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ドーナツとマグカップの見分けがつかない。
あなたはこの文章をシュールな冗談か何かのように感じるでしょう。しかし、ある数学の一分野をご存じならば、「ああ、確かにね」とその意味を理解できるはずです。その学問分野こそがトポロジー(位相幾何学)。
本記事では、トポロジーとは何かをわかりやすく説明したうえで、最先端の学問や産業でその概念がどのように用いられているのかについてご紹介します。
トポロジーとは、図形や空間の本質的な性質を、形状や大きさに依存しない連続的な位置関係を基準に考える学問です。
構成する点の位置関係に焦点を当てて考えれば、ドーナツでは中心、マグカップでは取っ手の部分に一つの穴が空いており、そのほかの部分はつながっているという点で同じ(位相同型)です。ギリシア語で「場所」を表す“トポス”と、「理性」を表す“ロゴス”をくっつけて名づけられたトポロジーは、このようにしてものの形の性質を考える幾何学の一種です。
トポロジーは、量子的な物質の性質から、我々の住むこの宇宙の形状、5次元以上の高次元などあらゆる領域を考える際に応用されており、2003年、グリゴリー・ペレルマンによってなされたミレニアム問題のひとつ「ポアンカレ予想」の解決や、2016年のノーベル物理学賞に輝いた「トポロジカル相転移および物質のトポロジカル相の理論的発見」(David J. Thouless、F. Duncan M. Haldane、J. Michael Kosterlitzの3名に授与)にもトポロジーが大きく寄与しています。
トポロジーの世界では、点と線で構成された図形のことをグラフといい、実際のもののつながり方をグラフへと抽象化して考えることが有効に働く場合があります。統計などで一般に用いられるグラフとは指すイメージに違いがあることには気を付けましょう。
ITやシステム開発に従事する方がトポロジーと聞いて最初に思い浮かべるのは、「ネットワークトポロジー」でしょう。ネットワークトポロジーは、ネットワーク内のデバイスやコンポーネントが物理的にどのように接続され、通信がどのように行われるかを定義する方法です。
ネットワークトポロジーは、ネットワーク内のデバイス(コンピュータ、サーバ、ルータ、スイッチなど)とそれらのデバイス間の接続方法を規定します。これは、データの送受信、リソースの共有、セキュリティの実装など、ネットワーク全体の動作に大きな影響を与えます。
主要なネットワークトポロジーのタイプとしては以下のようなものが挙げられます。
スター型ネットワークでは、中央ハブまたはスイッチにすべてのデバイスが接続されます。このトポロジーは、単純で管理しやすく、障害が発生した場合に影響を受けるデバイスを限定できるというメリットがあります。ただし、単一障害点が発生するため、中央装置に不具合が生じればネットワーク全体に影響を及ぼすことになります。
バス型ネットワークでは、すべてのデバイスが1本のケーブルに接続され、データはケーブルを通じて伝送されます。このトポロジーはシンプルで管理しやすい一方、ケーブルの障害が全体の通信を妨げる可能性があります。
リング型ネットワークでは、デバイスがリングの形に接続され、データはリングを周回して伝送されます。通信負荷の低減につながる一方、バス型と同様にケーブルの障害が全体に波及するデメリットがあります。そのため、リングを二重にすることで問題発生時に備えるデュアルリング型トポロジーも開発されています。
メッシュ型ネットワークでは、すべてのデバイスが相互に接続されます。これにより、冗長性が向上し、通信の信頼性が高まりますが、ケーブルやポートの数が増え、設定と管理が複雑になります。
ツリー型ネットワークは、スター型ネットワークを階層的に組み合わせたもので、大規模ネットワークの管理を容易にします。
ネットワークトポロジーには物理トポロジーと論理トポロジーが存在し、前者は物理的な機器とケーブルのつながり方を、後者はデータの流れを表します。そのため、物理トポロジーはスター型で論理トポロジーはバス型など、両者が異なる場合も少なくありません。
トポロジー最適化とは、与えられた条件に対して最適な構造を解析する技術であり、近年の3Dモデリングツールや機械学習技術の発達により、工学や設計、ものづくりの分野で大きな注目を集める概念の一つです。
“このものの形はこうである”という既成概念にとらわれず、目的に即して定義された変数に基づいて設計を行うことで以下のようなメリットが得られる可能性があるのが、トポロジー最適化が現在注目を集める理由です。
・材料の最適利用によるコストや環境負荷の低減
・軽量化と高強度の両立にあたっての計算
・効果的な冷却設計や空気抵抗の低減など性能面の向上
・製品のカスタマイズ性や設計フレキシビリティの進展
物の存在を位置関係に注目して抽象化することで捉えなおすトポロジーの考え方が、我々の手に触れられるものの設計に応用されている好例といえるでしょう。
学問としてのトポロジーと我々の身近な世界にその考え方が貢献している例について解説してまいりました。我々がこの世界を捉える“通常の”捉え方を抽象化などを通して変更してみることで、新たなアイディアの創出や論理の組み立てが可能になる場合があります。トポロジーを知ることも、そのきっかけのひとつとなるでしょう。
(宮田文机)
・瀬山 士郎『はじめてのトポロジー (PHPサイエンス・ワールド新書) 』PHP研究所、2009・理学部 数理科学科 牛瀧 文宏教授『存在を約束する言葉「トポロジー」—不可能を可能にするドーナツの輪—』┃京都産業大学・2016年ノーベル物理学賞は、「トポロジカル相転移および物質のトポロジカル相の理論的発見」の業績により、David J. Thouless教授(ワシントン大学、アメリカ合衆国)、F. Duncan M. Haldane教授(プリンストン大学、アメリカ合衆国)、J. Michael Kosterlitz教授(ブラウン大学、アメリカ合衆国)の3氏が受賞することに決定。(10/4,5分更新)』┃一般社団法人日本物理学会・横田 佳之『コーヒーカップとドーナツは同じ形? 「トポロジー」で考える世界』┃東京都立大学・戦略プロポーザル トポロジカル量子戦略~量子力学の新展開がもたらすデバイスイノベーション~┃文部科学省
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