コロナ禍でペットが増えたイメージを持っている方も多いかもしれません。ただ、厚生労働省によると、実は犬の登録数は2010年3月末の688万頭をピークに減少し続けており、2022年3月末には約610万頭になりました。それに対して増えているのが猫の飼育数です。ペットフード協会によると、2024年の猫の飼育頭数は前年から8.6万頭も増加し約915万頭になったとされています。
犬の飼育数は減っているものの、興味深いのは飼育経費の支出は増えている点です。同じくペットフード協会によると、2019年における犬1頭の飼育者の毎月支出平均は11,562円だったのが、2024年には15,270円に増加しています。特に「中型+大型の支出用ドッグフード」の毎月の支出は2019年に3,897円だったのが、2024年には5,617円にまで増えました。
2024年3月、アイペット損害保険株式会社が犬・猫飼育者1,000名を対象に2実施した調査によると、2023年のペット関連支出が増えたと感じた人は約4割で、2022年と比較して10ポイント以上増加しました。そして、その理由を尋ねたところ、「医療費などのペットの病気に関連した支出が増えたため」と回答した犬飼育者は56.8%、猫飼育者は38.7%でした。
それにも関わらず、ペット関連支出について「必要な医療費であれば増加してもよい」と回答した人は28.6%、「ペットの健康を維持・増進するためであれば増加してもよい」と回答した人は26.9%でした。
犬の飼育数が減少しているにもかかわらず、1頭あたりの支出が増えているのは物価高も関係しているかもしれません。私は、それよりも犬が単なる「ペット」にとどまらず、「家族の一員」に近い存在になりつつあることが大きな理由なのではないかと考えています。事実、「食費」や「医療費」が増えても、それをやむなしと考える飼い主が増えていることからもそのことが伺えます。
ペットの「家族化」をさらに裏付けているのは、犬・猫飼育者に対して「生活にもっとも喜びを与えてくれること」をテーマに、一般財団法人 ペットフード協会が調査した結果です。犬の飼育者にとって「もっとも喜びを与えてくれる」のは「家族」と回答した人は32.3%で、「ペット」と回答した人の27.5%をわずかに上回りましたが、猫飼育者に「もっとも喜びを与える」のは「ペット」と回答した人は28.6%であり、「家族」と答えた26.4%を上回りました。
ペットの役割が変化していることは、このシリーズのテーマである「孤独・孤立」の問題とも密接な関係があります。
前出のペットフード協会の調査によると、「ペット飼育の効能」として、犬飼育者の39.4%、猫飼育者の41.9%が「毎日の生活が楽しくなった」と回答し、犬飼育者の34.4%、猫飼育者の39.5%が「心穏やかに過ごせる日が増えた」と答えました。また、「気持ちが明るくなった」と回答した犬飼育者は32%、猫飼育者は31.5%に上りました。
また、麻布大学獣医学部教授の菊水健史さんによると、ストレスがある人が犬と過ごす場合と過ごさない場合を比べると、犬といるほうがストレスホルモンが減るそうです。犬とコミュニケーションするときに「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンが分泌され、それが愛情や安心感、結果的にウェルビーイングの向上にもつながるとのことです。ペット、特に犬と過ごすことは、「望まない」孤独・孤立を解決する一助になるというわけです。
しかし、ペットが「孤独・孤立」問題に与えるインパクトはそれだけではありません。
犬を飼っている方なら誰しも経験があると思いますが、散歩させるときに頻繁に別の犬と会うことで飼い主とも知り合う機会が創出されます。犬を連れていなければ、あいさつ程度で終わってしまうのに、犬が「ハブ役」になってくれることで、飼い主同士がコミュニティのメンバーとしてつながれるのです。
ペットがコミュニティのハブ役になることで、孤独・孤立から生まれる弊害を解決することも期待できるかもしれません。例えば、2023年に東京都健康長寿医療センターの研究グループが65歳以上の1万人以上を対象に行った調査によると、犬を飼っている高齢者は飼っていない人と比べて認知症の発症リスクが4割低かったことが分かりました。その理由については、同研究グループは、犬を散歩させることで運動の機会が増えることに加え、社会的な交流の機会を増やすことにもつながっているかもしれないと指摘しています。
孤独・孤立問題の対策として私たちがすぐ思いつくのは、「人」とのつながりであり、政府の「孤独・孤立対策」でもその視点が前提になっています。しかし、重要なのは孤独・孤立の解消であり、「人とつながること」ありきではないはずです。逆に人とつながることだけに選択肢を狭めることで、一定数の人たちはかえって孤独・孤立を強めてしまうこともあるのではないでしょうか。
先回紹介したロボット、今回取り上げたペットなど、「人とのつながり」ではない別の方法が「孤独・孤立対策」の突破口になり、結果的に孤独・孤立を感じている人が自然な形でコミュニティに誘われる選択肢もありなのかもしれません。
著者・図版:河合良成
2008年より中国に渡航、10年にわたり大学などで教鞭を取り、中国文化や市況への造詣が深い。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。現在は福岡在住、主に翻訳者、ライターとして活動中。
(TEXT:河合良成 編集:藤冨啓之)
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