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中小ものづくり企業だから出来るAI・IoT活用とは? @北陸技術交流テクノフェア2021セミナーレポート

製造業での AI・IoT活用は待ったなしである。その実、足踏みしている企業も多い。「硬直化して新しい挑戦が困難な大企業よりも、トップダウンで新技術を取り入れ試行錯誤を繰り返せる環境にある中小企業の方が、デジタル化にとって有利です」と話すのは、「デジタル化による社会・産業構造転換」を専門とするデータのじかん主筆でありウイングアーク1st株式会社の大川真史氏だ。

         

大川氏は、2021年10月15日に開催された北陸技術交流テクノフェア2021「中小ものづくり企業だから出来るAI・IoT活用」 と題した講演で、「町工場」と言われるような中小規模の製造業が取り組むデジタル化の豊富な事例をつぎつぎと説明した。

中小製造業で進むユニークなデジタル化事例

冒頭のパートで7社の実例が紹介されたが、象徴的な事例である抜き打ちプレス業のタカハシ(東京・荒川区 従業員5名)の例を取り上げたい。

IT を導入しようにも既存のパッケージが入れられない同社では、社長自ら大学院に通い COBOL を学習。製造とサプライチェーンマネジメントのシステムを自作した。しかし従業員であるご高齢のパートの皆さんはこれまでパソコンを使ったことが無いため、このシステムを使えなかった。

そこで作業、情報の入力をすべてバーコード入力にした。キーボードはエンターとバックスペース、数字キーだけを残して撤去。カーソルの移動は独自仕様のタッチパネルにした。このようなソリューションをベンダーが提案することはない。大川氏は「最適解は現場の人にしかわからない」と説明した。

デジタル化に必要な機能とツール例

デジタル化の結果が現場のアクションにつながらないのでは意味がない。現場のデータを上げて、つなげて、可視化して、知らせることで現場のユーザが判断し、自ら行動を起こすものでなればならない。 経営陣の姿勢として「若者がすぐ辞めない会社にする」など中長期的な視点からデジタル化を考える必要がある。デジタル化には想定外の効果があり、しくみをパッケージ化することで同業社に販売するなどビジネスの形が変わることも珍しくない。

デジタル化には試行錯誤がつきものだ。その途上でつかわなくなるものが多い。躊躇なく棄てるために安価な製品をつかうのが鉄則となる。

幸いなことに一昔前までは数百万円したセンサー類やツール類が数千円程度で入手可能となった。プログラミングコードもネットで無償公開されておりハードルは劇的に下がっている。

日本企業は紙ベースの業務が多いが、画像 AI (ABBY、Tegaki など)の発達により文字の手入力が不要になってもいる。BIツールをはじめとした可視化ツール(Ambient /MotionBoardなど) も含めた最先端のデータ活用・AI 技術は、いまやクラウドベースで無償もしくは格安で利用可能である。開発者向けのチュートリアルやライブラリの公開、実際の導入事例紹介などが公式サイトに用意されていることも一般的だ。

AI ・IoT 等デジタルツール導入の考え方、進め方

デジタルツール導入のすすめ方に関して「ベンダーに丸投げしないことが重要」と大川氏は強調する。

「現地・現場・現物を起点に工員中心に試行錯誤を進めることが大前提。ほっておいてもユーザーが使いつづけるプロダクトでなければ活きてきません。導入自体が目的になってしまっては本末転倒。ユーザに1回でも多く1日でも早くつかってもらい、フィードバックをもらうことが大切です」(同氏)。

欧米先進諸国と比較した際、他国でデジタル化の阻害要因となるのが通信インフラ整備の遅れや政府の後押しの欠如であるのに対し、日本では自社の風土がネックとなる傾向がある。失敗を恐れる余り、「枯れた技術」にしがみつき新しい技術に挑戦する機会が極端に少ない。この傾向は大企業や役所ほど顕著だが、トップダウン型の中小起業に関してはこの限りではない。

興味深いことにツール導入前の期待効果と導入後の効果は異なることが少なくないという。導入前には「ミス防止」「コスト削減」などが期待されていたのに対し、実際の効果として QCD(Quallity, Cost, Delivery)よりも「社内のコミュニケーションが改善」「高卒採用が中心だったが院卒の人が来てくれた」「社外からの問い合わせ来た」など想定外の効果が見られるという。この想定外の効果を見落とさないことが非常に大切である。この効果を受け止めることで、目的や課題を見直すことが可能となる。

まず何から始めるか

AIやIoTの導入に取り組むとして、なにからはじめれば良いのか?

まずはプログラミング学習である。

現在はクラウドサービスが充実しており、スクールに通わずともオンラインで学習が完結する。しかも基礎的な部分だけなら無償であることが多い。

Progate、ドットインストール、Udemy、PyQ といったオンラインの講座は Python や JavaScript のほか現場でサクッと使える知識を授けてくれる。しかも教材が常にアップデートされるメリットがあり、授業内容が陳腐化しない。

オンライン講座のレベルに壁を感じるときは、毎日何十、何百と開催されているコミュニティ・イベントへの参加を検討するのも手だ。参加も発表も無料のイベントが殆どである。

福井県のコミュニティとして、Code For Sabae、ふくもく会、PCN/PCN 鯖江の名前が挙がっていたが、大川氏のお薦めは全国規模で展開している「IoT 縛りの勉強会 IoTLT」だそうだ。日本最大級の IoT コミュニティーで1万人の個人が参加。イベントの開催も頻繁だ。

また生産現場での IT 導入に欠かせないプロトタイプ(試作品)開発に特化した「プロトアウトスタジオ」は、技術力、企画力、発信力を養うのに打って付けのスクールだ。卒業制作をクラウドファンディングで製品化するという試みもユニークである。

プログラマの技術情報共有サービス「Qiita」も技術や知識の宝庫として見逃せない。

こうした波はデジタル化が進んでいない業界にも及んでおり、大川氏が関わった日本鋳造協会でのIoTLT派生イベントでは、ライトニングトークで10名もの鋳造業界者の発表が行われたという。

実際 IoT の導入は難しくはない。青梅商工会議所主催の「IoT ハンズオン」では、プラグラム経験ゼロの中小企業経営者や管理職らがわずか2時間の演習でセンサーデータのリアルタイムグラフ化、閾値超え時の LINE への通知といったことを実装してみせた。

IoT の手触り感を知った参加者からは、アイデアソンの場で実用的なアイデアが多数聞かれたという。

まとめ

デジタルツールの導入のコツを大川氏は以下のようにまとめている。

  • ・まず手を動かす。小さく始める
  • ・現場で試行錯誤
  • ・小さな変化が企業風土を変える
  • ・糸口見えたら本格的に
  • ・自社で定着したら他社、業界にも

大川氏の事例紹介で明らかにされたように、モノづくり系の中小企業ではリプレイス導入(載せ替え)とは異なる発想で IT が活用され、生産に質的な変化が起きている。しかも導入コストは大きくない。

「まだ取り組んでいる企業は少数です。いまなら先行者としてパッケージが売れます」という氏の言葉の通り、意識を改革し、汗をかくことは必要以上に意味のある取り組みとなりそうだ。

ウイングアーク1st株式会社 大川 真史 氏

ウイングアーク1st株式会社 IT企業を経て三菱総合研究所に約12年在籍し2018年から現職。専門はデジタル化による産業・企業構造転換、中小企業のデジタル化、BtoBデジタルサービス開発。東京商工会議所ものづくり推進委員会学識委員兼スマートものづくり推進事業専門家WG座長、明治大学サービス創新研究所客員研究員、内閣府SIPメンバー、Garage Sumida研究所主席研究員など兼務。国内最大のIoT勉強会「IoTLT」分科会、M5Stack User Group Japanなど複数のコミュニティを主催。経済産業省・日本経団連・経済同友会・各地商工会議所・自治体等での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。直近の出版物は「マーケティングDX最新戦略」「最新マーケティングの教科書2021」(ともに日経BP社) @masashiokawa

 
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