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あるとき繁華街を歩いていると、ガラスの壁面いっぱいに数十人の顔写真が貼られたギャラリーに遭遇しました。添えられたキャプションによると、「これらはすべて作られた偽物の顔です。この人たちは実在しません」。

彼らの写真はディープフェイクを使用して生成されたものでした。ディープフェイクとは「ディープラーニング(深層学習)」を使って「フェイク(偽物)」の顔や表情を生成する技術です。微笑み、または憮然としている彼らの表情はとても自然で、まったく作り物には見えませんでした。

これだけ聞くと「映画やテレビドラマの製作に使用される技術でしょ、一般人には関係ない」と思うかもしれません。しかしディープフェイクはここ2年ほどで急激に進化を遂げており、比較的シンプルなツールでの作成が可能です。これに乗じて、ディープフェイク絡みの事件や話題が急増しています。

その実例を紹介しながら、ディープフェイクの最前線を探っていきましょう。

フリーランス記者として活躍する24歳の大学生、その正体は……

ディープフェイクを巡って最近話題となったのは、イギリス・バーミンガム大学に通うオリバー・テイラーという24歳の学生。(画像はこちら)テイラーはユダヤ系の家庭に生まれ、政治に強い関心を持っており、過去にイスラエルの新聞に何本かオピニオン記事を寄稿したことがあります。

テイラーは米国のユダヤ系新聞「アルゲマイナー」に寄稿した記事の中で、ロンドン在住の研究者マスリ氏とその妻を「テロリストのシンパ」と糾弾しました。それを知ったマスリ氏は驚いてテイラーの素性を洗い始め、その中でテイラーの顔写真に行き当たります。

肌の質感が24歳にしては老けていますが、それ以外は普通の若者の写真に見えます。しかしマスリ氏はこの写真に言い表しがたい「ズレ」を感じたそうです。そこでロイターにこの件を持ち込み調査を依頼。ロイターはバーミンガム大学にテイラーの在籍確認を行いましたが、大学からの回答は「該当する学生はいない」でした。

さらには6人の虚偽画像判定の専門家がテイラーの写真を「ディープフェイクで生成されたことが確実」と判定しました。

ロイターからの通報を受け、何紙かはテイラーの記事を削除しました。するとテイラーから抗議のeメールが届きましたが、彼が新聞社の身元確認依頼に応じることはありませんでした。

つまりテイラーは、虚偽の顔写真やプロフィールをでっちあげて作成された、別人のアバターだったのです。

動画のディープフェイク

ディープフェイク技術は写真だけでなく、表情や声を合成した動画の作成にも使用できます。特に動画版のディープフェイクの標的になりやすいのが、政治家や芸能人などの著名人です。

2018年、アメリカのコメディアン、ジョルダン・ピールとヴァイラルメディアプラットフォームのBuzzFeedは、オバマ前大統領がトランプ現大統領を「完全な能なし」とディスるディープフェイク動画を作成しました。これがTwitterなどのSNSで拡散され、オバマ氏が実際にこのような発言をしたと勘違いする人が続出しました。

また、Facebook CEOザッカーバーグ氏も標的に。2019年5月、「当社の使命が人と人とを繋げることだと思ったら大間違いです。単に情報を集めてビジネスに利用したいだけです」とうっかり本音(?)をもらすザッカーバーグ氏の映像が、Facebookに投稿されました。

もっともこれはFacebookがこの動画に対してどういう反応をするかを観察するアートプロジェクトで、当初からフェイクであると種明かしをされていました。

ディープフェイク動画の作成方法 >>

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