自由なお別れとは、自由に生きること。
大の葬祭 川野氏がデジタルで寄り添い、模索する
「新しくて、温かいお葬式」

データのじかんでは、全国47 都道府県の各地域のDX やテクノロジー活用のロールモデルや越境者を取材し発信している。「Local DX Lab」は地域に根ざし、その土地ならではの「身の丈にあったDX」のあり方を探るシリーズだ。第9弾は大分県。コロナ禍においては、さまざまなシーンでの人と人が相対するシーンの見直しがされている。そのひとつに挙げられるのが、お葬式。その最中、積極的にオンライン参列や動画配信などに取り組んでいる大の葬祭グループの代表 川野晃裕氏を取材した。

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2022年4月にアメリカ・フロリダ州で打ち上げられたスペースXのファルコン9。機体には故人の遺骨を納めたユニットが同乗した。大気圏突破後、遺骨入りカプセルは5,6年地球を周遊した後、流れ星となる。今春、大の葬祭は各宇宙葬会社と提携を行い、宇宙葬サービスを本格的にスタートさせた。(写真提供/SpaceX)

緊急事態宣言下で三密を避けるため、さまざまなシーンでの立ち合いが見直された。そのひとつに挙げられるのが、お葬式。近年では弔辞や弔電含めての辞退が多く、近親者のみでお別れするケースも増えていった。

ただお葬式というものは寂しいお別れの場所、ということだけではない。「ありがとう」を伝える場所、逝去された方が心のなかで永遠に生き続けていくための始まり、スタートの儀式という大切な場所ともいえる。

その最中、コロナ禍において積極的にZOOM参列や式の動画配信などに取り組んだのが大分県にある大の葬祭だ。googleの口コミも5点満点中の4.83点と高い満足度を得る大の葬祭はこの3年で会社をホールディングス化。葬儀だけでなく生前、死後のサポートを一貫して行えるように関連会社、提携会社を増強した。そして今年の4月より宇宙葬というサービスを本格開始。私たちにとってより良いお別れ、より良いご供養のかたちとはいったい何なのだろうか。その疑問にひとつのアンサーを出そうとしている大の葬祭の考えとは。グループ代表・川野晃裕氏に詳細を追った。

大の葬祭・宇宙葬のホームページ
大分県豊後大野市に本社を構える、大の葬祭(おおのそうさい)グループ代表・川野晃裕氏。4兄弟の長男で、24歳で株式会社大の葬祭に入社。27歳で代表取締役を務める。その後13年社長業を務めたのちに実弟に経営を任せ、2022年4月にホールディングスである「大の葬祭グループ」の代表に就任。子供の頃の夢は宇宙飛行士。

大分から宇宙へロケットを打ち上げる日がもう間もなく?!
県全体で宇宙規模の施策が始まりつつある。

2020年4月、大分県とアメリカのヴァージン・オービット社(カリフォルニア州)が提携を発表。大分県・国東市の大分空港が、アジア初の水平型宇宙空港と認定された。早ければ2022年内には宇宙空港として機能する予定となっている。また同県は内閣府と経済産業省が推進する「宇宙ビジネス創出推進自治体」に選定されたため、県内の宇宙関連事業をバックアップを宣言。公民ともに宇宙コンテンツを盛り上げている最中だ。

もともと自治体は温泉など地域資源による地域活性化には取り組んでいたが、今後はグローカルを超えた、ローカル×宇宙のハイブリッドでの活性化を県全体でも見据えている。

宇宙空港に選定された大分空港の全体図。昭和56年に埋め立て工事が開始され、現在は2500mの滑走路が陸続きながらも独立して存在している。ここで2022年のうちに水平型のロケットが打ち上げられる予定だ。(写真素材/photoAC)

一方で地元でも全国的な社会問題が起きている。それは葬儀にまつわる孤独死や相続トラブルの増加。東京スター銀行の調査では相続トラブルの件数が2000年で8,889件だったものが2020年には11,303件と127%増、厚生労働省の調査では孤独死の件数が2019年には18.8万人に登り増加傾向にあると発表されている。特に、相続トラブルは高齢化社会と核家族化によるコミュニケーションの希薄が起因しているそうだ。

左図は2019年の場所別死亡者数。老人ホームや介護施設よりも自宅での死亡は多い。そのうち孤独死も含まれている。右図は相続トラブルの統計グラフ。どちらも増加傾向にある。

宇宙空港と日本の社会問題。側から見ると一見異なったジャンルの動きだが、葬儀業界の可能性につながると川野氏は感じたという。時代に合わせた顧客ニーズの変化ももちろんだが、宇宙葬の大事なところは「夜空を見上げればいつでも会える」こと。空を見上げ手をあわせれば故人とつながることができる。無宗教に近い民族だからこそ、自分自身が思い立った時に祈りを通じてつながることができるという、この安心感が「より良いご供養のかたちのひとつになると私たちは確信しています」と川野氏は語る。

核家族化が進み管理できる人たちも減る中で管理する手間も減り、また好きな時に手を合わせて故人を想う。宇宙葬は故人と遺族の新しいつながりかたのひとつだ。そう考えた川野氏は弟に相談。その弟がプロジェクトの中心となり自前で日本でスペースX社と提携している企業と契約を結び、宇宙葬のサービスを立ち上げた。今後は半年に一度のペースでロケットを打ち上げ予定。大分での打ち上げが始まれば県内から宇宙へと遺骨を送る予定だ。

写真左:スペースX ファルコン9を下から撮影。この部分から散骨される。写真右:遺骨はアルミでできた箱の中に丁重に保管して空へと飛び立っていく。遠い将来ではアバターでのお参りやGPS機能での位置確認などさまざまな供養の方法も想起しているそう。

「想いを大切にする」という理念を中心に。社会問題を解決するプロフェッショナル集団をつくる。

「大の葬祭の理念は“想いを大切にする”、なんです。そのためのミッションとしてより良いお別れ、より良いご供養という言葉があります。同じ方向を向いて一人のお客様のために何ができるかを考える。そして世の中の社会背景にある課題に目を背けず、解決のイノベーションを起こす。その視点で考えたら葬儀だけ、供養だけ、ではなくもっと生前や死後のサポートをしていかないといけないってことに気がついたんです」と話す川野氏の手はグッと力がこめられていた。

遡れば10数年前、4人兄弟の長男として生まれ、20代のうちに先代から引き継ぎ社長業を務めていた川野氏は、とにかく自社の経営向上に集中した。先代達が苦労して築き上げた会社をもっと自分の手で成長させたい。若手経営者だったせいもあり、背伸びをしながら業務改善に尽くす時期が4年ほど続いた。

しかしある時、自分ひとりの努力によるマネジメントと売上に限界を感じた。そもそもビジネスというものはお客様がいてこそのサービスだと考えていた川野氏。さらに顧客満足度をあげるためにはどうしたら良いか。思案する日々のなか自社で行っていた葬儀後のグリーフケアで故人が亡くなった後にも多くのトラブルが噴出しているケースが多々あることを耳にする。

もっと顧客の悩みを包括的に解決していかなければ、幸せな葬儀や供養にはならない。葬儀社がまだまだやれることがあるんじゃないだろうか。そう考えた川野氏はアライアンス組織をつくろうと決意する。困っているひとたちのお節介役になりたい。それが幸せな葬儀や供養、つまり、より良いお別れ、より良いご供養になる。川野氏はサービスの再構築を始めた。

お客さまの悩みを中心においたアライアンス組織への転向。

現在の大の葬祭のサービス展開および関連企業。関連企業の持株はすべて33%と留めて設立。力ではなく想いでつながる組織を体現していきたいという考えの現れだ。

「もちろん式だけでいい、資産整理も自前でできるし、供養を担う寺も人もいる。そういう方ももちろんいます。そういう人たちは、良い葬儀、良い供養を選ぶ選択肢もありだと思うんです。でも自分たちは終末期に何をしていいのかわからない、頼り手がいなくてなかなかそれができない、そんなひとたちのお節介をしてきたいんです」

死のかたち。個人が多様ななかで葬儀のサービスが一択だったり、供養もできない遠隔地でのお墓を選ぶことが本人やご遺族にとって決してベストな形でない場合がある。そしてそれ以上に家族間でコミュニケーションが取れていない、相談ができる相手がいない場合がある。それに対し率先して、解決できるプロフェッショナル集団になろうと大の葬祭は考えたのだった。そして5年前より動き出した今、そこには県内外を超えて多くの賛同者が集まった。(上図)

現在では終末期から供養の相談ができる「はーとねっとCLUB(ネットは網という意味)」のコミュニティ会員は2万人、介護施設の斡旋や、介護で自宅不在になった場合の空き家活用、FPによる資産整理、生命保険・損害保険の相談窓口なども請け負い葬儀までの心配事を整理。本人の希望と残される側の心のつながりに寄り添ったサービスを提供している。

あるべきお別れとして川野氏は次のように捉える。

「お別れする側もされる側も心の拠り所があるということがとても大事なポイントなのです。確かにお別れは悲しいものですが、一方で心と心がつながるスタートの儀式なのだと私たちは考えています。

例えば弔辞でも『生前は』という言葉を用いますよね? それは人生そのものが死後の世界であり、生きている間は始まりの前だという観念からなのです。個人的な話ですが、私自身も今は亡き祖父の話を他人から聞くこともあります。別の形でその人は生き続けている。その視点で考えると、生前で徳を積むことがとても大事で、葬儀は次の世界を生きるための集大成だと思っています。

いいお別れ、それはすなわち、本人が納得して周囲がいい葬儀だったねと心穏やかに見送れること。そのために何ができるかを考えて動こうと自身も社員にも呼びかけています」

運営する会員コミュニティ「はーとねっとCLUB」の理念は“よりよく生きる”。死の形に自身と家族など大切な人と向き合うのはすなわち心の繋がりをうみ、よりよく生きることにつながると笑顔で語る川野氏。

だれひとり取り残さない。デジタルの魅力は高齢者に伝わってこそ活かされる。

宇宙葬と共に「供養のタヨリテ」というサービスを実証実験中。九州のお寺を皮切りに衛生データによるお墓の管理状況をAIが診断。必要があれば供養のコンシェルジュが墓じまいや清掃代行、また納骨堂や自然葬などのアドバイスを顧客に行うサービスだ。遠隔地で墓守りが困難な家族、檀家離れで管理が難しいお寺、写真のような被災による墓の倒壊などの墓地管理の悩みを解決していく。(2026年迄に本格始動予定)

寄り添いかたを常に模索する中でデジタルの可能性はとても感じていると川野氏は笑顔を浮かべた。「特に地方に住む人たちほど必要性を感じますよね。だからこそ、高齢者のひと達にも伝わるデジタルであって欲しいと思います。それは説明ひとつとっても、ドローンを使えば今まで20分かけて通っていたスーパー行かなくて済むんだよ、など、わかりやすく説明していく。そうすればだれにでも寄り添えるデジタルになって、社会の可能性が拡がっていくと思います」

最近、健康寿命がNo.1になった大分県。温泉などのウェルビーイング要素や水源豊かな土地の利から生まれる食の豊さ。そこに心のつながりが生まれればきっと九州だけでなくアジアへも魅力発信に繋がっていくだろう。大の葬祭はその日を目指して、今日も想いの体現へと歩みを進める。

 

大の葬祭グループ 代表 川野 晃裕
1982年大分県豊後大野市生まれ。帝京大学卒業後、日新火災海上保険勤務を経て、大の葬祭へ入社。2010年、自らの申し出により27歳で3代目として代表取締役社長に就任。4人の男兄弟の長男であり、現在では経営に全ての兄弟が携わっている。2022年4月、社長業は四男に引き継ぎ、自らは代表として大の葬祭グループを取りまとめる。


聞き手:フルカワ カイ
ブランディングと八女茶「SIGN」主宰。リクルート社でインターン後、出版社やベンチャー企業の広報を経て独立。“小さな声を社会に届ける”をミッションに、企業のパーパスやMVV策定のお手伝い役として活動。教育、福祉、メーカーなど幅広いジャンルでブレない軸のコピーライティング・ライティング・取材に携わる。2021年までの10年間は福岡に在住。地域活性に目覚め、出身地である大分では「YABAKEI TRIP」「大分日田げた組合」のサイトの立ち上げにも携わる。埼玉・福岡・大分の三拠点で活動中。

(取材・TEXT・PHOTO:フルカワカイ 企画・編集:野島光太郎)

 

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