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ノマドワークが盛り上がりを見せ始めた2010年、『電源カフェ』というサービスをはじめた林大勇氏。全国の「電源が使えるカフェ」を紹介するサイトで、カフェでパソコン作業を行いたいと考えるユーザーに好評を得た。同サービスは最終的に、月間利用者約20万人、アプリDL数35万、掲載店舗数8,000件にまで成長した。
その後林氏はTIME MACHINEに参画し、同社取締役COOに就任。スケジュール調整アプリ『スケコン』なども手掛けている。
電源カフェにしても、スケコンにしても、共通している哲学がある。それが、「個」としてのDXである。一般的にDXは組織体で動かすものであるが、しかし林氏は組織外の様々な人物と協力し合いながら事業を進めてきた。特に「VUCA」時代、チーム・組織内に答えがあるとは限らない。電源カフェに関しても、わずか数人で全国津々浦々の電源カフェを網羅できたのは、ひとえに「個」の力であるのは間違いない。遠く離れたエリアとエリアを結び、地図上にマッピングできたのは、まさにデジタルの力の賜物であり、「個」のシナジーによるDXと言える。
もう一つ、林氏が考える哲学がある。それが「限りある時間を少しでも増やすこと」だ。そのためにも、ITの力を駆使して時間・手間の「無駄」を減らす必要があった。ここでも「個」としてのDXがいかんなく発揮された。林氏が手掛けたスケコンではカレンダーと連携することでAIが空き時間に自動で予定を入れてくれる。無料プランも充実しており、有料プランも安価なため、プライベートの利用はもちろん、小規模法人や個人事業主でも導入しやすい設計になっている。
「無駄」を省き、「個」をエンパワーメントする、林氏の哲学の背景にはどのような思想や知識があるのだろうか?
林氏を一躍有名にしたのが、冒頭の『電源カフェ』だ。ノマドワーカーという言葉の広がりと共に、ビジネスの現場でもプライベートでも加速度的にIT化が広がった当時、気軽に使える電源の需要も高まっていた。絶妙なタイミングで「かゆいところに手が届く」サービスを生み出せたきっかけを伺った。
『電源カフェ』はもともと僕自身が電源があるカフェを紙のメモ帳に集めていたことが始まりだったんです。当時「スターバックスでパソコンを開く」ような働き方に憧れて(笑)
でもいざ外で仕事しよう!となっても、充電がないと厳しい。なので僕自身のために「電源のあるカフェのリスト」を作り始めたんです。
そのリストを見て、これ、他の人も使えるんじゃないかな、と思ったのが『電源カフェ』が生まれたきっかけでした。
持ち前の好奇心で新たな働き方にチャレンジした結果、そこにある課題に直面した林氏。サイトを立ち上げ、SNSで共有したところ、想像以上に多くの反応が集まったという。
自分自身の課題を解決したいという気持ちから作ったものが広く受け入れられて驚きました。今思い返すと、自分自身がペルソナだったことで忖度なく課題に対するアプローチができたのかな、と思います。
こだわったのは名称です。漢字とカタカタの組み合わせってバランスがいい。日本史や中国史を学ぶことが趣味なのですが、平安時代くらいからの文書でも人物の名称は漢字とカタカナですよね。たぶんDNAに刻まれた心地良さがあるんだと思います。
ITを使って個々人の日常の営みを効率化するサービスに取り組んできた林氏。彼が効率化を志向するようになった背景をこう語る。
基本的にやりたいと思ったことは効率化したい性分なんです。今はさまざまなSaaSがあり組み合わることでプロセスを短縮、最適化することができます。
ITって超楽! と気づいたのは、大学生の頃です。mixiでこれまで連絡を取り合っていなかった仲間に再会できて、これはすごいぞ、と。また当時は大学のレポートも手書きで提出のものとWordで提出できるものがあって、Wordで書くほうが執筆はもちろん、修正もはるかに効率がいいな、と実感していました。ITの便利さに気づいたのは人より少し早かったんじゃないかな。
ITの可能性に気づく一方で、大学生だった林氏は好奇心に突き動かされ、起業という道を選んだ。
大学生だった当時「なんで生きてるんだろう」というある種根源的な問いについて考え込むようになったんです。人はいつか死ぬし、時間は有限であることはわかります。しかし、それ以上のことは考えてもわからない。そこで、思い切って就職ではなく起業という道を選ぶことにしました。その根底にはこの道を選んだらどうなるか想像がつかない、という好奇心があったんです。
もともと好奇心は強い方でしたが、それに加えて、時間が有限であるという意識を持ったことで目的を達成するために最短経路を模索するようになりました。
人生のリミットを考え、目的思考で動くようになった林氏はプライベートでも目的思考で動いているという。
死ぬまでのプランをすでに立てているんです。
今は、40代で不惑と呼ばれる年代に入りました。これまでに興味関心の方向性は定まったと思うので、ビジネス、地域、趣味の交錯点を模索して、知識をつけながら、まずは、ビジネスの部分に投入して、45歳までに上場したいと思っています。その後60代までは、実家の駄菓子屋さんを継ぎつつ、市議会などで政治に関わっていくことで地元の地域コミュニティの活性化に邁進して、その後は世界中を回りながら趣味の日本史と中国史についてより深く学ぶ学者として80代まで過ごす……、とやりたいことを挙げるとキリがない。なので手段に時間をかける余裕はないんです。
課題や目的を自分で見つけ出し、突き進んできた林氏は自身についてこう分析する。
自分はエゴが強いほうだと思います。先ほど語った通り、これまで作ってきたサービスは自分自身の課題感に直結しています。これは裏を返すと解決したい課題を自分ごと化していると言えるかもしれません。
こうした自分ごと化の背景には、共感してくれる人はいるはず、という期待感があります。世界には70億人の人がいて、みんな価値観や大事にしているものは違いますよね。そうした中で特定の目的へのアプローチは千差万別。自分が作るものに共感する人は絶対にいるはずなんです。逆に、自分が作るものが合わないという人に対してはまた違う価値観を持っているんだな、と割り切るようにしています。
こうした思想は組織の中でも生かされているという。
一緒に働いている人にタスクを依頼するときはKPIだけでなく、裏側にある目的や意図を明確に伝えた上で、その仕事をなぜあなたかやるのか、またその仕事のサービスへの影響や重要度についても言及しています。そうやって伝えることで、その人自身がその仕事に目的意識を持ってもらえるようにしたいんです。
45歳までの目標として掲げてられている上場に向けて、今後の取り組みについて林氏に伺うと「アナログデータ」というキーワードが浮かんできた。
今目指しているのは「アナログデータ界のGoogle」です。ここでいうアナログとは、街に出て自分の体で体験したことを指します。
例えば、お店にしても、マップの位置情報やHPに掲載している開店、閉店時間はデータとして取得できますが、HPを作っていないような小規模のお店の開店、閉店時間や不定期な休日、その時々のメニューを知るには現地に行かなくては行けません。
またこうしたデータの更新って大手のマップサービスでも年に数回単位しか行われないんです。そこで、『電源カフェ』を活用しているユーザーをはじめ、個人の力を借りつつ高頻度でリアルな地域の情報を収集しようとしています。そして収集したデータを使って今までアナログでしかアクセスできなかった情報を手軽にアクセスできるようにしたいな、と。こうしたサービスが実現して、街の様子をオンラインで知ることができるようになれば、福祉の下支えや地域の活性化に一役買えるんじゃないかな。
自分自身をペルソナに紙のメモ帳や歩いた景色など、身近でリアルな存在の効率化によって「個」のエンパワーメントに取り組んできた林氏。その背景には持ち前の好奇心と、圧倒的な目的思考があった。
今後もアナログなデータとデジタルのデータの合わせ技で、個々人がより便利に、効率的に暮らせる社会を目指していく。果たして「個」のDXは、組織のDXを超えることができるのか、それとも組織のDXというものがそもそも個のDXに依存しているのか。注視していきたいところだ。
林 大勇(はやし だいゆう)氏
電源カフェ株式会社 代表取締役・株式会社TIME MACHINE 取締役COO
2007年アクセサリー・アパレルブランド事業で起業したのち(株)フルキャストホールディングスに入社、人事・法務・BPR・DX等の管理部門担当。2010年に充電できるカフェ・スペース検索「電源カフェ」をスタートさせ、月間利用者約20万人、アプリDL数35万、掲載店舗数8,000件まで成長させ2018年電源カフェ株式会社を設立、代表取締役に就任。主に広告、集客支援、ビッグデータ事業を軸とした事業を展開。2021年4月(株)TIME MACHINEに参画し、取締役COOに就任。その他、東洋大学非常勤講師、フリーランスとしてはDXコンサルタントも行っている。
(取材・テキスト:大藤ヨシヲ 企画・編集:田川薫 企画支援:安齋慎平)
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