得意な形式です。
仮に、1年間の売り上げの推移を見せたいのであれば、折れ線グラフを使うのがベター。逆に推移を見せたいのに棒グラフを使ってしまうと、各月ごとの売上額に意識が行ってしまい、月ごとの変化に気づきにくくなってしまいます。
つまり、何を伝えたいかによって使うグラフの種類は決まっているのです。
松本さんは「グラフはデータをグラフィカルに表現するためのものではない」と言います。
「見せ方が美しいとか、ビジュアルがきれいとかも重要なんですが、基本的には自分自身がデータをどんな切り口で分析したいのか。これがすべてではないかと思います」(松本さん)
一般の人がやりがちなグラフ作成方法として、手元にあるデータをグラフにするということ。しかしそれは、「データの可視化」をすることで満足してしまっているだけなのです。
松本さんは、「まず伝えたい内容ありき」と語ります。そして、それを言うためにはどんなグラフの形式が最適化を考える。そして、手元にあるデータで十分かどうかを精査し、足りなければデータの収集をするという手順が、結果的に労力が一番少なくて済むグラフ作成方法なのです。
それでは、どうしたら相手に伝わるグラフが作れるのでしょうか。それにはスロー思考とファスト思考という2つの考え方が重要です。
松本さんが例として、役員会での報告のためのグラフを表示。左は前年度と今年度の四半期ごとの成績、右は前年度と今年度の通年の成績のみのグラフです。
「私は今年がんばりましたという報告をするのに、右のグラフならばよくやったと思うじゃないですか。しかし左のグラフを見せると、今年の3Qだけなぜそんなに売り上げがあるのかとつっこまれて、議論が不毛な方向に行ってしまうんです」(松本さん)
要は、TPOに合わせて適したグラフを作れなければ、コミュニケーションとして成立しなくなってしまうということ。必ずしも詳細なデータが記載された、美しいグラフがいいというわけではないのです。
「じっくり考えないといけないときに使うグラフと、パパっと判断を仰がなければならないときに使うグラフは、分けて考えなくてはいけない。グラフを使うシーンが定まってから、どういうグラフを使えば相手に伝わるかということを考えなければいけないと思います」(松本さん)
最後は、五十嵐さんと松本さん、そして進行役の小林さんによるクロストークです。基本的には、客席からの質問に答えていく形となります。そのなかから、いくつかご紹介します。
五十嵐さん 一番シンプルなのは、総務省の統計教育のためのサイト「なるほど統計学園」を見るのが一番いいと思います。総務省は国勢調査をやっている、統計を扱う部署なんです。無料でわかりやすく、小中学校向けの資料などもあります。
松本さん ちょっとたいそうな感じになるかもしれませんが、数字を疑ってかかるというのは重要な観点だと思います。数字は二次元ではなく三次元なので、違う角度から見ると違う表情が見えるということに気づいて、かつ違う角度から見てみようと思うことが。リテラシーの向上につながると思います。
五十嵐さん 誰をどう動かしたいかを考えるのが一番大事ですね。そしていいグラフを作るコツは、不要な要素を削ることだと思っています。また、縦軸横軸に単位を書いておくとか、色の違うグラフは何を意味するのかを書いておくとか、すごく基本的なことを当たり前のようにやっておくというのは、グラフを有効に働かせるコツだと思います・
松本さん 僕、タブローパブリックを見るのがすきなんですけど。タブローでは週次でベストプラクティスが紹介されているので、参考にしています。また、海外のロイターがインフォグラフィック系の賞を取ったりしているのですが、やはり参考になるというか、こういう見せ方するといいねという感じになるので、いろいろ見て参考にするといいかもしれません。
松本さん 最強はExcelだと思っているんです。Excelで標準搭載されている機能でグラフを作って、周囲の人にきちんと伝わっているところが、まず第一段階だと思います。その次に、テクニック本やきれいなグラフの作り方などを学ぶのがいいと思います。多くの人が、第一段階を飛ばして第二段階に行ってしまうので、あまり伝わらないグラフを作ってしまうのでしょう。
五十嵐さん 会社のなかで学ぶなら、社内資料をちゃんと見ること。大きな会社なら営業企画や人事企画という部署があると思います。そういうところはグラフをいっぱい作っていると思うので、それがあれば見る。
それで内容が伝わればOKですが、わからない場合は直接聞きに行ったり、こうしたらいいのではと伝えるというのがいいのかなと。グラフの活用ができるとともに、社内の人間関係も作れるし、会社の中にビジネスが作れていいのではと思います。
五十嵐さん 基本的に最初は紙に書いてから、静止画を作ります。次にこのボタンを押したらこうなりますというぐらいまで作って、クライアントに持っていきます。そこでOKが出たら画面に落とし込みますが、JavaScriptの実装は最後の最後でいいと思います。
松本さん 紙に書くというのは五十嵐さんと一緒ですね。縦軸、横軸、表現形式などをまず紙に書いていき、ベストと思うものができたらデータを集めます。データを集めている段階でタブローパブリックでこうすればいいという形がわかっているので、その確認をしてそのままキャプチャーを取る場合もありますし、Excelに変換して送る場合もあります。
五十嵐さん これはグラフ作成、パワーポイントの資料作成、Webサービスを作るとき、全てに共通して言えるのですが、できるだけ最初は紙に書いたほうがいいですね。20枚くらいのプレゼン資料をパワーポイントで作るときも、まず紙でラフスケッチを書いてから作ります。
松本さん 僕もnoteに文章を書くときは、A4の紙のセンターにタイトルを書いて、タイトルに対して言いたいことなどを書き込んで、大項目を支えるロジックなどや補足などをツリー図にして、そこに文章を書き足しています。だいたA4の原稿で1000文字くらいになります。そこから原稿を書きます。
五十嵐さん 紙は自由度が高いですよね。
近年は「データの可視化」というキーワードが注目され、それに伴い、蓄積されたデータをグラフ化して見てもらうというケースが増えています。BIツールのダッシュボードなどもその一例です。
しかし、そこに表示されているグラフに確固たる意味が込められているのか、誰に向かって発信しているのかという作り手側のリテラシーと、そのグラフからきちんと内容が読み取れるかという、読み手側のリテラシーが必要になります。
それがわからないまま、ただグラフを作成しても言いたいことは伝わりませんし、グラフを見ても何のことやらわからない。まったく意味がないものになってしまう恐れがあります。もっと言えば、誤解が生まれてしまうことも。
今回のセミナーでは、グラフというものがどんなものなのか、という気づき、そして「伝えるための手段」としてのグラフの作り方の基本を学ぶことができました。
ビジネスシーンにおいても、グラフの作成やグラフを見る機会は少なくありません。もっとグラフというものを意識していきましょう。
(取材・TEXT・PHOTO:三浦一紀)
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