About us データのじかんとは?
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地方のいち大衆食堂からデータ活用に取り組み10年で売上5倍という成果を挙げているのが伊勢神宮の門前町にある食堂「ゑびや」である。
もともとは伊勢うどんや定食を提供する大衆食堂。小田島春樹社長が27歳で継いだときには、帳簿は手書き会計はそろばんと昭和のやり方のままだったという。そこで、まずは帳簿を紙からエクセルへ。POSレジを入れて、マクロ化して、機械学習へ……と段階的に変えるなかで、データを取り続け、施策に落とし経営に活かしてきた。
店の軒先にWEBカメラを付けて交通量を計測。店の前を通った人から実際に店舗に入店して頂いた方を計測して、入店率を出しています。来客者数を予測して、看板も複数パターンをABテスト。入店後もお客さまの注文したメニューの傾向を、年齢層や季節などから傾向を読み取り、メニューをブラッシュアップ。徐々に客単価を挙げて、10年間で売上5倍を達成できたのである。
ただ、順風満帆にみえるそんなゑびやにも容赦なくコロナ禍が襲う。2020年4月の緊急事態宣言により客足は9割減となった。当初から小田島社長はある方針を決めていた。
「入店率は基本的に一定ですから1日の交通量が1500人になった時点で、店を開けていても赤字が確定します。ですから、出血を止めると決めていました。当時はスタッフの雇用維持を第一に考えていましたね」
よく勘違いされるそうだが、ゑびやの営業時間はお昼のみで夜営業はない。政府の飲食店向け支援補助金は居酒屋など夕方以降に営業する飲食店向けで、ゑびやは休業補償の対象外だったのだ。
「なんとか最初の緊急事態宣言を乗り越えて。2020年6月以降は徐々に営業ができるようになってきました。ただ、その年の夏以降は客層に変化が生じたんです。
例年の7月8月は40代以上が多かったのですが、2020年は40代以上が21%減、20代以下が20%増となっていた。極端に言えば、これまで『巣鴨』で商売をしていたゑびやの環境は『原宿』に変わってしまったのです。冷静に考えれば年齢が上がれば重症化のリスクも上がるので、伊勢に旅行に出るのが若い人が中心になったという話ですが、データで如実に読み取れるものでした」
コロナ禍の観光業は「マーケットそのものがなくなる」体験もしたが、元通りにマーケットが戻ってきたわけではないことを小田島社長は実感する。2020年秋冬も伊勢おはらい町の通行量は11%減のままだった。しかし、データを見て的確にできた施策で2020年度の売上は前年比120%を確保できたという。
「シンプルに言えば若い層への訴求を増やしたのです。まずは入店率。WEB広告の比率を高め、軒先でうちわを配ったりしてイメージを変えました。セルフレジやセルフオーダーができるようにPOSレジも変更。オーダーや会計業務の省略化はスタッフの働く安心にも一役買いました。メニューもインスタ映えするように、『伊勢うどん』に雲丹やいくらなどお好みの物をトッピングできるようにしたり、『海宝飯』などのメニューを開発しました。
2020年秋口から本格化した「Go to Eat」「Go to トラベル」への対応も余念がない。紙のクーポン券へのレジ対応や、前日に予約が入るためにその対応ができるようにした。また、軒先の看板を「Go toを使ってお得に食べられます!」という訴求に変更したという。
「日々データを取り続けることによって、ちょっとした数値の変化があれば違和感を感じ取って、すぐ施策に落とします。例えば、2022年春から夏にかけての現在は、元々4%台だった入店率2%台に落ち込む日も出てきました。コストプッシュ型のインフレで財布の紐が固くなりつつあるのを感じています。ゑびやは周囲のお店に比べて高単価ですから、『せっかくお伊勢参りに来たし、ちょっと贅沢しようか』という機会が減っているのだと思います。ゆえに改めて、『お得さ』を訴求するモノに変更したりしています」
コロナ禍の施策改善もデータがあればこそ。日常からデータ分析の基盤があるから即施策に反映が可能である。データを用いてメニューを刷新、SNSなどマーケティングチャネルや訴求ポイントを変える攻めの施策だけでなく、セルフレジやセルフオーダーを導入して非接触と省人化で従業員の負担軽減を行う守りの施策も。また、店内の混雑状況を見える化してお客様への新しい価値提供を行う攻めの施策と同時に走らせるのだ。データ分析と施策の変更に終わりはない。小さな改善は常に3~5つ程度は走っていると小田島氏は言う。
なぜゑびやは、ここまでの即座にデータ分析と改善の活動ができるのだろうか。
「ビジネスのプロセスを細分化して各所でデータを取り定点で観測し、施策に対して改善活動を行うのは別に大企業に限った話ではありませんし、中小企業でもできること。むしろ、中小企業の方がその小ささを活かして即座に動くべき。
僕はいつも『逆ルサンチマン』と呼んでいます。地方都市のいち食堂がここまでデータ活用ができるのであれば、都市部にある大企業が『ゑびやがDX改革ができるんだから俺たちに出来ないはずがない』と思ってもらいたい。弱者ができる戦略を逆に強者が学んで欲しい。私自身も『中小企業だから。人材が居ないから』と言い訳する状況は変えたいと思っています。
飲食業はビジネスモデル的にどうしても低賃金になりがちです。地方をより活性化させるためには、飲食業が儲かるビジネスにならないといけません。同時に、ゑびやで働いてくれているメンバーの幸せを考えたら、立ち止まる理由にはいかないんです」
ゑびやでの取り組みを全国の飲食店に広げるために。株式会社EBILABという会社を立ち上げて、ゑびやで培ったノウハウをツールとしてコンサルティングを始めたり、各地方自治体で呼ばれては講演をしているという。
「基本的なツールの使い方はゑびやと一緒。入店率とメニューで何を頼んだかの比率、廃棄率などを見て、いかに入店を促すか、客単価を上げる取り組みをするか、ロスを減らす取り組みをできるかにかかっています。伊勢以外の地方都市でも面白い取り組みが続々と生まれていますよ」
そして、今小田島社長が力を入れているのは、ゑびや食堂と同じ参道沿いに作った「ゑびや商人館」だ。
「観光地の2階以上は基本的に入店率が悪く、よっぽど人通りが多くなければ採算が取れないことが多い。多くの店舗で空き家になっていたり、倉庫になっていたり。ゑびやも2階は事務所として使っています。それではもったいなかったので、改装してテストマーケティングのスペースとして全国の企業に使っていただくのが『ゑびや商人館』。自分たちの新商品やマーケティングの仮説を持ち寄り、実際にゑびや商人館で伊勢を訪れる観光客相手に試してもらい、ブラッシュアップして帰る。データを取るための仕組みはゑびやのBIツールが既に備わって居ますから試すだけの場を提供しているのです。ついでに、お伊勢参りとゑびやの見学もできますから一石二鳥どころか三鳥四鳥ですよ(笑)。すでに大手ビール会社さんのテスト商品を試飲していただく取り組みや、新卒向けの実地販売研修のお引き合いを頂いています」
小田島社長が強調するのは「売れない」という体験をして欲しい、ということ。
「普通に呼び込みして『新しい商品です!』と声をかけるだけでは、とにかく売れないんですよ。最初は物珍しがってくれても段々と飽きられてしまう。でも、そこからが「どうやったら売れるんだろう?」と考え始めるところが、本当の勝負。考えることで創意工夫が生まれます」
考える材料としてのデータ活用。ゑびや小田島社長の飽くなき挑戦はまだまだ続く。これからもゑびやがどんな仕掛けをするのか楽しみだ。
(取材・TEXT:上野智 企画・編集:野島光太郎)
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