特集「CIOの履歴書」 社会課題への貢献を軸にしたキャリア形成(前編) 参天製薬株式会社 原実氏 | データで越境者に寄り添うメディア データのじかん
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特集「CIOの履歴書」 社会課題への貢献を軸にしたキャリア形成(前編) 参天製薬株式会社 原実氏

当協議会では「CIOの履歴書」と題し、CIOとして活躍されている方々の「CIOに至るまでのキャリア」、「CIOの後のキャリア」について迫りCIOのキャリアについて考察するとともに、読者の皆様に「CIOの魅力」をお伝えできればと考えています。 第9弾となる今回は、数々の国際機関を経て参天製薬株式会社CIOに就任された原さんのお話をご紹介します。 キャリアの軸にグローバルな社会課題への貢献を置かれている原さんのこれまでのキャリアやCIOに至った経緯、また、CIOというポジションの魅力についてお話しいただいています。

         

CIOに至るまでのキャリアについて

── ファーストキャリアはNECだと伺っていますが、NECに就職された際はどのようなお考えだったのでしょうか?

原氏: 私がキャリア形成においてこだわっているポイント、キャリアの出発点は、「食糧問題、貧困、公衆衛生、環境問題等たくさんあるグローバルな社会課題に対して、積極的に貢献できる仕事がしたい」ということで、若いころから一貫しています。

学生時代から考えていたものの、それが国連のような国際機関なのか、NGOなのか、JICAなのか、あるいは開発に関わっている民間企業なのか、色々な形がありましたが、何らかの形で身を投げ出してどっぷり入り、手を動かして貢献したいと漠然と思っていました。

NECという会社には元々興味を持っていて、自分のイメージにはしっくりくる会社でした。私の学生時代はインターネットの初期の時代で、海外とのインターネットを通じたやり取りも徐々にできるようになっていました。その通信技術によって途上国の社会開発に貢献できる仕事を夢見ていました。

また、元々工学系でコンピューターサイエンスを勉強してきたことが活かせるのではないかと思っていたことと、入社したらすぐに海外駐在に行かせてもらいたかったので海外事業比率が高いという点でも魅力的でした。

実際にNECに入社直後から様々な海外向けOEM製品のプロジェクトに次々と参画して頻繁に海外出張に行かせてもらっていました。NECでの業務に取り組む最中も、グローバルな社会課題に直接貢献できる仕事に早くたどり着きたいという思いが強くなり、国連で働くという選択肢があることを知り、チャレンジしようと応募しました。

── 以前からグローバルな働き方をイメージされていたのですね。

原氏: はい。とはいえ、電子工学を専攻し、メーカーで技術系の製品開発やOEM戦略をやってきた私が、急に途上国の農村地域に行って貧困対策のプログラムを開発できるかというとそうではないので、それなりに連続性を持った形で、国際機関で活躍するためにはどうすればよいか考えていました。

その中でNECと非常につながりのある技術の標準化をやりながら社会開発に科学技術の発展から貢献することを志向している国際電気通信連合(以下、ITU)という国連の専門機関があることを知り、外務省のプログラムを通じて赴任しました。

最初の勤務地はインドで、インドの通信省向けの高速ネットワーク技術の移転プロジェクトに参画しました。国際標準化されている通信技術を使って途上国の通信環境を改善するプロジェクトに入り、国際機関の仕事の醍醐味を実感しました。その後、ITUのジュネーブ本部に移り、引き続き約20年間様々な国際機関で働いてきましたが、一貫してIT部門での仕事に従事してきました。

IT部門は管理部門なので、国際機関が各分野、フィールドで取り組んでいるプログラムを直接実施する業務ではないものの、自分たちが組織の一員として努力していることが、実は国際的に合意されたゴールにつながっている実感を常に持ちながら仕事ができていました。

ITUから始まってニューヨークの国連本部に移った際には、外務省から派遣されていたプログラムからは切り離され、正規職員となりました。

ニューヨークの国連本部で働いている当時は、自分が働いているすぐ下のフロアで安全保障理事会や国連総会が開かれ、加盟国間のシリアスな外交の論戦が繰り広げられていました。国連のウェブサイト等での外交情報の配信のプラットフォームなどをサポートしていたので、階下で起こっている国際外交と自分が行っている仕事が完全に繋がっていることを実感しながら仕事をしていました。国際情勢の緊張感の高まった時など、重要な制裁決議が出た際には、自分が管理しているプラットフォームのコンテンツに世界中からアクセスされ、グローバルコミュニティのためにも事業継続を担保しなければという緊張感を持ちながらも、国際社会のダイナミズムに自分が関われていると実感を持って業務にあたっていました。

── 初めにCIOになることを意識されたのはどのようなタイミングでしょうか?

原氏: ドイツにある国連ボランティア計画で比較的小さなITインフラ部門のヘッドになりました。当時、自分の上司にあたるITチーフ、今でいうCIOに相当するポジションの人が転出し、空席になりました。その上司に進められてその空席となったCIOの ポジションに応募しましたが、当時の実力では選考に通らず、別の方が選考に通って私の上司になりました。当時新しいCIOの方と比べて自分がいかに未熟かを思い知らされてショックを受けました。

自分自身も、IT部門の技術、プロジェクト、予算、人材・リソースの管理等一通り高いレベルで管轄できるとそれなりに自信を持っていましたが、その方とは圧倒的な差を感じました。その方はITの外のこと、組織全体のビジネス課題を積極的に理解するように努め、組織の中でITが何をすべきかを考えるスケールが私とは全くレベルが違いました。

また、私自身のマインドセットがその方と比較して不充分だった、まだまだ内向きだったところです。あ、なるほどと、競争に負けた理由がよく理解できました。ショックは受けましたが、理由を理解できたことで勉強にもなりました。

その後、2009年ウィーンの国際原子力機関(以下、IAEA)に移って、そこでは主にIT部門の中でも情報セキュリティ、インフラの責任者を担当していたのですが、そこにいる間に大きな転機が起こりました。

東日本大震災による世界的に注目度の高い事故が起こったことで、世界中の原子力当局と直接やりとりをするIAEAは、6か月間24時間体制で稼働する危機管理モードの状況となりました。その中でITの果たすべき役割の大きさを肌感覚で実感しました。前例のない組織のビジネスプロセスを実現するため、素早い決断をして、ITのリソースを最適化しながら短期間で課題を解決していく必要がありましたが、ここぞというときの一番の違いは、決断力、危機管理能力、リーダーシップ等の要素で、たった1人のリーダーの能力がたくさんのITメンバーのポテンシャルを最大化できるのかそれとも無駄にするのかを左右する非常に重要なポジションだと実感しました。

また、その危機に直面する前にいかに日頃から組織能力を高めていたか、あるいはビジネスに根差してITの戦略をいかに着実に実行していたかの積み重ねが、危機を目の当たりにした際の実行力に効いてくることも実感しました。

東日本大震災のとき、私は日本にいませんでしたが、原子力問題を扱う国際機関のど真ん中からこの事故を見て、非常に貴重な経験をしました。それなりの役職で責任を持ってリソースを動かし、成果が出すことができました。

CIOの役割はまさにこういうことの連続なのかなあと思いました。

── 初めてCIOというポジションに就かれたのはどのようなタイミングですか?

原氏: 2012年に初めてイタリアの国際機関のCIOになりました。CIOになりたいと思い続けてなったというよりは、複数の国際機関のIT部門の中でキャリアを積み重ねる中で「なるほど、CIOはこれだ」と思ったときに偶然CIOになるチャンスが訪れ、イタリアのトリノにある国際労働機関の国際研修センターの比較的小さなIT部門のCIOとして5年ほど働きました。

その後、イタリア国内の異動でローマの国連食糧農業機関(以下、FAO)に移り、CIO代理(デピュティCIO)というポジションに移りました。

FAOは非常に大きな組織で、CIO代理とはいえ前のCIOポジションよりも上のグレードであり、配下に持つリソースや予算、事業規模が大きかったため、良い経験が積めました。

── 国際機関を転々とすることは異動、転籍のイメージなのか、もしくは転職のようなイメージなのかどちらになるのでしょうか?

原氏: 異動、転籍のイメージです。国連機関には専門機関も含めて国連共通人事システムがあります。職務等級、国連年金制度、休暇制度、一時帰国制度、子供の学費補助制度など、すべて共通の人事システムの中で異動できるようになっています。

空席のポジションが出るとそこに応募して、内部候補者、外部候補者含めて選考に通った人が選ばれてそのポジションに就けるという仕組みになっています。それは昇進だけでなく、同レベルのポジションに異動する際も同じです。大抵1つのポジションが空席になり、空席公告が出ると、数百人からの応募があります。

私はそのシステムをうまく利用して、横に動いたり斜め上に動いたりを繰り返し、国際機関を渡り歩きながら少しずつポジションを上げていった感じです。

── 民間企業での異動では指示を受けたから異動というのもありますけど、基本的には本人の意思で転籍していく仕組みなんですね。

原氏: 組織からの異動の辞令が出ることもありますが、私の場合は全て私自身の意思です。

──中編へ続く


お話を伺ったCIO:原 実氏のプロフィール

原 実(はら みのり)氏
参天製薬株式会社 執行役員 チーフ デジタル&インフォメーション オフィサー(CDIO)

上智大学大学院工学修士(1994年)、イタリアSDAボッコーニ大学国際機関経営学エグゼクティブ修士号(2016年)。1994年よりNECにて製品開発や海外OEM展開を担当。1999年に国連職員に転身し、20年間で6か国の国連機関のIT職を歴任。国際電気通信連合(ITU)(インドおよびスイス)、国連本部(米国)、国連ボランティア計画(ドイツ)、国際原子力機関(IAEA)(オーストリア)の各機関にて、ITサービス、インフラ、セキュリティ戦略などを担当。2012年、国際労働機関(ILO)国際研修センター(イタリア)にて、CIOとして経営幹部会に参画。2017年、国連食糧農業機関(FAO)(イタリア)にてCIO代理としてIT・デジタル中期戦略を推進。2018年、参天製薬入社。2020年より執行役員 チーフ デジタル&インフォメーション オフィサーとして、グローバルデジタル&IT本部を統括。


聞き手:坂本俊輔
CIOシェアリング協議会 副代表理事、GPTech 代表取締役社長、元政府CIO補佐官

大手SIerでの業務従事ののち、ITコンサルティングファームの役員を経て、2010年にCIOアウトソーシングを提供する株式会社グローバル・パートナーズ・テクノロジーを設立。以降、一貫してユーザ企業のIT体制強化の活動に従事している。2017年からは政府CIO補佐官を兼業で務めた他、IT政策担当大臣補佐官や株式会社カーチスホールディングスのCIOなども務めた。

 
 

本記事は「一般社団法人CIOシェアリング協議会」に掲載された「CIOの履歴書」のコンテンツを許可を得て掲載しています。(インタビュー実施日 2021年5月7日)

 
 
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