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緊急事態宣言下で三密を避けるため、さまざまなシーンでの立ち合いが見直された。そのひとつに挙げられるのが、お葬式。近年では弔辞や弔電含めての辞退が多く、近親者のみでお別れするケースも増えていった。
ただお葬式というものは寂しいお別れの場所、ということだけではない。「ありがとう」を伝える場所、逝去された方が心のなかで永遠に生き続けていくための始まり、スタートの儀式という大切な場所ともいえる。
その最中、コロナ禍において積極的にZOOM参列や式の動画配信などに取り組んだのが大分県にある大の葬祭だ。googleの口コミも5点満点中の4.83点と高い満足度を得る大の葬祭はこの3年で会社をホールディングス化。葬儀だけでなく生前、死後のサポートを一貫して行えるように関連会社、提携会社を増強した。そして今年の4月より宇宙葬というサービスを本格開始。私たちにとってより良いお別れ、より良いご供養のかたちとはいったい何なのだろうか。その疑問にひとつのアンサーを出そうとしている大の葬祭の考えとは。グループ代表・川野晃裕氏に詳細を追った。
2020年4月、大分県とアメリカのヴァージン・オービット社(カリフォルニア州)が提携を発表。大分県・国東市の大分空港が、アジア初の水平型宇宙空港と認定された。早ければ2022年内には宇宙空港として機能する予定となっている。また同県は内閣府と経済産業省が推進する「宇宙ビジネス創出推進自治体」に選定されたため、県内の宇宙関連事業をバックアップを宣言。公民ともに宇宙コンテンツを盛り上げている最中だ。
もともと自治体は温泉など地域資源による地域活性化には取り組んでいたが、今後はグローカルを超えた、ローカル×宇宙のハイブリッドでの活性化を県全体でも見据えている。
一方で地元でも全国的な社会問題が起きている。それは葬儀にまつわる孤独死や相続トラブルの増加。東京スター銀行の調査では相続トラブルの件数が2000年で8,889件だったものが2020年には11,303件と127%増、厚生労働省の調査では孤独死の件数が2019年には18.8万人に登り増加傾向にあると発表されている。特に、相続トラブルは高齢化社会と核家族化によるコミュニケーションの希薄が起因しているそうだ。
宇宙空港と日本の社会問題。側から見ると一見異なったジャンルの動きだが、葬儀業界の可能性につながると川野氏は感じたという。時代に合わせた顧客ニーズの変化ももちろんだが、宇宙葬の大事なところは「夜空を見上げればいつでも会える」こと。空を見上げ手をあわせれば故人とつながることができる。無宗教に近い民族だからこそ、自分自身が思い立った時に祈りを通じてつながることができるという、この安心感が「より良いご供養のかたちのひとつになると私たちは確信しています」と川野氏は語る。
核家族化が進み管理できる人たちも減る中で管理する手間も減り、また好きな時に手を合わせて故人を想う。宇宙葬は故人と遺族の新しいつながりかたのひとつだ。そう考えた川野氏は弟に相談。その弟がプロジェクトの中心となり自前で日本でスペースX社と提携している企業と契約を結び、宇宙葬のサービスを立ち上げた。今後は半年に一度のペースでロケットを打ち上げ予定。大分での打ち上げが始まれば県内から宇宙へと遺骨を送る予定だ。
「大の葬祭の理念は“想いを大切にする”、なんです。そのためのミッションとしてより良いお別れ、より良いご供養という言葉があります。同じ方向を向いて一人のお客様のために何ができるかを考える。そして世の中の社会背景にある課題に目を背けず、解決のイノベーションを起こす。その視点で考えたら葬儀だけ、供養だけ、ではなくもっと生前や死後のサポートをしていかないといけないってことに気がついたんです」と話す川野氏の手はグッと力がこめられていた。
遡れば10数年前、4人兄弟の長男として生まれ、20代のうちに先代から引き継ぎ社長業を務めていた川野氏は、とにかく自社の経営向上に集中した。先代達が苦労して築き上げた会社をもっと自分の手で成長させたい。若手経営者だったせいもあり、背伸びをしながら業務改善に尽くす時期が4年ほど続いた。
しかしある時、自分ひとりの努力によるマネジメントと売上に限界を感じた。そもそもビジネスというものはお客様がいてこそのサービスだと考えていた川野氏。さらに顧客満足度をあげるためにはどうしたら良いか。思案する日々のなか自社で行っていた葬儀後のグリーフケアで故人が亡くなった後にも多くのトラブルが噴出しているケースが多々あることを耳にする。
もっと顧客の悩みを包括的に解決していかなければ、幸せな葬儀や供養にはならない。葬儀社がまだまだやれることがあるんじゃないだろうか。そう考えた川野氏はアライアンス組織をつくろうと決意する。困っているひとたちのお節介役になりたい。それが幸せな葬儀や供養、つまり、より良いお別れ、より良いご供養になる。川野氏はサービスの再構築を始めた。
「もちろん式だけでいい、資産整理も自前でできるし、供養を担う寺も人もいる。そういう方ももちろんいます。そういう人たちは、良い葬儀、良い供養を選ぶ選択肢もありだと思うんです。でも自分たちは終末期に何をしていいのかわからない、頼り手がいなくてなかなかそれができない、そんなひとたちのお節介をしてきたいんです」
死のかたち。個人が多様ななかで葬儀のサービスが一択だったり、供養もできない遠隔地でのお墓を選ぶことが本人やご遺族にとって決してベストな形でない場合がある。そしてそれ以上に家族間でコミュニケーションが取れていない、相談ができる相手がいない場合がある。それに対し率先して、解決できるプロフェッショナル集団になろうと大の葬祭は考えたのだった。そして5年前より動き出した今、そこには県内外を超えて多くの賛同者が集まった。(上図)
現在では終末期から供養の相談ができる「はーとねっとCLUB(ネットは網という意味)」のコミュニティ会員は2万人、介護施設の斡旋や、介護で自宅不在になった場合の空き家活用、FPによる資産整理、生命保険・損害保険の相談窓口なども請け負い葬儀までの心配事を整理。本人の希望と残される側の心のつながりに寄り添ったサービスを提供している。
あるべきお別れとして川野氏は次のように捉える。
「お別れする側もされる側も心の拠り所があるということがとても大事なポイントなのです。確かにお別れは悲しいものですが、一方で心と心がつながるスタートの儀式なのだと私たちは考えています。
例えば弔辞でも『生前は』という言葉を用いますよね? それは人生そのものが死後の世界であり、生きている間は始まりの前だという観念からなのです。個人的な話ですが、私自身も今は亡き祖父の話を他人から聞くこともあります。別の形でその人は生き続けている。その視点で考えると、生前で徳を積むことがとても大事で、葬儀は次の世界を生きるための集大成だと思っています。
いいお別れ、それはすなわち、本人が納得して周囲がいい葬儀だったねと心穏やかに見送れること。そのために何ができるかを考えて動こうと自身も社員にも呼びかけています」
寄り添いかたを常に模索する中でデジタルの可能性はとても感じていると川野氏は笑顔を浮かべた。「特に地方に住む人たちほど必要性を感じますよね。だからこそ、高齢者のひと達にも伝わるデジタルであって欲しいと思います。それは説明ひとつとっても、ドローンを使えば今まで20分かけて通っていたスーパー行かなくて済むんだよ、など、わかりやすく説明していく。そうすればだれにでも寄り添えるデジタルになって、社会の可能性が拡がっていくと思います」
最近、健康寿命がNo.1になった大分県。温泉などのウェルビーイング要素や水源豊かな土地の利から生まれる食の豊さ。そこに心のつながりが生まれればきっと九州だけでなくアジアへも魅力発信に繋がっていくだろう。大の葬祭はその日を目指して、今日も想いの体現へと歩みを進める。
大の葬祭グループ 代表 川野 晃裕
1982年大分県豊後大野市生まれ。帝京大学卒業後、日新火災海上保険勤務を経て、大の葬祭へ入社。2010年、自らの申し出により27歳で3代目として代表取締役社長に就任。4人の男兄弟の長男であり、現在では経営に全ての兄弟が携わっている。2022年4月、社長業は四男に引き継ぎ、自らは代表として大の葬祭グループを取りまとめる。
(取材・TEXT・PHOTO:フルカワカイ 企画・編集:野島光太郎)
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