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交通アクセスから読み解く、大学の「都心回帰」が進むワケ。

         

関西学院大学を運営する学校法人関西学院は神戸市が計画する王子公園の再整備事業に関して、神戸市に対して大学設置に応募したことを発表した。もし実現するとなれば関西でも大学の「都心回帰」が進むことになる。交通アクセスの面から大学の動きを解説していきたい。

関西学院大学が神戸に移る?

 

王子公園は神戸市灘区にあり、王子動物園や王子スタジアムがあり、市民の憩いの場となっている。神戸市は昨年12月に王子スタジアムを移転し、跡地に大学を誘致する基本方針を策定した。

今年の3月、4月に公募を行い、最終的に事業実施計画書を提出したのは関西学院のみだった。今後、学識者らで構成される選考委員会で審査され、順調に進めば2026年度末に土地が関西学院に引き渡される予定だ。

大学エリアは約3.5ヘクタールということで、関西学院大学(関学)の全学部が王子公園に移転することは考えにくい。既存の学部の一部、もしくは学部の新設が考えられる。 

関学の主なキャンパスはメインキャンパスの西宮上ケ原キャンパス、西宮聖和キャンパス、神戸三田キャンパスがある。このうち、西宮上ケ原キャンパス、西宮聖和キャンパスは大阪梅田から阪急を使って30分台でアクセスできる。

一方、大阪梅田から神戸三田キャンパスへはノンストップバス「関学エクスプレス」に乗車しても約1時間を要する。神戸三宮からも約50分を要する。これらの所要時間を鑑みると、キャンパス名に「神戸」とあるが、都心からずいぶん離れていることがわかる。

神戸三田キャンパスは総合政策学部の他に理学部、工学部、生命環境学部、建築学部を有する。もともと1995年に総合政策学部の設置に伴い、キャンパスが開設された。当初の計画では神戸電鉄がウッディタウン中央駅からキャンパス近くまで延伸する予定だったが、実現されずに今日に至る。

関西学院大学総合政策学部のパンフレットによると、同学部に通う自宅生(1年生)の約4割が大学まで2時間以上もかけて通学している。日本学生支援機構によると、自宅から大学までの所要時間において、自宅生で最も多いのが31~60分である。121分以上は5.7%にとどまる。

このようなデータを見ると神戸三田キャンパスに通う自宅生は他大学の学生と比較すると、多大な時間を通学に費やしていることがわかる。

阪急大阪梅田駅から王子公園の最寄駅である王子公園駅までの所要時間は約30分だ。王子公園駅から大学エリアとなる王子キャンパスまでは徒歩すぐである。神戸三田キャンパスと比較すると、格段にアクセスが改善される。2021年に理系4学部が設置されたことを鑑みると、「総合政策学部が王子公園に移転してもおかしくない」と筆者は予想するが、実際のところはどうなのだろうか。

大学の都心回帰が進む背景 

ここまで読むと「なにも無理せずにキャンパスを郊外に移さなくても良かったのでは」と思うかもしれない。関学に限らず、2000年以前に行われた郊外へのキャンパス移転にはやむを得ない事情があったのだ。

それが1959年に施行された工場等制限法である。この法律は高度経済成長により進んだ都市過密を防ぐために制定された。対象エリアは東京23区、武蔵野市、三鷹市、横浜市、京阪神エリアの中心地などに設定され、1500㎡以上の床面積を持つ大学の教室が制限対象となり、キャンパスの拡張が難しくなった。そのため、総合大学はこぞって郊外にキャンパスを設置、移転したのである。

転機となったのは2002年のことだ。小泉政権により工場等制限法が廃止となり、大学は都心にキャンパスを設置、移転することができるようになった。

関東では以前からキャンパスの都心回帰が進んでいる。2013年には青山学院大学が相模原キャンパスにあった文系学部を青山キャンパスに移した。2017年には小平にメインキャンパスを持つ津田塾大学が千駄ヶ谷キャンパスを開設。キャンパスには新学部となる総合政策学部を設置した。

直近では今年4月に東京メトロ丸ノ内線茗荷谷駅近くに中央大学茗荷谷キャンパスがオープン。多摩キャンパスから法学部、大学院法学研究科が引っ越した。。

同時に法務研究科(ロースクール)・戦略経営研究科(ビジネススクール)を新たにオープンした駿河台キャンパスに移した。駿河台キャンパス、茗荷谷キャンパスともに東京メトロ丸ノ内線沿線にある。多摩キャンパスと比較すると、格段にアクセスは改善された。アクセスの改善が司法試験合格者数の増加に寄与するのだろうか、注目される。

注目が集める大阪公立大学の動き

 

話を関西に戻そう。大学の都心回帰に関して言えば、関西は関東よりも遅れをとっている感があるが、それでも確実に進んでいる。

今後注目されるのは大阪府立大学と大阪市立大学が合併した新大学、大阪公立大学の動きだ。現在、大阪公立大学は大阪都心に位置する森之宮へのキャンパスの設置工事が進んでいる。当初の予定では2025年4月開設であったが、工事現場から文化財や不発弾が発見され、2025年後期までずれ込む見通しとなった。

森之宮キャンパスには地上13階建てのビル校舎が建ち、全学の基幹教育、文学部などが入る予定だ。

森之宮キャンパスの魅力は何といっても交通アクセスの良さにある。最寄駅はJR大阪環状線・大阪メトロ中央線森ノ宮駅だ。この森ノ宮駅の位置が絶妙で、大手私鉄との接続駅(大阪、京橋、鶴橋、天王寺、新今宮)から15分以内でアクセス可能だ。つまり、大阪府内だけではなく、神戸や京都からのアクセスも容易になることを意味する。

たとえば、三ノ宮駅から大阪公立大学杉本キャンパスの最寄駅である杉本町駅へは1時間以上を要する。森ノ宮駅であれば約30分も短縮される。

大阪公立大学森之宮キャンパスと鉄道の関係から見ると、大阪メトロが発表した2028年設置予定の中央線「大阪公立大学駅(仮称)」は注目に値する。大学直結となれば大阪市内にある企業へも気軽にアクセスできる。

大阪公立大学森之宮キャンパスの開設により、危機感を抱くのは郊外型キャンパスだけでなく、阪神間にあるメインキャンパスも例外ではない。京都とは異なり、大阪からも神戸からもほどほどの距離にあるだけに、大阪公立大学への流出は考えられる。

特に最寄駅からバス、もしくは軽めの登山が必要な神戸大学六甲台キャンパス、関西学院大学西宮上ケ原キャンパスの影響に注目したいところではある。一連の大阪公立大学の動きを勘案すると、今回の関学による王子公園再整備への応募に対する見方もずいぶんと変わる。

参考までにリクルート進学総研が行った関西の高校生が選ぶ「志望したい大学ランキング」2022年版において大阪公立大学は神戸大学や関西学院大学などを抑えて3位にランクインした。森之宮キャンパス開設の暁には1位になっても全くおかしくない。

このように、少子高齢化やリカレント教育の充実など、様々な思惑により、大学の都心回帰が進んでいる。大学によっては都心に複数の拠点を設け、「都心展開」を目指すところもあるだろう。

都心回帰の動きが進めば、私鉄の沿線開発により登場したメインキャンパスはどうなるのだろうか。交通と大学との関係も大きく動くかもしれない。


書き手:新田浩之氏
2016年より個人事業主としてライター活動に従事。主に関西の鉄道、中東欧・ロシアについて執筆活動を行う。著書に『関西の私鉄格差』(河出書房新社)がある。


(TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之)

 
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