毎日やることがいっぱいで、スケジュールはパンパン。なのに、なぜか充実感はなく、心が疲れてしまっている……。
このような思考に効くクスリとして評判を呼んだのが「エッセンシャル思考」です。本記事では、エッセンシャル思考をご紹介したうえで、本当に実践することは可能なのか、など多様な視点で検証します。
エッセンシャル思考は“エッセンシャル(essential:必要不可欠な)もの以外をそぎ落とすことで本質的な価値に注力する”という考え方です。
シリコンバレーのコンサルティング会社THIS Inc. CEOのグレッグ・マキューン氏により考案され『Essentialism: The Disciplined Pursuit of Less』として2014年に書籍化されました。
たちまちベストセラーとなった同書は、2014年には『エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする』(以下、『エッセンシャル思考』)として邦訳出版。日本でも累計40万部を突破し、現在(2022年)まで売れ続けているロングセラーでもあります。
『エッセンシャル思考』序文では、以下の「3つの嘘」を「3つの真実」に置き換えることが推奨されます。
3つの嘘 | 3つの真実 |
やらなくては | やると決める |
どれも大事 | 大事なものはめったにない |
全部できる | 何でもできるが、全部はやらない |
冒頭のような状態に陥ってしまうのは、「3つの嘘」がデフォルトの思考・行動としてインプットされてしまっているからではないでしょうか。機械化が進み、インターネットが普及して世の中はどんどん便利になりますが、むしろやることが多くなって「時間がない!」と嘆く人は増加したように思われます。
時計・腕時計メーカー大手セイコーの『セイコー時間白書2021』によると、「時間に追われている」と感じている人は日本で61.8%、アメリカで69.2%、中国で90.8%でした。また、その感覚が強くなったという人は日本で44.2%、アメリカで52.5%、中国で85.8%という結果に。
引用元:セイコー時間白書2021┃SEIKO公式
調査した三国で日本の割合が最も低くはあるものの、やはり「時間がない」と感じる人がマジョリティなのは間違いないようです。
ここで、少し私(アラサーフリーライター)の話をさせてください。
正直なところ、私はエッセンシャル思考とは真逆の生活を送っています。
ライティングは、“やりたいこと”ですが、生活のために”やらなければならない”と思って書く記事は少なからずあります。もちろん、毎月の請求や経理作業、確定申告の準備、メールの返信など、“(特にやりたいわけではないけれども)やらねばならない”ことはほかにも多数あります。
企業で働いていたころも、毎日のメール返信や必要かどうかわからない打ち合わせや資料の作成など、「ねばならない」は日々発生していました。“エッセンシャルではないから”と上司から命じられた仕事を断るなんて現実ではないように思えます。
“エッセンシャルなこと”に注力するには、人に頼むかお金で解決するしかないわけですが、そのためには良好な人間関係やお金が必要なわけで、それらを得るためには”やらねばならない”ことがあり……(以下無限ループ)。
このように現実の仕事をやる上では常にエッセンシャルではいられないし、エッセンシャル思考を完璧に実践できる人はマキューン氏や彼が書籍で紹介するエグゼクティブのようによっぽど有能な人なのでは?
……要するに、“エッセンシャル”の定義の問題なのでしょう。
“エッセンシャル”とは必ずしも「やりたいこと」とイコールではなく「やりたいことをするためにやらなければならないこと」も含みます。しかし、「やりたいことをするために何をやらなければならないか」は、やる前から100%はわかりません。だから、「やらなくては」「どれも大事」「全部できる」と3つの嘘を信じ込むのがある意味一番楽。
それが私たちを「時間がない!」と悩ませる元凶なのです。
とはいえ、何となく「9割方必要だろう」「ほとんど意味がなさそう……」といった判断は未然に下されているはず。それらを玉石混交にせず、「ほとんど意味がなさそう……(でも必要な可能性も1〜2割程度存在する)」ことを切り捨てる勇気を持てるということが、エッセンシャル思考の第一の効能なのだと思います。
その効能を得るには、エッセンシャル思考を知るだけではなく少しづつでも実践し、行動を通して体得しなければならないでしょう。
『エッセンシャル思考』第2部では「見極める技術」と題し、“エッセンシャル”なものと“そうでないもの”を見極める技術が紹介されています。
本当に重要なものごとを見極めるために必要なことは5つ。
じっくりと考える余裕、情報を集める時間、遊び心、十分な睡眠、そして何を選ぶかという厳密な基準だ。
引用元:グレッグ・マキューン (著), 高橋璃子 (翻訳) 『エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする Kindle版』2014、かんき出版、P77
この5つにひとつ付け加えるとすれば、それはデータです。
第2部第6章「洞察─情報の本質をつかみとる」では、現代社会で洪水のようにあふれる情報の中から本質を見出すには、大局を掴み、その中の“語られなかったこと”や違和感に目を向けることが重要であると説かれています。
それが可能だという、“すぐれたジャーナリストの目”はこれまで、KKD(勘・経験・度胸)に支えられていました。しかし、現在重要とされているのがKKD→DNA(データ・数字・分析)への移行。
企業の場合はもちろん、個人でも蓄積されたデータに基づき“エッセンシャル”は何か、ヒントやアドバイスが与えられるサービスやツールは増えていくでしょう。すでにAIが行動パターンから幸福度を計測し、よりよい働き方を提案するアプリケーションなどの事例はあります。
“何がエッセンシャルか”を見極めるのは容易なことではありません。だからこそ、それを考えられる能力や状態を自分の中に生み出すこと、それをデータの力で補助してもらうことの両面が重要になってくると考えられます。
「断捨離」という言葉がユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされたのは2010年のこと。2019年には片付けコンサルタントこんまり氏の世界的ブームが起こりました。
エッセンシャルでないもの・時間に疲れ果てているというのは、『セイコー時間白書2021』からもわかる通り世界的に共通している課題のようです。まずは「多分やらなくていいけど惰性でやっていること(誰にでもあるはずです)」をひとつ辞めてみるところから“エッセンシャル思考”をはじめてみましょう。
【参考資料】 ・グレッグ・マキューン (著), 高橋璃子 (翻訳) 『エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする Kindle版』2014、かんき出版 ・セイコー時間白書2021┃SEIKO公式 ・AIのアドバイスで職場の“幸福度”向上、業績もアップ 日立が実証実験┃AI+ ITmedia NEWS ・第27回 2010年 授賞語┃現代用語の基礎知識選 ユーキャン新語・流行語大賞
(宮田文机)
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