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世界中で躍進するBYD
いかにしてイノベーションを「普及」させたのか?
その種は「アーキテクト」と「エコシステム」

         

過去2回の記事では、異なる領域の「知」をぶつけることでイノベーションの「種」が生まれること、また種が芽を出すためには環境を整える必要があることを中国のユニコーン企業を例として取り上げました。

シリーズ最終回となる今回は、イノベーションの「普及」に目を向けます。長い時間がかかるイノベーションの普及を戦略的に進めた企業として注目したいのは、今話題の中国のEV市場を牽引する企業「BYD」です。

EVはイノベーションの宝庫

ここでもう一度イノベーションとは何かについて振り返ってみましょう。

イノベーションとは

研究開発活動にとどまらず、社会・顧客の課題解決につながる革新的な手法(技術・アイディア)で新たな価値(製品・サービス)を創造し、社会・顧客への普及・浸透を通じて、ビジネス上の対価(キャッシュ)を獲得する一連の活動

この視点で「イノベーションの種は『どこに』蒔かれるか」を考えてみると、EVほど「社会の課題解決につながる革新的手法」、「新たな価値を創造する活動」という言葉がぴったり当てはまるテクノロジーはないように思えます。それゆえ、EVはイノベーションの中でも「破壊的イノベーション」に分類されることもあります。

破壊的イノベーションは、ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・M・クリステンセン教授が提唱した概念です。市場競争のルールを根底から破壊し、既存企業のシェアを奪い、業界の構造を劇的に変えるほどの革新的イノベーションのことを指します。

テスラをはじめとするEVメーカーはこれまでガソリン車の販売ではプレイヤーとして全く認知されていなかった企業です。その中に中国のEVメーカーBYDも含まれるでしょう。BYDは、2021年通年の販売台数で4位にランキングしましたが、22年1~6月期の実績ではテスラに次ぐ世界2位に浮上、世界シェアは1割に達しました。

BYDとは?

ご存じない方のために簡単に説明しておくと、中国のEVメーカーであるBYDはパソコン向けの電池事業で1995年に創業、2003年に自動車事業に参入しました。しかし、2022年3月以降はガソリン車の生産をやめて、EVとプラグインハイブリッド車に特化してきました。

当初、わずか20人でスタートしたBYDでしたが、今ではグループ全体の従業員数は23万人を誇っています。

恐るべき特許出願件数

注目したいのは、BYDのEV関連の特許出願件数です。中国でEV販売を手掛ける企業4社のEV関連特許出願件数を分析したところ、BYDが中でも断トツで多く、2位の浙江吉控股集団の1.8倍の1557件でした。

海外でもBYDの特許出願件数は圧倒的で、欧州では出願総数の11%、米国では8.9%、日本では3.1%を占めているほどです。BYDの特許を分析すると、蓄電池の周辺技術に関する強みを持っていることが明らかになりました。これは、電池事業からスタートしたBYDが長年培ってきた技術力とノウハウの結晶といえるでしょう。

BYDがイノベーションを普及させた方法

BYDが圧倒的な技術力を持っていることは確かですが、それだけではイノベーションの種をまいているに過ぎません。では、BYDはどのようにしてこの種を育て、普及させ、社会に浸透させていったのでしょうか?

イノベーションには「アーキテクト」と「エコシステム」が必要

日興リサーチセンターの分析によると、イノベーションを強力に推進するためには「アーキテクト」と「エコシステム」が不可欠とのことです。

ここでいうアーキテクトとは、テスラでいうところのイーロン・マスク氏のような、イノベーションを強力な実行力で進めるカリスマ的存在のことです。

そして、エコシステムとは、資金調達や技術開発両面において、政府関係機関、財団、有力な大企業がイノベーションをサポートすることを指します。まさに前回の記事で言及した北京のスタートアップ企業は恵まれたエコシステムの中にいたことで、イノベーションの種を育てることができたのです。

「EVは公共事業から攻める」

イーロン・マスクに相当するBYDのアーキテクトは董事長である王伝福といえるでしょう。

彼は大学と大学院で電池を専攻しており、まさに電池のプロフェッショナルでした。創業して間もないころ台湾のEMSメーカーに攻勢をかけ、それがきっかけとなって、世界の大手メーカーに知られるようになり、創業2年目でBYDをニッケルカドミウム電池の世界シェア第4位まで押し上げました。

そんなBYDのアーキテクトがEVを社会に普及させるためにとった戦略、それが公共事業です。2010年に王伝福は「EVは公共事業から攻める」と宣言しました。それ以降、BYDは世界70カ国・地域でEVバスを販売してきました。このようにバスという社会インフラで足場を築いて乗用車へと展開する手法がBYDの販売戦略なのです。

それは、イーロン・マスクがEVの性能やデザインで成功したわけではなく、いかにして広大なアメリカで充電ステーションを配置し、効率よく充電できるかに心を砕いたのに似ているといえるかもしれません。

二人が単なる優秀なエンジニアや技術者で終わらなかったのは、技術を普及させる仕組みづくりに長けていたからといえるでしょう。下の図に示されているように、イノベーションの種があっても、それが社会に普及しないのは、「イノベーティブな製品・サービスを社会や人の課題解決につなげる仕組みがない」からなのです。

出所:三菱総合研究所

イノベーションが普及しない理由とは?

2022年にBYDは日本市場に本格進出しましたが、王伝福が「千里の道も一歩から」という通り、長い時間をかけて準備してきたことの結果でした。例えば、BYDは2010年には群馬の金型工場を買収し、2015年には京都にEVバスを導入していました。

王伝福は日本進出のビジョンを、日本企業に電池を供給していた1999年から温め続けていたのです。

まとめ

「日本ではイノベーションが生まれない」、3回にわたってその理由を探り、繰り返されるフレーズに対して答えを出そうとしてきました。

技術力や「モノづくり大国」ばかりが強調される日本の国内産業ですが、「何を使うか」ではなく、もっと「何をしたいのか」に目を向けるべきなのかもしれません。わたしたちには遊び心がもっと必要です。

イノベーションはもっと楽しく、自由なものであるべきなのです。


書き手:河合良成氏
2008年より中国に渡航、10年にわたり大学などで教鞭を取り、中国文化や市況への造詣が深い。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。現在は福岡在住、主に翻訳者、ライターとして活動中。

【参考資料】
・中国EV特許でBYD独走 世界展開視野、トヨタも引用|日本経済新聞BYD、EV日本参入の裏に「千里の道」戦略|日本経済新聞日本企業「効率性は世界51位」でギリシャ以下、地に落ちた日本に欠けるもの|ダイヤモンドオンライン「日産リーフ」より「テスラ」がEVの主役になった訳|東洋経済オンライン

(TEXT:河合良成  編集:藤冨啓之)

 
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