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北海道庁公表のオープンデータ「海外資本等による森林取得状況」で国籍/利用目的/面積などここまでわかる!?

北海道庁公表のオープンデータ「海外資本等による森林取得状況」で国籍/利用目的/面積などここまでわかる!?

今回の参議院選挙でも話題となったのが、外国人による土地取得についてである。この類の話題で引き合いに出されるのが、北海道がオープンデータとして公表している「海外資本等による森林取得状況」だ。ネットの世界では、このデータを基に中国企業が北海道の森林を取得している云々という、投稿が目にとまる。個人的には外国人による土地取得の是非はともかく、「海外資本等による森林取得状況」というデータのみで、土地取得した企業の国籍が判明するのか、という疑問を持った。

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外国人の土地取得に関する前提知識

まずは、「海外資本等による森林取得状況」を見ていく前に、外国人の森林取得が法的に認められているか否かを確認しておきたい。憲法29条では、財産権を保障している。外国人の土地取得に制限をかけると、憲法29条に抵触する恐れがある。

ちなみに、戦前の1925年に成立した「外国人土地法」では、外国人による土地取得に一定の制限をかけている。しかし、1945年以降は憲法29条との兼ね合いもあり、死文化している。

日本が1994年に加盟したWTOのGATS(サービス貿易に関する一般協定)も指摘する必要がある。この中に、国際ルール「内国民待遇の補償」があり、外国人に対して土地取得の制限をかけてはならない、としている。協定時に土地取得制限の留保することもできたが、日本は行わなかった。

では、外国人が森林を取得したからと言って、好き勝手に開発できるかと言われると、そうではない。森林法では県・市町村・個人・企業が所有者の民有林に関して、「地域森林計画」が適用されている地域(5条森林)では、伐採や土地造成を行う際は都道府県知事の許可が必要となる。逆に5条森林に含まれない森林は森林法の適用外となる。

現在、議論となっているのは、森林を取得した外国人による違法伐採である。そして、森林を取得した外国人の把握が難しい状況になっている。

「海外資本等による森林取得状況」というデータはどのようなものか

北海道は、海外資本等による森林取得状況について調査を行い、2012年度から毎年公表している。ここでの「海外資本等」の定義は「居住地が海外にある外国法人または外国人と思われる者」並びに「国内にある外資系企業と思われる者」である。

そもそも、森林法により、面積にかかわらず、森林の土地の所有者となった場合は、市町村に届け出を提出する必要がある。また、国土利用計画法では、一定面積以上の土地に関して、売買等の契約を締結した場合、市町村長を経て知事に届け出を提出する必要がある。提出を怠った場合は罰金刑はあるが、刑事罰はない。

ここでは、外国人の森林取得状況に関して、北海道がよく話題に挙がることから、この記事では北海道に限定して調査した。

意外と中国人の取得者は少ない?

それでは、2024年7月に公表した2023年分のデータを見ていこう。2023年1月~12月まで、海外資本等が取得した森林の総数は計29件、面積は278ヘクタールに及んだ。このうち、「居住地が海外にある外国法人または外国人と思われる者による森林取得事例」が26件、「その他の事例(国内の外資系企業と思われる者による森林取得事例)」が3件である。

振興局・市町村を見ていくと、後志振興局が管轄する市町村が25件を占める。後志振興局はニセコ町や倶知安町を含む。ニセコ町だけでも9件に及び、スキー場のみならず、土地取得においてもニセコは外国人にとって人気があることがわかる。

ところで、北海道には14の総合振興局・振興局があるが、データにある振興局は4振興局(後志、胆振、石狩、上川)に限られる。森林取得において、地域的に偏りが見られる結果になった。

次に取得した森林面積だ。3ヘクタール以下の取得が目立つが、特筆すべきは53ヘクタールと132ヘクタールの事案だ。53ヘクタールの事案は利用目的が「未定」となっている。132ヘクタールの事案の利用目的は「太陽光発電施設」となっている。太陽光発電施設を建設する企業は、ドイツに本社、日本、アメリカ、カナダに支社、子会社を有するhepグループだ。計画では、ゴルフ場のコースにソーラーパネルを設置。新たな土地の造成工事は行わないとしている。周辺住民への説明会も実施している。

この流れで、利用目的にも触れておこう。先ほどの太陽光発電の建設のように、利用目的が明確化しているケースは決して多くない。29件のうち、不明が10件、資産保有が14件も占める。全てとはいえないが、リゾート開発の可能性は十分に考えられる。

最後に、いよいよ気になる取得者の所在地である。所在地、すなわち国籍はバラエティに富み、最も多いのはシンガポールと英領バージン諸島の各5件である。中国は香港の4件となり、中国人による土地取得が話題となるわりには、意外と少ないのだ。他では、韓国、台湾の他に、イギリス、ノルウェーといったヨーロッパ諸国も存在する。

「取得者の住所地」のからくり

「海外資本等による森林取得状況」のデータだけを見て、「なーんだ、中国による森林取得はたいしたことがない」と思うかもしれない。しかし、すでにお気づきかもしれないが、ここにはカラクリがある。先ほど見た英領バージン諸島の存在である。英領バージン諸島は各種税金が免除される「タックスヘブン」のひとつであることは周知の事実だ。英領バージン諸島で設立された企業は、一般的に「BVI法人」と呼ばれる。

BVI法人設立のメリットは、主に5点が挙げられる。1 会計監査・税務申告をしなくてもよい、2維持コストが安い、3取締役会の開催をしなくてもよい、4登記内容の機密保持性が維持できる、5資本金が公表されない。

このように、税金から逃れるだけでなく、匿名性の高い企業設立が可能となるのだ。つまり、所在地を「英領ヴァージン諸島」にすることにより、森林土地取得者個人の国籍を隠せるわけだ。

また、シンガポールは多民族国家ではあるが、中華系が多い国で知られている。ヴァージン諸島と同じく、企業設立が容易である。

議論のポイントは

このように、「海外資本等による森林取得状況」にある「取得者の住所地」はあまり意味がないことがわかる。つまり、森林取得者の本当の国籍がわからないからだ。また、届け出で済むので、このデータだけだと、実態が把握しづらい。

この記事では、外国人による土地取得の是非には踏み込まない。ただ、意見を述べるとすれば、まずは届出制という「提出したら終わり」という状態ではなく、審査の厳格化が必要となるだろう。外国人による土地取得に制限をかけるよりも、ルールをきっちりと整備し、ルールを守った外国人が土地を取得した上で、安心してビジネスができる環境を整備するという姿勢が必要なのだろう。

著者・写真撮影:新田浩之
2016年より個人事業主としてライター活動に従事。主に関西の鉄道、中東欧・ロシアについて執筆活動を行う。著書に『関西の私鉄格差』(河出書房新社)がある。文
 

(TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之)

 

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