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データのじかん週報では、データのじかんの編集部内で会話されるこばなしを週1度程度、速報的にお届けいたします。
大川:茨城県のベンチャー支援政策のピッチイベント「ライフサイエンススタートアップ Demo Day Pitch」に参加しました。ライフサイエンスといえば、創薬・医療・ヘルスケアなどの領域ですから、つくば研究センターや製薬会社といった官民の研究機関が軒を連ねる茨城県らしい切り口ですね。ただ、意外と他のピッチイベントとも同じような話題が挙がることも多かったですよ。
野島:というと?
大川:「専門家同士の専門用語を使った会話は甘え」という話題は前回お話した産総研と同じでしたね。やはり技術者や理系ならではのジレンマというか、場所や組織が変わっても顕在化しやすい課題だと思います。面白かったのは「良心の呵責」から、つい専門用語を使って細かく説明してしまい、結果的に分かりにくくなってしまうというあるということです。一方、この話題に関しては新たな視点もありましたね。それは「尖った会話から生まれたコミュニティには、独特で高い熱量がある」ということです。
野島:確か、前回は文系の人材に「翻訳」を任せるなど、なるべく平易な言葉で発信する方法などが示されていましたよね。そのような情報で集まったコミュニティとは別、ということでしょうか?
大川:その通りです。実際、今回のピッチイベントに参加している研究機関や製薬会社は専門家であり、かつ英語も飛び交う現場ですからかなり「特殊なコミュニティ」ですよね。というのも、製薬業界のメッカは今も昔もアメリカのボストンなので必然的に日本以外で戦うことが前提なのです。彼らの発言を少し穿って捉えると、ライフサイエンス分野で世界と戦うには一般的なメディアで発信された情報で集まった人とは、異なる人材が必要ということではないでしょうか。実際、同イベントでは「グローバルな研究者に向けた発信も必要」と明言されていましたから。そのための「フィルター」が専門用語になりえるのだと思います。
野島:なるほど。以前、エフェクチュエーションのワークショップと共通する点があると感じました。そのワークショップは、最初に企画を考えて後から「インパクト(地殻変動)があったときにどうピボットするのか」というテーマのユニークな内容でした。インパクトとは「日本がなくなったケース」です。このとき、参加者の多くが日本でビジネスを興すのを前提していたため、かなり面食らっていましたね。当時はバイアスとオポチュニティの背反関係を感じましたが、今となってはそのテーマが、ある意味「フィルタリング」になっているのがよく分かります。
大川:そうですね。ただ、グローバルばかりを意識するのであれば「なぜ茨城県に拠点を置く必要があるのか」という考えが生まれて当然ではないでしょうか。この点においては支援機関の関与が必要なのかもしれません。情報発信や支援の仕方などにおいて「二律背反」は、大きな共通のテーマなのかもしれないですね。
野島:グローバルで戦うことになるのは、なにもライフサイエンス領域だけではないですよね。もしかしたら、私たちを含めた多くの人たちが「専門用語によるフィルタリング」をする側に回るかもしれないです。
大川:そうですね。私の個人的な考えでは文化の共有性が低い「ローコンテクスト」な産業は、遅かれ早かれグローバルになると考えています。工学的にアプローチできるモノであれば尚更です。だからこそ、日本人は早いこと製造業やロボット産業における「ジャパンアズナンバーワン」から脱却しなければならないと思っていますよ。最近話題になっている「自動運転レベル4解禁」の件でも、その思いはさらに強まりましたね。
【お知らせ】
— 産業技術総合研究所(産総研) (@AIST_JP) March 31, 2023
遠隔監視のみのレベル4の自動運転車両に対する国内初の認可を取得https://t.co/uqqIyLAW89 pic.twitter.com/30k7GHVrZM
野島:確かに大きな一歩だとは思いますが、技術的にはレベル3とあまり変わらないという見方もありますよね。実際、許可が降りたのは「電磁誘導線上を追従しながら時速12kmで走行」という条件ですから。中国の深センなどと比べると、まだまだ道半ばというか。ネゴシエーションの違いを感じます。
大川:保守的とも言われるアメリカ西海岸ですら、サンフランシスコ市のサンセット地区では公道を自動運転車が走っていますからね。もちろん、試験運転の拠点の一つという位置づけですが。ただ、運用ノウハウや危険認知の仕方は絶対に、失敗しなければ向上しません。日本のおっかなびっくりの取り組みでは、自動運転というローコンテクストな分野における技術開発は不利になってしまいますよね。特にロボット産業はもう「ジャパンアズナンバーワン」ではないのですから。
野島:「ジャパンアズナンバーワン」を捨てる。というのは、今の日本における幅広い産業に通じるのかもしれないですね。
大川:そうですね。ただ、別にマイナスな意味として捉える必要はなくて、オワコンと認めるからこそ「スタート」に立てるのだと私は考えています。終わっていると薄々感じているにも関わらず、しがみついている方が大問題じゃないですか。
野島:向き合うからこそ「何をやれるか」を考えられるということですね。確かに、JR東日本のsuicaの時代を経た社会実装の成功事例もありますし。
大川:実際、昨今はオワコン化が著しいと認識されているテレビ局に敢えて飛び込む新入社員たちは、コンテンツづくりに対する姿勢が異なると聞きます。それに日本は今はトップを走っていないとしても、多くの産業が成熟して「基礎」が出来上がっているからこそ、不利を生かした独自の視点やアイデアで勝負して十分に世界と戦うことができます。その例が素材やマテリアル分野ですね。特殊性が強く、ニッチな分野であれば強力なプレイヤーが多い。さらに行政なども「日本で作ったものを国内標準化し世界に打ち出す」という姿勢が強く、JISやISOといったモノで勝負している人たちの行動は意外と早いんですよ。
野島:デジタルが遅れていることも「チャンスに変えられる」ということですね。ロボットの構造一つとっても、日本人がつくるとどこか可愛らしいというか、そんな独特な傾向がありますし。意外とそんな着眼点が必要なのかもしれません。
大川:世界が超巨大なプラントを建てるなら、日本は試験管で価値を生み出して勝負する。そんな世界と戦い続けている人たちから、学べることがたくさんあると思います。
データのじかん編集長 野島 光太郎(のじま・こうたろう)
広告代理店にて高級宝飾ブランド/腕時計メーカー/カルチャー雑誌などのデザイン・アートディレクション・マーケティングを担当。その後、一部上場企業/外資系IT企業での事業開発を経て現職。静岡県浜松市生まれ、名古屋大学経済学部卒業。
データのじかん主筆 大川 真史(おおかわ・まさし)
IT企業を経て三菱総合研究所に約12年在籍し2018年から現職。専門はデジタル化による産業・企業構造転換、製造業のデジタルサービス事業、中小企業のデジタル化。(一社)エッジプラットフォームコンソーシアム理事、東京商工会議所学識委員兼専門家WG座長、内閣府SIP My-IoT PF、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会 中堅中小AG、明治大学サービス創新研究所客員研究員、イノベーション・ラボラトリ(i.lab)、リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMAを兼務。官公庁・自治体・経済団体等での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。直近の出版物は「アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド」(大川真史編、技術評論社)
データのじかん編集 藤冨 啓之(ふじとみ・ひろゆき)
経済週刊誌の編集記者として活動後、Webコンテンツのディレクターに転身。2020年に独立してWEBコンテンツ制作会社、もっとグッドを設立。ライター集団「ライティングパートナーズ」の主宰も務める。BtoB分野を中心にオウンドメディアのSEO、取材、ブランディングまであらゆるコンテンツ制作を行うほか、ビジネス・社会分野のライターとしても活動中。データのじかんでは編集・ライターとして企画立案から取材まで担う。1990年生まれ、広島県出身。
(TEXT・編集:藤冨啓之)
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