ここまで、データサイエンス人材の採用と育成について語ってきましたが、私はデータサイエンティストだけでは現場業務の改善はできても、経営にインパクトを与えるほどの大きな変革はできると思いません。
滋賀大学での人材育成プロセスが実を結び、質の高いデータサイエンティストがいくら現場にいたところで、ミドル層や経営層がきちんとAIやビックデータのリテラシーを持って変革を率先しなければ、小手先のAI活用しかできない企業になってしまうでしょう。
例えば、タクシー会社がUberみたいな業態に変身する、書店がAmazonみたいな業態に変身する、そういった大きな変革は、データサイエンティストだけではできない。経営層やミドル層でなければできないのです。
今や、AIは景気や為替と同様に「経営環境因子」なんです。景気や為替を見ずに経営判断をする経営者はいないのと同様に、AIの動向についても知っておかなければならない。
では、経営者に求められるAIの素養とはどのようなものなのか?
それがわからないから難しいわけです。
技術について一から十まで知る必要はないけれど、AIを入れたらどうなるか、ということを想像して経営判断をする必要があります。しかし、AIは英語でいうと「unknown unknown」、つまり何がわからないのかわからない因子です。為替や株は何がわからないのか、はわかっている「known unknown」ですから、さらに難しい。そうした何が何だかわからないものを相手に、ビジネスモデルをどう考えていくのかということをしっかり考えてみないといけない。今の時代の経営陣には究極の経営力が求められているのかもしれません。
そうした課題がある一方で、経営層に対してAIリテラシーを教えられる人材ってほとんどいない。もちろん私でもできません。経営者にAIやビックデータについての景色を伝授するという役割は、やはり経営にタッチした人じゃないとわからないんです。会社経営における覚悟とかプレッシャーというのを知らなくてはならない。
そこで、滋賀大データサイエンス学部の学生に、将来的に企業の経営層やミドル層の立場になって変革を率先することも念頭に教育をしています。具体的には、4年間の間に、データサイエンスの素養だけでなく、経営学についても学べるようなカリキュラムを設計しています。
AIやデータサイエンスのリテラシーを持った経営層が、自社の経営にそれらが与える影響を先読みしてビジネスモデルを変革していくようになれば、日本の未来はきっと明るいと信じています。
(取材・記事執筆:大藤ヨシヲ/写真撮影:宮村政徳)
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