いま、キャッシュレス決済の手段として大きな注目を集めているのがQRコード決済です。
中国ではアリババ集団の「アリペイ(支付宝)」とテンセントの「ウイペイ(微信支付)」がほぼ社会インフラ化していて、2012年に810億米ドルを下回っていた決済総額が、2016年にはなんと2.9兆米ドルまで伸び、その後も成長を続けています。
その理由は、店舗側の導入コストの低さと消費者の利便性です。
店舗ではQRコードを印刷した紙さえ用意すればいいという簡単さ。消費者はそのQRコードを読み取り、金額をスマホで入力して送金し、預金口座から即座に引き落とされます。
財布どころかカードも要らず、ほとんどの決済がこの方法で済んでしまうのです。
日本でもQRコード決済は広がる予兆を見せています。
たとえばLINEの提供する「LINEペイ」は年内に100万箇所で利用可能になる計画を持っています。また、政府もQRコード決済を提供する事業者への補助金や、店舗側への税制優遇、消費税率引き上げに合わせたポイント還元などの制作で後押ししています。
しかし、どこでも現金を安全に引き出すことができ、店舗でも気兼ねなく使える日本でキャッシュレス化を進めるメリットは何でしょうか?
キャッシュレス決済を日本で普及させる大きなメリットの一つが、インバウンド対応です。
日本への観光客の多い中国、韓国でこれほどキャッシュレス決済が普及していることを考えると、自国で利用していた決済方法をそのまま日本国内でも使えるように整備することは大きなメリットになり、観光収入を大きく増やすきっかけになりえます。
また、キャッシュレス決済では現金と違い、データが残るのも大きなメリットです。「いつ、誰が、どこで、何を買った」というデータが集まってビッグデータとなれば、その価値は計り知れません。
マーケティングに利用できるのはもちろん、統計的に日本人の「お金の使い方」が可視化できれば政府の政策立案や行政にも活かせるでしょう。
一方で、海外のプレイヤーであるアリペイ、ウイペイ、Apple Pay、Google Payなどが先に日本国内で普及してしまうと、国内の事業者 ――特にフィンテック企業にとってはデータを自社のものとして扱うことができなくなり、大きな痛手です。
政府が国内のQRコード決済事業者に補助金を出しているのはこれが理由です。
ここまで、キャッシュレス決済のメリットを大きく取り上げてきましたが、もちろんデメリットもあります。
その大きなものが、プライバシーの問題でしょう。
QRコードのような「リアルタイムペイ」方式の決済では、銀行口座の情報をアプリに登録し、自動引き落としを許すことになります。
今でもすでに、私達はスマホやPCを通じて年齢や性別はもちろん、趣味嗜好や友人関係、政治的な立場などの情報を企業に提供しています。
それですら不快感を抱く人が多い中、銀行口座の情報 ――つまり「財布の紐」までも握られたいと考える人はどれほどいるのでしょうか。
もちろん利便性はありますが、財布の紐を預ける以上はレベルの高い「信頼」が必要です。
データの厳重な保護はもちろんのこと、そのデータが悪用されないことを信用できるような仕組みづくりが今もっとも求められていることでしょう。それが成立しない以上、どんなに便利なサービスを開発し、政府が強力に後押ししたとしてもキャッシュレス決済は普及しないのではないでしょうか。
世界の潮流がキャッシュレス社会へと進む中、日本がどのような取り組みでその流れに乗っていくのか注目したいですね。
【参考記事】 日本が安全だから? キャッシュレスが進まないワケ | NIKKEI STYLE キャッシュレス決済とは 日本、比率2割にとどまる | 日本経済新聞 5 charts on how mobile payments are growing in China | Tearsheet
(塚岡雄太)
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