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「オープンデータの伝道師」庄司昌彦氏が考える次の一手。重視しているデータの濃度

         

内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室は、オープンデータ利活用を通じての社会課題解決に積極的に取り組み、実績を残した8名を「オープンデータ伝道師」に任命しています。

そのうちの一人であり、Open Knowledge Japanを設立し、オープンデータとオープンガバメントの推進をリードする国際大学GLOCOM 主任研究員・准教授でOpen Knowledge Japan代表理事の庄司昌彦さんに、オープンデータに注目するようになった背景、これまで取り組んできたこと、今後取り組みたいこと、そしてビジネスパーソンへのアドバイスについて聞きました。

庄司先生がオープンデータに注目するようになった背景を教えていただけますか。

以前から地域社会の運営に興味があり、行政、企業を始めとする組織、コミュニティも含め、地域がうまく回るにはどうあるべきかを研究しています。

2000年代中盤から2010年代前半にかけてはSNSの研究をしていました。当時は独立系の地域特化型のSNSが全国に500以上あり、それぞれが地域の産業振興や自治、口中などのためにいろいろなことをやっていた時代でした。

その後、2009年にオバマ政権がスタートした後、米国の政権交代後の動向の視察に行きました。当時、私の周辺ではスマートグリッドなどのエネルギー政策が注目を集めていましたが、実際に行ってみると「オープンガバメント」が最大の話題だったのです。Twitterが急速に普及していく時期でしたから政府によるソーシャルメディアの活用は多少話題になっていましたが、それだけではなく、さまざまなデータを公開して国民に向けて開かれた政府にしていこうという機運が高まっていたのです。

それから東日本大震災もきっかけになりました。その当時、政府のIT戦略本部のタスクフォースに参画しており、日本でももっとデータを活用しようと言っていた矢先に起きた出来事でした。この時、政府の会議で発言できる立場なのに、何もできなかったという無力感に苛まれたことが現在やっていることにつながっているかもしれません。

私は文系出身で、データサイエンティストのように、データの処理や分析に強みを持つわけではありませんが、その分よく観察をして、ユーザーの立場で求められていることを丁寧に考えたいと思っています。注意しているのは、データ分析の都合で考えないこと。データの活用ではチームワークが大切になります。ですから、コミュニケーションの場で、仮設の立案やデータの解釈でチームに貢献したいと考えています。

オープンデータ活用促進に向けて、庄司先生が重点的に取り組んでいることはどんなものでしょうか。

今考えているのは、都市や地域で使えるデータの「濃度」を上げることです。私はデータの濃度を、特定の場所や空間におけるデータに多様性がある状態と捉えています。ビッグデータの分野では、3VといってVariety(種類)とVolume(量)とVelocity(頻度)の三拍子揃っていることが理想的とされますよね。

そうしたデータが仮に存在していても、行政や企業それぞれが囲って見えなくなっている場合と、使いたい人みんながアクセスして組み合わせたりすることができるデータが濃密に存在している場合とでは、都市で活動する企業や組織にとってどちらに魅力があるでしょうか。使えるデータの濃度が高いほど、その地域は生活しやすい場所になると思います。

さらに、その地域の過去はどうだったのか、時間軸の観点まで加えれば、データの濃度に奥行きが生まれることがおわかりいただけるでしょう。東京都のオープンデータ政策にも関わっているので、ぜひ東京で使えるデータを使いやすくしていくことに取り組みたいと思っています。

都市開発は、団地の供給や沿線領域の開発などで、国や企業が主導してきた時代を経て、今は秋葉原のように共通の関心を持つ人が集まったり交流したりする「個人」の活動が積み重なって魅力的な地域が生まれてくる時代になっていると思います。2020年に開催を控える東京五輪も同じで、国威発揚や過度な商業主義に基づく運営は限界があるのではないでしょうか。市民が主体的にさまざまな形で関われる運営に進化するよう、できれば東京で先鞭をつけられないかと考えています。市民主導を実現するための鍵は濃度の高いデータにアクセスできる環境の実現ではないかと思います。

Open Knowledge Japan設立の経緯と今後の展望について教えていただけますか。

2012年7月に「電子行政オープンデータ戦略」を発表した際に、政府がオープンデータを進めるのであれば、企業や市民の側も古い習慣や仕事のやり方を見直し、オープンイノベーションを実現しないといけないと考えたのが、仲間を集めてOpen Knowledge Japan(OKJP)を作るきっかけでした。

Open Knowledge として活動しているグループが40ヶ国以上にある中、日本は比較的活動が活発な国のひとつで、2016年に正式な支部(Chapter)となりました。実績も積み重ねてきましたし、今後は日本の動きを世界に紹介することと、世界の動きを日本につなげることをやりたいですね。国際連携を進める活動が日本の地域を良くすることにつながると思います。

それから行政のデータだけでなく、守るところは守りながらも、個人のデータもオープンにする活動を進めていきたいです。WikipediaやOpenSreetMapのように市民が作るオープンデータも広がっていますし、企業のオープンデータ提供などにも活動範囲を広めていきたいですね。企業活動とオープン化は相性が悪いかのように捉えられることもありますが、OSSの普及プロセスを参考にすると、守るべきノウハウなどを守りつつオープン化戦略をうまく使ってきた企業はありますよね。 それからOKFJのKはナレッジのKですからデータだけではなく、その先のナレッジの活用にも早く行きたいですね。

データ分析の面白さや楽しさはどこにあるのでしょうか。実務でデータ分析に従事するビジネスパーソンに向けて、庄司先生の考えを聞かせてください。

いわゆるデータサイエンティストとそうではない人が集まってコミュニケーションをするのは楽しいことですし、そこが価値を生む場になるのだと思います。観察や経験、たくさんの事例などを基に「こんな傾向がある」と仮説を作れる人と、「それを言うためにはこういう分析が必要」と分析のアイディアを出せる人の意見が合わさった時の楽しさを体験してほしいと思います。いろいろな考えの人が集まる出会いの場面をどれだけ作れるか、その場をいかに充実したものにできるかというノウハウは、企業にとっての強みになると思います。得意分野が違う人同士のコミュニケーションを活性化し、行政でも企業でもお互いの意見を楽しめる環境が増えるといいですね。

例えば「提供データ形式はExcelがいいのかCSVがいいのか」という議論があります。CSVであっても正規化されていないなど使いにくいデータはありますし、ではExcelのままでもいいかというと凝りすぎたExcelファイルは「ネ申Excel/Excel方眼紙」などといって問題になっています。

形式的な話をするのではなく、データを使う側にとって、どういうデータはなぜダメなのかを説明して理解を広めていくというプロセスが重要ではないでしょうか。今は主に行政がオープンデータの提供をリードする役割を担っていると言えるでしょう。行政側としては、データの量を増やすことを優先しているので、「何が必要かを教えてもらいたい」という段階ですが、その次は質を高める段階に移るでしょう。「どんな形式なら使いやすいか」を含めて質を議論するコミュニケーションを活発にしていければと考えています。

お話を伺ったDataLover:庄司 昌彦(ショウジ マサヒコ)さん

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)准教授・主任研究員
一般社団法人 オープン・ナレッジ・ファウンデーション・ジャパン 代表理事
内閣官房 オープンデータ伝道師

中央大学大学院総合政策研究科博士前期課程修了、修士(総合政策)。情報社会学を専門とし、電子行政・オープンガバメント、地域情報化、社会イノベーション、高齢社会研究などに関する企業・行政との共同研究等に従事している。東京大学公共政策大学院客員研究員、東京都「ICT先進都市・東京のあり方懇談会」構成員・公共データ活用分科会長、一般社団法人情報通信学会常務理事・研究企画委員長なども務めている。
主な著書に『地域SNS最前線 Web2.0時代のまちおこし実践ガイド』(共著、アスキー)など。「行政情報化新時代」を『行政&情報システム』誌にて連載中。

 

 

 
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