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2019年2月、人材領域に特化したコンサルティング事業を展開する株式会社オデッセイにより「HRTechに関する市場調査」が行われました。(HRTechは株式会社groovesが商標登録しているため、以下HRテクノロジーと表記)
HRテクノロジーとは、HR(Human Resource)領域においてAIやRPAといったテクノロジーを用いる課題解決の手法のこと。調査対象は、年商500億円以上、または従業員規模1,000人以上の企業の人事担当者400人でした。
2018年にはクラウド領域だけで市場規模250億円を超えるなど注目度を高め続けているHRテクノロジー。人事担当者がHRにどのような期待感を持っているのか、今後どのようなHRテクノロジーが職場に導入されるのか。最新のデータをここで押さえておきましょう。
人事が最もHRテクノロジーの導入を期待しているHR領域は「採用」でした。
この調査で提示された選択肢とその業務内容におけるHRテクノロジーの貢献を1番目に期待している人の数は以下の通り。
業務内容 | 票数 |
---|---|
採用 | 99 |
人材配置/異動 | 52 |
給与計算等の基幹業務 | 43 |
人材育成 | 41 |
人事関連の定型業務 | 31 |
評価 | 28 |
人事情報の分析/活用 | 28 |
勤怠管理 | 21 |
経費申請・精算 | 10 |
その他 | 3 |
特にない | 44 |
※オデッセイ調べ、票数は優先順位1番目のものだけを抽出。
「特にない」を除き、「採用」「人材配置/異動」「給与計算等の基幹業務」の順にHRテクノロジーの効果への期待が集まりました。「採用」「人材配置/異動」については優先順位1番目に選んだ人数だけでなく、2番目、3番目に選んだ人も含めた総票数も1位・2位となっています。ここから応募者をリクルーティングしてから育て上げるまでの過程においてHRテクノロジーの貢献を期待する人事が多いことがわかります。
また、HRテクノロジーをすでに用いている企業が導入済みの業務領域も「採用」が1位、「人材配置/異動」が2位(「勤怠管理」「人事情報の分析/活用」と同率)でした。
「採用」の中でもどの業務にHRテクノロジーを活用できると効果的か人事に尋ねたところ、最も票数を集めたのは「エントリーシートの受付・内容確認・内容審査」でした。アンケートの選択肢と集めた票数は以下の表のとおりです。
業務内容 | 票数 |
---|---|
エントリーシートの受付・内容確認・内容審査 | 107 |
募集広告/文章の適正度確認・修正 | 55 |
ハイポテンシャル人材の見極め(入社後のパフォーマンス予測) | 53 |
会社説明会開催日程の調整と告知 | 45 |
応募者との面接日程の調整 | 41 |
応募者・内定者のフォロー | 14 |
応募者との面接 | 12 |
その他 | 2 |
特にない | 71 |
※オデッセイ調べ、票数は優先順位1番目のものだけを抽出。
「特にない」を除き、「エントリーシートの受付・内容確認・内容審査」がトップの票数を集めています。それに次ぐのが「募集広告/文章の適正度確認・修正」。ここからは採用時期に大量に発生しがちな文章の読み込み/執筆業務の負担をHRテクノロジーに軽減してほしいという、人事の思いが読み取れます。
反対に票数をあまり集めなかったのは「応募者・内定者のフォロー」や「応募者との面接」など。コミュニケーションなどのソフトスキルが必要な業務についてはまだAIに任せられないという考えが背景にあると考えられます。
期待度が採用に次いで2位の「人材配置/移動」3位の「給与計算等の基幹業務」それぞれでHRを導入すると効果的な業務について尋ねた結果は以下の表のとおりです。「特にない」を除いて優先順位1番目の票数が多い順に選択肢を並べています。
業務内容 | 票数 |
---|---|
適正配置の検討 | 111 |
異動シミュレーション | 62 |
職務に適した人材の選別 | 56 |
従業員エンゲージメントの測定と活用 | 41 |
社内公募+マッチング | 22 |
組織シミュレーション | 21 |
職務記述書(job description)の作成 | 9 |
その他 | 1 |
特にない | 77 |
※オデッセイ調べ、票数は優先順位1番目のものだけを抽出。
業務内容 | 票数 |
---|---|
給与計算チェック | 165 |
昇給シミュレーション | 71 |
年末調整用申告書の自動照合・登録 | 60 |
賞与シミュレーション | 26 |
その他 | 1 |
特にない | 77 |
※オデッセイ調べ、票数は優先順位1番目のものだけを抽出。
「人材配置・移動」の1位は適正配置の検討、2位は異動シミュレーションでした。人事は人材配置の検討段階でHRテクノロジーの助けを必要としているようです。人間がなかなか気づけない視点から公平に情報を分析できるAIの特性を最適な人材配置に役立てたいという思いが読み取れます。
一方、「給与計算等の基幹業務」では給与計算チェックが2位以下に大差をつけて票を集めています。こちらは単純な確認作業でAIを使いたいという考えが背景にあります。
HRテクノロジーに今後期待するサービスについて人事に尋ねたところ、最も票数が多かったのは「従業員の目標設定や評価管理をAIが補助するサービス」、僅差で2位が「スマホ等を活用した録画面接と応募者の反応(表情・声)からAIを活用し適性分析するサービス」でした。
業務内容 | 票数 |
---|---|
従業員の目標設定や評価管理をAIが補助するサービス | 58 |
スマホ等を活用した録画面接と応募者の反応(表情・声)からAIを活用し適性分析するサービス | 57 |
360℃フィードバックなどレビューシステムを充実させ、社員の成長を随時把握できるサービス | 44 |
従業員の業務の生産性を把握/分析し定量的な評価につなげ公平な評価と生産性の向上を実現するサービス | 44 |
SNS等に記載されている内容から人材を分析/抽出し、求人をかけるサービス | 38 |
人事の定型業務を代行するロボットサービス(RPA) | 37 |
良いパフォーマンスや優秀な成績を残した従業員にポイントを付与するサービス | 15 |
従業員エンゲージメントを測定し、従業員の状態を把握することで組織力の強化につなげるサービス | 13 |
人事関連の問い合わせに回答するチャットボット | 12 |
その他 | 2 |
特にない | 80 |
※オデッセイ調べ、票数は優先順位1番目のものだけを抽出。
2019年5月8日~10日に有明・東京ビッグサイト青海展示棟で開かれた「第2回AI・自動化展」では、このようなサービスが実用化されている例がいくつかみられました。まだ導入を実地している企業は多くありませんが、今後の広まりが期待されるサービスです。
なお、HRテクノロジーにまつわるITツールの中で期待を集めているのは1位から順に「AI」「人事給与システム」「RPA」でした。
業務内容 | 票数 |
---|---|
AI | 122 |
人事給与システム | 55 |
RPA | 54 |
タレントマネジメントシステム | 50 |
勤怠管理システム | 23 |
ピープルアナリティクス | 17 |
申請システム | 13 |
その他 | 2 |
特にない | 64 |
※オデッセイ調べ、票数は優先順位1番目のものだけを抽出。
特にAIに期待が集まっており、単純な業務処理以上に高度な分析や選択肢の提示までHRテクノロジーに行ってほしいと考える人事が多いことが伝わります。
HRテクノロジーにまつわる人事の意識調査結果の主要なトピックをかいつまんで紹介し、いくつか考察を行いました。各統計にはHRTechを活用して煩雑な業務の削減や人間にかけた視点の補完を行いたいという人事担当者の思いが表れています。とはいえ、同調査内ではHRテクノロジーについて「良く知っている」と応えた人材は全体の15%に満たず、実際にHRテクノロジーを導入している企業は10%を割り込んでいるという統計もでています。そういう意味では、まだまだブルーオーシャンであると同時に、まだ手付かずだったり、正しく理解されていない部分も多く存在する領域です。
まず実際にHRTechを導入しその適切な使い方や効果について実践的に学ぶことが、多くの日本企業が挑むべきタスクといえるでしょう。なかでも「職務記述書(job description)の作成」は真っ先に、かつ念入りに遂行されるべき優先事項です。なぜなら人事担当者の関心が高いとされている「ハイポテンシャル人材の見極め(入社後のパフォーマンス予測)」「適正配置の検討」「職務に適した人材の選別」等は詳細な職務記述書なしでは測り得ない項目だからです。また「従業員の目標設定や評価管理をAIが補助するサービス」も同様で、しっかりとしたジョブ定義、スキル定義がないと機能しません。ジョブ定義、スキル定義は欧米企業では明確化されているのが一般的なため、欧米のHRテクノロジー事情を見てもそれらの大切さについて言及されていない場合がほとんどですが、それらが明確化されていない日本企業の場合、そこを徹底するところから始める必要がありそうです。
HRテクノロジーが浸透することにより、業務フローや人事評価がより適正化され、面接を含む採用プロセスが企業にとっても、面接を受ける側にとってもよりシンプルに負担が少ないものになる日が来れば、新卒採用のプロセス自体を全体的に見直せたり、転職活動をより気軽にできるようになったり、なども可能になるはずです。それらの変化がもたらしてくれる恩恵は、日本の働き方の将来を考える上できっと有益なものとなるでしょう。
(宮田文机)
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