特集「CIOの履歴書」 社会課題への貢献を軸にしたキャリア形成(後編) 参天製薬株式会社 原実氏 | データで越境者に寄り添うメディア データのじかん
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特集「CIOの履歴書」 社会課題への貢献を軸にしたキャリア形成(後編) 参天製薬株式会社 原実氏

当協議会では「CIOの履歴書」と題し、CIOとして活躍されている方々の「CIOに至るまでのキャリア」、「CIOの後のキャリア」について迫りCIOのキャリアについて考察するとともに、読者の皆様に「CIOの魅力」をお伝えできればと考えています。 第9弾となる今回は、数々の国際機関を経て参天製薬株式会社CIOに就任された原さんのお話をご紹介します。 キャリアの軸にグローバルな社会課題への貢献を置かれている原さんのこれまでのキャリアやCIOに至った経緯、また、CIOというポジションの魅力についてお話しいただいています。

         

IT部門のグローバル化について

── IT部門の拠点グローバル化の構想は、どのようなタイミングで始まったのでしょうか?

原氏: 前任のCIOがかなりグローバル化を進化させていました。

その形態は、日本にCIOとIT幹部層がほぼ全員いて、グローバルの各拠点にIT部門の延長の組織があり、各拠点を日本から統括して回していく日本企業の標準的なグローバル化の形態で、これまでの当社のITにおいては最適解だったと思います。しかし、次期長期ビジョンに合わせた戦略を展開していくためには、その延長には限界があると感じました。

グローバル市場には非常に多様な人材があちこちにいて、さらにその人たちが活用するITベンダーやパートナー企業が世界中に点在しているわけですが、それをフルに活用できていないなと。当然ですが、百何十か国もあるグローバル市場の中の日本という国だけで人材市場を見て、その周辺にいる会社だけを提携先として見ていると、ケイパビリティの選択のパイは小さいわけです。そうではなくて、グローバル全体で見たときに様々なスキルなど組織の力を高めるための機会を飛躍的に活用できるようにしたいと思ったときに、少なくともデジタル&IT本部における本社機能を日本に閉じ込めておく必要はないと考えたところから構想はスタートしました。

組織の能力を高めるために必要なポジションは参天製薬の拠点のある所ならばどこでもいいので、最適なリソースが得られるところでポジションをうまく作って、国をまたがってバーチャルに幹部チームを構築し、そのバーチャルでグローバルに分散した幹部チームを基に組織を回していこうというコンセプトを、私の体制になってから考えて最初の一年間でその形に移行しました。

── 本部という場所がないイメージなのか、もしくは原さんがいる拠点が本部というイメージなのでしょうか?

原氏: 本部というコンセプトが地理的な場所に紐づいていないイメージです。

デジタル&IT本部という組織は私の配下にいる全世界のメンバーをひっくるめた組織の総称で、その拠点がどこかというとたまたまCDIOはスイスにいますがCDIOの配下のリーダーシップチームは何か国かに点在しています、という形です。

── IT部門の拠点グローバル化はどのような思いがあって取り組まれたのでしょうか?

原氏: 以前働いていた国際機関は究極的な多国籍組織でした。

世界中のいたるところから職員が入ってきて、それがアメリカの拠点だろうとオーストリアの拠点だろうと、アメリカにいたらアメリカ人ばかり、オーストリアにいたらオーストリア人ばかりではなく、拠点の場所に関わらず本当に色々な場所から来た人で構成されています。そのような多様性の力にはものすごいポテンシャルがあって、参天製薬も新しい時代に入っていく中で少なくとも自部門の中ではこのコンセプトの良い部分を再現したいと思い、新しい組織作りに取り入れました。もちろんバックグラウンドが違うので意思疎通などで非効率なこともあるもののそれを最初から前提に働けばいいと思っています。

坂本氏: テレワークの弊害として、必要な会話はできてもちょっとしたアイディア出しの会話がしにくいという話を耳にしますが、国が違うと気軽に集まることは難しいと思います。多様性のあるメンバーを集めるという大きなメリットに比べれば課題は小さなものでしょうか?

原氏: そうですね。新型コロナの流行で同じ拠点にいたメンバーもすごく長い間会えませんでした。

Santenは大阪に本社があり、大阪勤務の人たちは物理的には近くに住んではいても、コロナ禍に入ってから相当な期間、実際に何十人も集まって仕事をしたタイミングはほとんどありませんでした。ということは同じ市内の数キロ先で働いている同僚も、時差をまたがってヨーロッパ大陸やアメリカ大陸にいる同僚も、時差の違いさえ克服すればその距離が1キロ先でも何千キロ先でも同じはずだと。物理的に分散した状況の中でもチームの力を寄せ集めて発揮しなければいけない中で、同じ大阪でもどうせ集まれないのであれば、そこに今まで大阪にはいなかったスキルも混ぜればチームとしての力が上がるはず、という思い切った発想は、当然コロナが後押ししてくれた部分もあります。

新しい働き方も根付いてきていて、まるっきりコロナ前の形に戻ることは会社としても目指していませんので、新しい働き方の中で一番いい形で組織のパフォーマンスが上がる形態を模索しながら、ちょっとしたコミュニケーションを取れないという問題をいかに克服していくかを工夫しながら組織作りをしている最中です。私の組織で取り組んでいることは、組織づくりの壮大なる実験だと思っています。

国際機関と民間企業、海外と日本におけるCIOの違い

── 海外における国際機関、日本の民間企業等様々な環境で働く中でCIOの役割について違いを感じられることなどはありますか?

原氏: CIOの違いの前に、国連職員と民間社員のマインドセットの違いがあります。

例えば、国連職員には、SDGsに代表されるような社会課題を解決するために組織が存在し、その中の一員として自分の役割があると意識している人が比較的多くいます。ITのメンバーも同様です。戦略を設定して活動を実施していく、そのリーダーとしてのCIOがいます。

特に日本の民間企業では、自分自身の短期的な業務目標を意識して仕事をする、あるいは会社の財務的な目標のみを意識して仕事をしていて、自分が所属する会社がその先にある社会や社会課題のために果たす役割に思いを馳せないものの、勤勉に働いている人をたくさん見かけた気がします。今現在は、少し前のCSRのムーブメントの枠に留まらず、よりESG等の取り組みを本格化している組織が増えており、社会に貢献する会社でないとなかなか企業価値が正当に評価されない時代になってきています。その中で民間企業も変わりつつあり、最近は国連も民間も違いがない形でCIOとしての役割が認識されつつあるなと思うところです。

日本のCIOは、CIOという肩書がついていても、IT部門の一番偉い人がCIOという呼称がついているという組織を見かけることがありますが、本来的にはCIOとはそうではなくて、CEOと並び立つ経営の幹部であるCスイートの一人であるべきです。全社のIT、デジタルを使ってどう会社組織を前に動かしていくかに責任を持つ人が、CIOであるべきと思っています。

CIOの面白さ

原氏: 民間企業でも公的機関でも同じだと思いますが、CIO、あるいは、IT部門の面白さは、組織のありとあらゆる活動と横断的につながっているところであると思っています。また、デジタルやITが組織のアウトプットに貢献できるポテンシャルが非常に大きいという部分も魅力的です。

それを統括する、あるいは、そのアジェンダに対して経営の一部としての責任を持つCIOというのは、非常にやりがいがあるポジションであると思います。

今後のキャリアについて

── 今後のキャリアについてのお考えをお聞かせください。

原氏: 社会人としてのキャリアを開始した頃から、グローバルな視点で社会課題を解決できるプログラムの一員になりたいということはぶれていません。

それが実現できる組織や仕組みの中で自分が一番貢献できる役割であれば、実は私自身としてはCIOでなくても、ほかの職種でも構わないと思っています。もちろん本当に貢献できるのであればですが。ただ、今おそらく自分にとって一番得意で、実力を一番発揮できる役割がたまたまCIOなので、そこに自然に魅力を感じているのだと思います。

今CIOをやっていて今後のキャリアは何かと考えたときに、私は次世代CIOのコンセプトを先取りし、CIOの役割の変革のなるべく先頭集団に近いところに位置付けたいと思っています。

自身のキャリア志向を自分なりの工夫で進めていく中で、自分の役割自身を変革し続け、それが世の中から求められる新しい組織の在り方であるかどうかや、CIOという役割が進化していく先の存在に近づけているかを問い続けたいなと考えています。それが私の今後のキャリアの考え方です。

── キャリア設計においてお手本にしているまたは目標にしている方はいらっしゃいますか?

原氏: 国際機関の中に何人かロールモデルの方がいます。

その中の一人は、人道援助系の国際機関のCIOを数年間されていました。彼が当時CIOだった頃、私もCIO仲間として何度か会合でご一緒させていただいたことがありますが、その彼が少し前にCIOから別のポジションに移ったということを知りました。

驚いたのは、IT組織から離れ、その国際機関が本業としている人道援助のオペレーションをリードするポジションに移ったことで、とても勇気のいる転身だと思います。先日、ウクライナ情勢の中で、フィールドで活躍している彼を国際ニュースで拝見し、大変頼もしく見えました。

そういう決断ができる人は、IT部門在籍時も常に自分の所属する組織が社会課題に対して本当に貢献するためにはどうすべきかを考えているのだろうと想像します。この方が人道援助のポジションに飛び込んでいけたということは、その以前からそういうマインドセットでCIOの仕事をしていたということだと思います。

そういう方々を心から尊敬していて、ロールモデルにしています。

CIOを目指す方へのメッセージ

── 今後のキャリアについてのお考えをお聞かせください。

原氏: CIOというポジションはIT部門を長年勤めあげて徐々に昇進していった先にあるすごろくの上がりポジションでは決してありません。

CIOは経営陣の一員であり、CEO等の幹部に並び立って組織の変革、社会価値の最大化等に同じように責任を持つポジションです。

そのポテンシャルは無限大だと思っています。自分自身の手を動かして技術的なことをやるロールからは遠ざかってしまうことに不安や寂しさを感じる方もいるかもしれません。

しかし、この責任範囲の大きさに見合う無限大のポテンシャルに興味を感じてもらえる人であれば、これまでIT部門の一員であったかどうかに関わらず、いつの日かCIOというポジションに就く素養があるんだろうと思います。そういう方にはぜひチャレンジしてもらいたいですし、応援したいと思います。

──前編中編はこちら


お話を伺ったCIO:原 実氏のプロフィール

原 実(はら みのり)氏
参天製薬株式会社 執行役員 チーフ デジタル&インフォメーション オフィサー(CDIO)

上智大学大学院工学修士(1994年)、イタリアSDAボッコーニ大学国際機関経営学エグゼクティブ修士号(2016年)。1994年よりNECにて製品開発や海外OEM展開を担当。1999年に国連職員に転身し、20年間で6か国の国連機関のIT職を歴任。国際電気通信連合(ITU)(インドおよびスイス)、国連本部(米国)、国連ボランティア計画(ドイツ)、国際原子力機関(IAEA)(オーストリア)の各機関にて、ITサービス、インフラ、セキュリティ戦略などを担当。2012年、国際労働機関(ILO)国際研修センター(イタリア)にて、CIOとして経営幹部会に参画。2017年、国連食糧農業機関(FAO)(イタリア)にてCIO代理としてIT・デジタル中期戦略を推進。2018年、参天製薬入社。2020年より執行役員 チーフ デジタル&インフォメーション オフィサーとして、グローバルデジタル&IT本部を統括。


聞き手:坂本俊輔
CIOシェアリング協議会 副代表理事、GPTech 代表取締役社長、元政府CIO補佐官

大手SIerでの業務従事ののち、ITコンサルティングファームの役員を経て、2010年にCIOアウトソーシングを提供する株式会社グローバル・パートナーズ・テクノロジーを設立。以降、一貫してユーザ企業のIT体制強化の活動に従事している。2017年からは政府CIO補佐官を兼業で務めた他、IT政策担当大臣補佐官や株式会社カーチスホールディングスのCIOなども務めた。

 
 

本記事は「一般社団法人CIOシェアリング協議会」に掲載された「CIOの履歴書」のコンテンツを許可を得て掲載しています。(インタビュー実施日 2021年5月7日)

 
 
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