様々な領域でビッグデータや人工知能の重要性が叫ばれる昨今、データサイエンティストの不足が喫緊の課題となっている。実際に、マイナビが行なった「AI推進社会におけるキャリア観に関するアンケート」では、学生全体の75.4%が「AI・IT職を志望しない」と回答するなど、データサイエンス領域における著しい人材離れがうかがえる。
一方で、データサイエンティストを採用した現場において、彼らの能力が十全に発揮できているのか、という点についても疑問符が残る。こうした現況において、データサイエンス業界のプロフェッショナルは何を考え、行動しているのか。大阪ガスで長年データサイエンス業務に従事し、昨年4月に滋賀大学のデータサイエンス学部の教授に就任した河本薫氏に「データサイエンティストの育成と活用」について伺った。
河本 薫(カワモト カオル)
滋賀大学データサイエンス学部教授
1991年、京都大学応用システム科学専攻修了。大阪ガスに入社。1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事。帰社後、大阪ガスにてデータ分析による業務改革を推進。2011年からデータ分析組織であるビジネスアナリシスセンターの所長を務め、大阪ガスにおいてデータ分析組織を定着させた。日経情報ストラテジーが選ぶ初代データサイエンス・オブ・ザ・イヤーを受賞。2018年4月より現職。大阪大学招聘教授を兼任。博士(工学、経済学)。著書に『会社を変える分析の力』(講談社現代新書)、『最強のデータ分析組織』(日経BP)など。NHKプロフェッショナル仕事の流儀にも出演。
「データサイエンス」と聞くと「データを分析すること」をイメージされる方がほとんどですが、それはデータサイエンティストの仕事のごく一部でしかありません。登山でいうと3合目くらいです(笑)。
ビジネスにおけるデータサイエンティストの目的は、データドリブンの意思決定プロセスを導入することなんです。そのためには、狭い意味のデータ分析だけでなく、現場の人が勘やこだわりと呼んでいるもの、つまり「暗黙知」の部分を対話を重ねて言語化し「形式知」に変える力も求められます。
また、データサイエンスは、個人プレーではやっていけません。人を巻き込まなくてはいけないんです。チームでやっていくという感覚を持たないとあとあとしんどい思いをすることになる。データサイエンティストは協調性を持ったオールラウンドプレイヤーじゃないと難しいです。
しかし、実際に企業に行ってみると、多くのデータサイエンティストが「データを分析する人」になってしまっている。そのため、データサイエンティストは足りていない、と言われているにも関わらず、実際の現場では人材が余っている、という非対称的な現象が起きています。
その原因の一つとして、データサイエンスの仕事を志向する学生たちが、ビジネスに必要な思考力や意思決定力、チームワークを学べずにいるということが挙げられます。さらに、彼らを採用する企業側もデータサイエンティスト、と言う言葉が含んでいるバリエーションを考慮せずに採用を行っていたりする。例えば、ビジネスの課題を解決するのか、アルゴリズムを開発するのか、はたまた製薬の臨床実験の現場で働くのか、この三つだけでも求められる能力は全く違いますよね。
全く性質の異なる職業をデータサイエンティスト、と言う言葉で一括りにしてしまうため、現場での人材育成の軸もわからなくなってしまっているんです。
大学卒業と就職の間にあるギャップを埋めるべく、滋賀大学ではいち早くデータサイエンス学部が設置されました。その取り組みに共感した私は教育の現場で、実践的なデータサイエンスを学生たちに教えることを決めました。
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