愛知万博は現在の関西万博、いやひょっとすると、関西万博以上に心配されたイベントだった。なぜなら、万博自体の存在意義が問われた時だったからだ。1990年代に入ると、IT化、グローバル化の進展により、多くの国が一堂に会する万博への疑問の声が聞かれるようになった。
現に、愛知万博の前の万博、2000年に開催されたドイツ・ハノーバー万博では巨額の赤字が発生。失敗に終わった。また、2004年に開催予定だったフランス・サンドニ万博は小規模の映像博覧会を計画したが、資金不足により中止に追い込まれた。もし、愛知万博がとん挫すると、「万博3連敗」になるところだった。
一方、万博開催に責任を持つBIE(博覧会国際事務局)も当時、危機感を共有していた。そこで、万博の存在意義に関して、「万博が地球規模の課題解決に貢献しなければならない」と提唱した。21世紀最初の万博となった愛知万博も「地球規模の課題に貢献する」というテーマを掲げ、開催へとまい進したのである。
当時の愛知万博の関係者のインタビューを読むと、一連の万博をとりまく環境により、相当のプレッシャーを感じていたという。また、国内でも愛知万博に対しては厳しい目が向けられた。開催前の人々の関心は高くなかった。
今回の大阪・関西万博は少なくとも愛知万博が受けた「万博3連敗」のような、万博の存在意義を問うようなプレッシャーは少ないのではないだろうか。なぜなら、コロナ禍に行われたドバイ万博は成功を収めたからである。
愛知万博は2005年3月25日から9月25日まで行われ、目標入場者数は計1500万人とした。1日あたりの入場者数になおすと、約8万1千人になる。しかし、初日から入場者数が多かったわけではない。3月25日からの第一週目は春休みにも関わらず、3月25日~31日における1日あたりの入場者数(週単位)は60,870人にとどまった。
その後、4月中旬から6月中旬にかけて、ゆるやかに入場者数は増加した。60日目にあたる5月23日に入場者総数500万人を達成。6月13日の週で、1日あたりの入場者数は125,753人(週単位)を記録した。
6月20日の週から7月25日の週までは全体的に低調であった。。愛知万博のデータを見る限り、混雑を避けたければ、梅雨の時期がねらい目だといえる。
8月8日の週からお盆の時期ということもあり増えたが、愛知万博は8月29日から9月25日までの約1カ月の間に、入場者数が急増したことだ。1日あたりの最多の入場者数は9月18日の281,441人であった。これは企業等が配布した入場券を持っている人が、最後の短期間に万博を訪れたことが考えられる。
愛知万博の最終公式入場者数は約2,200万人となり、目標入場者数を大幅に上回った。
次に入場者がどの地域から来たのか、見ていきたい。愛知万博では東海4県(愛知・岐阜・三重・静岡県)からの比率は58.1%であった。関東は15.2%、関西は12.4%となり、愛知万博が関東、関西からアクセスしやすい環境にあったといえる。
愛知万博の公式ホームページによると、1990年の大阪万博や1985年のつくば科学博と比較して、愛知万博への地元来場者の比率は低い、としている。しかし、地の利や交通機関の発達を考えると、比率が少ないからと言って、愛知県の人々が愛知万博に対して冷淡だったとは言えないだろう。考え方を変えれば、地元来場者の比率が極端に高い地方博にならず、万国博にふさわしいデータといえる。愛知万博への来場回数は初回来場者が6割を占めた一方、リピーターが4割弱も占めたのが特徴といえる。
ここでインフォプラントが運営するインターネットリサーチサイト「C-NEWS」が2005年5月18日~22日に行ったアンケート調査を紹介したい。対象者は愛知万博に行ったことがある15歳以上、有効回答数は466人だった。
調査によると、展示内容に「満足」が6割半ばだった。万博全体に対しては「満足」が4割半ばという分析を掲載した。また、「ぜひ行きたい」が2割強、「できれば行きたい」が3割強を占めた。再訪を希望する理由として多く挙げられたのが「見ていないところがたくさんある」だった。
5月中旬という早い時期の調査なので、回答者がもともと愛知万博への関心が強かった、という点は否めない。それでも、再訪希望が約5割を占めた結果を見ると、最終のリピータの比率を見ても納得がいく。
なぜ愛知万博は成功したのだろうか。一般的に指摘されている理由は口コミである。先述したように、当初、愛知万博に対しては否定的な意見が相次いだ。ところが、日が経つにつれ、来訪者が口コミで万博のおもしろさが広がり、マスコミの論調も肯定的なものへと変化した。
このことに関し、財団法人2005年日本国際博覧会協会事務総長(当時)の中村利雄氏は「日々改善」を要因のひとつとして挙げた。つまり、万博協会に不満点を述べると、ちくいち改善する姿勢に徹した。この万博協会の姿勢、行動はマスコミにも高く評価された。たとえば、愛知万博でも暑さ対策が叫ばれたが、7月よりグローバル・ループ上に1824個ものドライミストが設置された。その他にも、ミネラルウォーターやうちわの配布といった細かな配慮も忘れなかった。
また、イベントの実施も挙げられている。愛知万博では特定期間の夕方から夜間にかけて、ハイレベルなコンサート「トワイライトコンサート」を開催した。つまり、再訪しても、また新たな刺激が得られる、というおもしろさがあったということだ。
最後に、来訪者同士、スタッフ同士の交流も万博成功に寄与したとのこと。次第に「見に行く」から「参加する」ために万博に行く人が増えたという。
一連の改善や刺激が来訪者の口コミやマスコミによって広がったのだろう。2005年当時は、まだまだSNSが普及していなかった時だ。肯定的な口コミは相当強かったと予想する。
報道によると万博開幕1週間で一般来場者は52万人に達成し、2025年5月30日時点で490万人を突破している。はこれは愛知万博よりも多いが、想定来場者数2820万人を達成するには、今のペースのままなら厳しいと予想できる。
しかし、今回の万博は大阪で行われていることから、口コミの強さは土地柄、大いに期待できる。また、万博に訪れた際の様子を見ると、初日にもかかわらず、スタッフと交流している姿をよく見かけた。スタッフとの交流を目的としたリピータも期待できそうだ。後は日々改善だ。今回の万博協会が愛知万博のように、きめ細やかに対応できるか否か。ここに大阪・関西万博の成否がかかっているような気がする。
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