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「海の家」と聞いて、「ハイテク」というイメージを抱く人はあまりいないだろう。潮風と太陽に無防備にさらされた期間限定の立地に高額を投じ、最先端のテクノロジーを活用することが理にかなっているとは到底思えない。

だが、最先端のIoT技術を駆使した海の家を湘南の海に登場させ、毎年改善を続けている会社がある。小田急線片瀬江ノ島駅より徒歩3分、江ノ電江の島駅から徒歩5分の片瀬海岸東浜に好立地に位置するIoTの海の家「SkyDream Shonan Beach Lounge2018」を運営しているのはUI/UXに着目したシステム構築を得意とするIT企業、株式会社セカンドファクトリーだ。

このIoTの海の家は、海の家がIoTを導入することを決めたのではなく、IoTを得意とするIT企業が海の家の運営を始めた、ということになる。この海の家には一体どのようなIoT技術が使われているのか?そして、そもそもなぜ、IT企業が海の家を自ら運営しようと思ったのか?

データのじかんはこの海の家「SkyDream Shonan Beach Lounge2018」を取材し、セカンドファクトリー社のビジネス・エンゲージメント・マネージャーであり、海の家の責任者でもある千葉隆一氏に話を伺った。

IoTと海の家

海の家には、テラス席、座敷、テレワークスペース、ロッカールーム、更衣室・シャワールーム、トイレがあり、フードを提供する「極鶏.Bar」、ドリンクバー「GRANBLUE」、受付業務を行う「フロント」の3店舗が100平米弱ほどの敷地内にある。無料で使えるWi-Fiも飛んでおり、テレワークスペース(別料金)では電源も使用可能だ。

店舗のオペレーション管理はQOOpaというセカンドファクトリー社が提供している飲食店向けのPOSレジやオーダーリングのシステムで行っている。オーダーが入ると、そのデータはすぐにクラウドに格納され、BIダッシュボードであるMotionBoardによって見える化され、来客数や人気メニューのランキングがリアルタイムで店内にあるモニターに映し出される。また、テラス席のテーブルに置かれているQRコードをスキャンし、SNS認証を行うと、スマートフォンからオーダー、クレジットカードによる決済を行うことも可能となっている。

QOOpaは来客向けの表示だけでなく、発注業務の自動化も行うことができる。例えば、唐揚げの注文が一定数を越えると、LINE WORKS経由で鶏肉を自動で発注する、という流れだ。

また、店内20数箇所には室温センサーが設置されており、特に高温になりやすい唐揚げ用のフライヤーや焼きそば用の鉄板付近の温度確認を随時行っている。

200あるロッカーの中にはセンサーが仕込まれており、ロッカーに忘れ物がないかどうかを自動で検知することができる。これにより、閉店時に全てのロッカーを開けて確認する、という作業からスタッフは解放される。シャワーマットにもセンサーが入っており、使用中かどうかを検知することができるようになっている。

ぱっと見にはごく普通の海の家だが、実はこのようなハイテク要素が盛り込まれ、スタッフの業務支援を行なっている。

なぜIT会社が海の家を運営しているのか?

6年前に海の家を始めた時は、QOOpaというサービスを売るためにエンジニアが現場を経験した方がいい、という発想から始まった、と千葉氏は言う。

セカンドファクトリー 社はUI/UXを作っている会社だが、現場でのノウハウがなく、業務を最適化するための具体案が出せない、という矛盾を抱えていた。ならば現場で手を動かしてみたほうがいい、そのための現場を作ろう、PDCAではなく、とにかくDo-Do-DoでやってみてからCheck-Actionを行い、その中からうまくいきそうなものに対してPlanする、という取捨選択をやっていこう、というのが海の家の始まりだった。

飲食店のキャッシュフローを10とすると、うち3:3:3は原価率:人件費:諸経費、つまり90%は必要経費で残りの1、つまり10%のみが利益となる。事業を拡大させるための投資を考えた時に、その10%のお金を使って何をするのか、広告宣伝なのか、IT投資なのか、というのを経営者視点で考える必要がある。

日本に飲食店は60万店舗ある。チェーン展開している店舗は実は5万店舗以下で1割にも満たない。そう考えると、小さな飲食店への展開方法をちゃんとビジネスモデル化しないとソリューションベンダーとしては利益が得られない。その上、飲食店経営者の多くはITに精通しておらず、その1割をIT投資に向けることはほとんどない。だからこそ、我々が飲食店経営者と同じ視点で飲食店事業について会話ができる知識やスキル、経験を持たなくてはならないと考え、海の家を自社で運営することでノウハウを蓄積している。現場では、そして経営視点では何が必要な情報なのか、それがなぜ必要なのか、さらにはその先に何が求められるのかまで理解して語れて初めて価値が生まれて来る。

海の家から派生したTHE NARUTO BASE

海の家を立ち上げたことで、ITは製造業である、という発想から、ITはサービス業でもある、という発想に頭が切り替わった。より現場を知るために、最初の海の家の半年後にはリアル店舗を出店した。そして、その半年後には再び海の家が始まり、その半年後に2店舗目の唐揚げ屋を出店した。

店舗運営を経営視点で考えた時、軸は2つある。1つはIT化、もう1つは業務効率化、つまり経営改善だ。

経営改善を行う際の最大のコストは食材の仕入れだ。仕入れコストの見直しについて考えているうちに、だったら自分たちで食材を作ればいい、というアイデアに行き着いた。それを実現させるため、徳島県の鳴門市に食品加工の設備を作った。傷がある、形が悪い、大きすぎる、などなんらかの理由で商品基準には達していないが、品質が安定している良質な四国産の食材をそこに集め、飲食店からの需要がありそうな食材加工を開始した。

THE NARUTO BASE2016年の12月にオープンした。立ち上げる前に構想1年半、準備に同じくらいかけて、賛同してくれる四国の生産者を回って、物が集まるようになってから、物件を探し、物件の内装と食品加工の機材を調達した。鳴門市は四国の陸路のジャンクションとなっている場所で、そこから関西に向けての陸路輸送が行われていたことと、空路も徳島空港まで鳴門市から車で10分程度だったこと、さらに知名度の高い鳴門はブランディングしやすい、という理由からここに決まった。

また、食材調達とITをパッケージングし、NARUTOブランドの食材のみを使い、シェフや料理人がいなくても運営できるようなNARUTOブランドの実店舗も徳島駅付近に新しくオープンさせた。この店舗では、アルバイトの人がマニュアルを見ながら調理すれば誰でも料理が提供できるような仕組みを作っている。そのオペレーションチェックと実験をこの海の家では行なっている。実際、ここの海の家のスタッフは3日も勤務すれば店の全メニューを作ることができるようになる。

IoTで世の中はどう変わるか?

テクノロジーに限ったことではないが、これまではコストに見合わなかったり、時間がかかりすぎていたことがタイムリーに、リアルタイムに実現できたり、これまでビジネスだと思われてなかったことがビジネスになってくるのではないかと考えている。そこにはきっと新しいビジネスが生まれる余白がある。UBERや民泊などの空いた隙間をマネタイズするシェアリングエコノミーもIoT技術なしでは実現し得なかったことだ。DTAData Trading Alliance・データ流通推進協議会)などデータを流通させることが利益を生み出す、というビジネスモデルも現実味を帯びてきている。TDBCが行っている取り組みにも近い部分があるが、自社にとって利用価値のないデータが、他社にとっては非常に有益なデータとなる場合もあるだろう。

スマートホーム的なIoTや、声による操作、外出先からのリモート操作などがいわゆる便利なIoTの今のイメージかもしれないが、例えば、操作をする人たちの傾向など、その上に溜まっていくものが新たな価値を生み出していくだろう。そのニーズに対して、既存のものよりも優れたソリューションを提供できる可能性も出て来る。

最近の事例でいうと、某Jリーグチームのサポーター向けにアプリからフードの注文・クレジットカード決済が行えるというサービスを、ここの海の家と同じ仕組みでホームスタジアムに導入している。サポーターはハーフタイムに殺到するが、ハーフタイム直前にオーダーしておくと、準備ができたタイミングで通知が届き、行列に並ぶことなくオーダーした商品をピックアップできる。これは利用者にとってベターなソリューションが提供できている一例だ。

海の家の運営は楽しい部分も多いが、ただ楽しんでるだけではない。自分で運営をやってみることで飲食店の経営者と対等に会話できるようになった。数字に関しても、何をいじるとどうなるのかを理解した上で話せる。IT化は手段の一つだが、IT化することそのものに価値があるわけでなく、問題が解決できればなんでもいい。だが、ITの力を借りることで、日本のフードビジネス業界をより効率化したい、という気持ちが根底にある、と千葉氏は締めくくった。

まとめ

IT化の波があらゆる業界に訪れ始めている、ということは誰の目にも明らかだが、その中でも飲食業界への浸透はスローペースだと言えるだろう。そういう意味では、「IT x 飲食」の領域はまだまだブルーオーシャンだ。

だが、経営者とデータ活用の間にある心理的な距離をいかに縮めていけるかが、ITによる効率化の実現に向けて必要不可欠な要素だろう。そのためには、セカンドファクトリー社のように、自ら現場を作り、現場で汗をかき、頭ではなく身体で業務フローを理解し、ノウハウを蓄積していくことでしか新たな領域は開拓できないのかもしれない。

取材を行った日はおりしも鎌倉花火大会の日であり、鎌倉行きの電車は浴衣姿の人で溢れかえっていたが、伝統的な夏の風物詩である花火という分野にすらも、今やITは当然のように導入されている

IoTだ、ITだと、キーワードを口にするのは簡単だが、IT会社がITをやっているだけでは不十分な時代が、つまり、IT単体ではなく、ITとはかけはなれた分野の何かと掛け合わせた「IT x ◯◯」が求められる時代が、もうそこまで来ている気がしてならない。

(データのじかん編集部)

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