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「ポスト爆買い」時代のインバウンドビジネスをデータから考える

         

対談:中土井利行氏(ウイングアーク 1st)☓岡崎茂生氏(フロンテッジ)【前編】

訪日外国人4000万人時代にむけて、どのようなビジネスを創出するか? ここ数年のインバウンドビジネス、マスコミで言われている爆買いブームとリアルデータから見た状況のギャップなどを検証しつつ、第三者データの分析などを通じてみた今後の訪日ビジネスの可能性について語る。

事業開発者は「データ」に注目せよ

岡崎茂生(おかざき・しげお)

フロンテッジ 執行役員 エグゼクティブ・ブランドコンサルタント
電通における広告・マーケティング・ブランド領域の実務経験をベースに、2006年~2013年の間、中国(北京電通)で中国・日本・アメリカ・韓国企業を対象にブランド戦略コンサルティングとブランド・コミュニケーションを事業展開。グローバルに通用するブランド戦略・管理・実践・測定を専門とする。海外各国でのブランドセミナーや大学での講演、東洋経済オンラインでのブランド戦略コラム連載などグローバルな発信を多数実施中。南京大学、湖南大学、山東大学客員教授。青山学院ビジネススクール講師。

中土井 利行(なかどい としゆき)

ウイングアーク 1st BI技術本部 副本部長 データプラットフォーム事業開発部部長
国・自治体および民間企業などが保有するデータを、広くマーケティング・セールス戦略に活かすことを目指した第三者データ提供サービスの企画・推進に携わる。2016年より現職。

「微信/WeChat」(ウェイシン)が需要を喚起している

中土井 日本では官民一体で、今後も訪日観光客を招致し、現在の2000万人から4000万人に増やしたいという計画がある一方で、中国からの爆買いは一段落しブームは終わったという見方もあります。インバウンドという言葉が一般化し、ニュース映像などで表面的なイメージは広まっているのですが、実態のところはどうなっていて、これからどんな戦略を立てて行けば良いのかをデータの側から考えていきたいと思います。

岡崎 今回はデータ分析を主軸としてお話になると思いますが、その前に実体験のインサイトから話をしましょう。

 現状、インバウンド消費がピークを過ぎたのではないか言われています。確かに超円安はもう済みましたし、今年(2016年)4月、中国で旅行客が持ち帰る商品への関税が高くなりました。たとえば腕時計は30%から60%、お酒と化粧品は50%から60%に。
さらに3年前は皆さん、ウォシュレットとか炊飯器を買っていたわけですが、需要が一巡し、買われる商品がどんどん変わっています。

 化粧品で言うと、コーセーの「雪肌精」などは割と安定して売れているのですが、2年前であれば、アルビオン化粧品のスキンコンディショナーが爆買いの対象でした。今人気なのは、ポーラの「美白丸」や、資生堂の「クレ・ド・ポー ボーテ」という高級ラインです。ポーラでは、「THREE」(スリー)というプレミアムラインへというように、上級にシフトも来ています。

 その変化の要因というのは、中国のスマホアプリ「微信」(ウェイシン)にあります。中国人のスマホ率は90%以上で、皆「微信」を使っています。そのポータルから入り、ニュース、オンラインショッピング、チャット、あるいはタクシーの配車から支払いまで、すべて「微信」経由です。「銀聯カード」はありますが、中国人はもう、クレジットカード、デビットカードを通り越して、微信やアリババのスマホ決済システムに移行しています。よく「微信」は中国版のLINEとかFacebookとか言われるのですが、それは違うなという気がしています。

 今、中国人が一番信用するのは、「微信」上の友人、あるいはその友人からの情報です。中国の人は日本人以上に転送、転載が大好で、バンバン転送して、「微信」で転送されてくる情報はかなり信じますね。「微信」から得られる、自分たちが信じている直接情報を上手く使い、人気があって買いたいものを事前に決めて、出金リストを作って訪日してくるというわけです。

ツアー客の動向をデータでつかめ

岡崎 もう一つインバウンドについて言うと、団体旅行と個人旅行という、全く違う二つの種類があるということです。団体旅行は中国の旅行代理店が募集し、旅行客がそのツアーを買い、日本にやってくる。すると日本に受けの代理店があり、そこで契約しているツアーガイドが旅程表を組みます。それを見ると、旅行客がどこに行くか、すべて分かるのです。なので、ツアーガイドと仲良くなると、相当儲かる。
逆にツアー客が行きたいところがあっても、ガイドがほぼすべて決めていますので、ツアー客にアプローチしても駄目なのです。

 一方、個人旅行。自由旅行と呼んでいますが、これは、かなり違っています。まず所得的には、かなりの富裕層です。正に自由で、自分で行きたいところ、やりたいことを決めてから来ています。個人といっても大体、家族とか友人で来るのですけれども、北海道や沖縄に行きたいとか、あるいは東京でもツアーでは行けないような良いお店に行きたいとか。その行動は、中々つかみづらい。
だから、こういう人たちが今、どこへ行って、何をして、どうお金を使っているかというデータはすごく貴重だと思います。

 という感じで、たとえばツアーガイドとか、微信で飛び交っている情報などを見ることによって、ある程度中国人の需要とか行動のインサイトは得られます。ただ、それを定量化するのは難しい。特に企業の意思決定の場合は、絶対にデータがなければ承認されません。「お前の直感を信じてやってみよう」などという企業は、ほとんどないでしょう。

 ですから、測定したデータをベースにインサイトを使って予測するということです。予測イコール戦略です。戦略というのはやってみなければ、正しいかどうか分からない。ですから、ともかくやってみる。
では何をやるかというと、主に微信ですが、アプリを通してアプローチしていくことが大事かなと思っています。

中国観光客への固定観念を捨てよ

中土井 そのアプローチの仕方ですが、これまで数多くの日本企業が中国の市場に挑んでいるものの、中々思うように行っていないと聞いています。その要因についてはどのようにお考えでしょうか。

岡崎 僕の経験から言うと、日本企業で、ちゃんと中国人の動向やトレンド、彼らの本当のニーズを把握しているところは少ないと思います。
たとえば中国に進出した企業が中国人を雇用し、彼らを通して情報を得ていますが、そこにはフィルターがあるのです。やはり日本人の意思決定を出来る人たちが現場に入って現地の言葉を学び、現場で一緒にビジネスをしながらお客様の声を聞く必要があります。

 そして生の情報を取り、見えてくるものに基づいて「じゃあ、これで行こう」というビジョン、「意図」をもってデータを使う。「意図」がなくてデータだけを見ていても、中々戦略にはなりません。
 僕が2006年、北京電通に行った時、テンセント社が「QQ」というPCベースのチャットアプリで大成功していて、中国のPCのほとんどに入っていました。
その「QQ」のスマホ版が「微信」であり、そのブランドへの信頼があったからこそ、5億人がすぐにインストールして使い始めたというわけです。

 それで今、その位置情報で使われているのがタクシー配車アプリなのですが、呼べるタクシーが何種類もあるのです。たとえば自分が今、Aという場所にいてBに行きたい、と音声でもいいから入れると、そばにいるタクシーがリストアップされます。
リストにはタクシーだけでなく、一般の人たちが空き時間にアルバイトしている、いわゆる白タクも並びます。それもまた2種類あって、「専車」はBMWの5シリーズとかアウディとか結構良い車が来ます。値段も少し高いです。もう一つの「快車」は小さい車で少し安い。さらに「順風」という、同じ方向に行く車を見つけて相乗りするというのもあります。

 日本は完全に周回遅れですね。やはり従来の規制をなかなか変えられない。一方で中国政府は、これまでの製造業中心の産業政策からサービス業中心に転換しようとしています。そうなると、こうしたタクシー配車みたいなビジネスは、まさに中国で発展させるべきサービスだと判断して、自由にやらせているのです。当然、タクシー業界からの反発はありますよ。そこは上手くテンセント社が、全国のタクシードライバー600万人を囲い込んで、彼らを味方に付けてやっているのです。

 その他にも、たとえば決済サービス。テンセントもアリババも、銀行口座に紐付けるだけではなく、口座からお金を移すと高い利息が付くようにしている。要するに銀行業に入ってしまっているのです。
このようなことは、日本には銀行法があって、絶対に出来ない。
それを中国政府はやらせている。やはり既存の銀行ビジネスよりも新しい、決済サービスを含む、新しい金融サービスを発展させたい、という風に明らかに判断している。

 ということで、日本が止まっている間に、世界はどんどん2周も3周も先を行っている、というのが現実です。で、そういう国からやって来る人たちなのですよ。中国の旅行者というのは。たしかに田舎の人も一杯いるけれども、彼らの消費ニーズと情報のレベルをあなどってはいけない。

ブランドと「本物証明」が必要

中土井中土井 爆買いについて一般的に持たれているイメージと、リアルの現場のインサイトはかなり違っているということでしょうか。

岡崎 そうですね。爆買いニーズを次のビジネスにつなぐイメージがない。
戦略的にインバウンド需要を創出するとか、インバウンドで買ってくれたお客様に帰国後も買ってもらうという、インバウンドとアウトバウンドの統合マーケティングをしている企業は、僕の知る限りありません。これはかなり間抜けな状態と言わざるを得ません。

 でも日本では買うのに、中国に戻って同じ商品を継続で買わないのかというと、やはり理由があります。一つは、日本で買えば絶対本物だけど、中国で売っているのは偽物かもしれない。これはかなり根強くあります。値段も輸送コストと関税、マーケティングコストがかかり、日本の1.8倍とか2倍になってしまう。
もう一つは売り場がない。日本では買えても中国では買えないので、結局オンラインショッピングで買うしかない。でもそこで売っているのは偽物かもしれない。またそこに戻ってしまう。

 だから本物証明をちゃんとつけてあげて、中国の販路もリアル店舗とオンラインをきちんと作る。なおかつ「なぜ日本のものがいいのか」について、ブランドメッセージを送るのです。

後編に続く

[著] BizZine編集部
 翔泳社の運営するビジネスメディア:Biz/Zine(ビズジン)は企業の事業開発、イノベーション、スタートアップ、次世代テクノロジーに関する情報を提供するWebメディアです。本記事は「Biz/Zine」に掲載された「ポスト爆買い時代のインバウンドビジネスをデータから考える」を許可を得て掲載しています。

 
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