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11月1日にウイングアークフォーラム2019で行われた、松本健太郎氏(株式会社デコム)による講演「誤解だらけのデータドリブン」の概要をお届けします。データサイエンティストとして多数の著書を出版している松本氏が、目に見える数字だけを頼りにしたマーケティング戦略を斬りまくります。
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本日は宜しくお願いします。

まず株式会社デコムについて簡単に説明しますと、東京の五反田に本社があり、インサイトリサーチを用いたヒットアイディア開発をしています。幅広く言えばマーケティングリサーチ、ヒット商品の開発を支援している会社です。

続いて自己紹介ですが、ロックオン(現イルグルム)でエンジニア職を始めまして、現在はデコムで研究開発マネージャーをしています。そのかたわらデータサイエンティストとしてお仕事したり、並行してビジネス書作家の仕事をしてまして、ここ5年くらいでマネジメント、人工知能、消費者心理などの書籍を出版しています。

データの嘘を見抜け

まず最初に「データって真実ですか」という話をします。10年くらい前にEC通販サイトの分析をしたときのことです。そのサイトはオフラインでは新聞広告とテレビCMの広告の出稿、オンラインはインターネット広告を出していました。コンバージョンポイントはそれぞれ、オフラインはコールセンターでの受注、オンラインはECサイトでの受注です。オンラインとオフラインを横断したらいいんじゃない? という時代だったので、コールセンターと商品購入ページで、弊社を何で知りましたか? というアンケートの項目を設けました。

その結果、どちらも「ネット広告を見ました」というのが多かったんです。総コンバージョン件数の80%くらいがネット広告だったので、総勢上げて「ネット広告に投資だ!」となったんですね。これはデータから見ると当たり前の結論なんですが、ネットに投資した結果売り上げが下がり、分析した僕はちょっとだけ怒られました(笑)

何が起きたかと言うと、動線が変わっていたんですね。ユーザーはまず新聞広告とかテレビCMを見て、ググって、そこからECサイトに行く。するとECサイトの健康食品のページなどにコールセンターの電話番号が貼ってあります。それを見てご年配の方がが電話してくるというのが半年ほど分析して分かったわけです。ネット広告を見たというのは嘘ではなかったけれど真実でもなかったと。

これは僕がデータサイエンティストとして非常に分析が浅かったなと心に残っています。ここでは2つの教訓を得たと思ってまして、1. データは事実ではあるが真実とは限らないこと。2. 80%というデータ=数字が出たときに、その80%の意味って何だろうと考えるのがデータサイエンティストの仕事だ、ということです。これは何度でも口を酸っぱくして言いたいのですが、データが真実とは限りません。

その事例としては、マクドでサラダマックという商品が発売されましたよね。その際にアンケートやインタビューを世界中で行っています。すると「サラダが食べたい、ヘルシーじゃないからマクドには行かない」という声が多かったんです。その意見を参考にして「ヘルシーですよ、おいしいですよ」とサラダマックを打ち出したんですが、ほとんどの消費者がスルーした。これはマクドの中で闇歴史になってるわけですよ、なんだったんだあの消費者調査は、と。

僕はデータなんて盲目的に信じても意味がないなと思っています。

アンケート項目や、特に大事なのは消費者の心理ですが、どういう背景からこの数字が生まれたんだろうという所を読まないと、データなんて何の役にも立たないんだろうと思います。

価値に照らしてインサイトをあぶり出す

さて、マクドはサラダマックの失敗に学び、逆にメガマックや一個千円のハンバーガーなどの大型ハンバーガーを開発して業績を回復しました。ここで重要なのはインサイトだと思っています。

ここでインサイトについてお話したいと思います。サラダマックの事例で言うと、消費者の声には本音と建前があるわけです。建前としては「ヘルシーなものが食べたい」でもそこに対しての本音が当然あると。ここでの本音は「分厚い食べ応えのあるハンバーガーをガブっといく背徳感最高」です。元マクドのCEOはマクドのCMの存在意義を「背徳感」と表現してらっしゃいましたけど、まさにそのインサイトですよね。これはデータ分析を通じてもなかなか見つけるのは難しいと思っています。


本音とは建前の裏側です。本音が自分の中でも分かっている場合は、その裏側としての建前を言えるわけです。ですが自分自身でも分かっていない隠れた心理というのは基本的に言語化できないので、本人も嘘とは思ってないのに結果的には嘘のような答えが出てきてしまいます。

こういう現象のせいで、よくいろんな経営者の方が「消費者調査なんて無意味です、消費者は答えを知りません」なんて言いますが、本当に大事なヒットのヒントというのは、本人も自覚してない欲求なんです。ですから聞き方が非常に大事なんですね。その人にとっての価値を聞き出して、そこから隠れた不満を導き出す、こうやってデコムはインサイトを発見しています。

価値という言葉が出ましたが、価値とは具体的に何でしょう? 例えば缶コーヒーの価値について考えてみると、僕はお疲れ様の気持ち=情緒価値だと思うんです。ドラマなどで上司が部下に「お疲れ様」とか言いながら渡す飲み物は、大体缶コーヒーですよね。缶コーヒーが持ってる情緒価値ってお疲れ様の気持ちの代表格なんですよ。

この場合、僕の不満を探り出したければ、お疲れ様という情緒価値に照らし合わすのが非常に効率的な手法です。最近は贅沢微糖とかプレミアムとか晴れの日系が多くて、テンションが低い日は別に缶コーヒーじゃなくてもいいか、となってしまう。ぱっとしない日のお疲れ様に使えない、というのが僕の不満です。この手法は基本的にB2CでもB2Bでも応用が可能なので機会があればやってみてください。

また、価値はどんどん進化しています。これまではどんな商品でも基本的に機能価値がメインでした。3つの機能で3万、5つの機能で5万、9つの機能で6万というふうに。そこから少しずつデザインにシフトしていっています。

あるいはMacやiPhoneみたいに、持っていることがステイタスという価値。またはUIやUXが上質という価値。あとは最近ですと共感ですね。今年もそうでしたが、去年や一昨年のカンヌ広告祭で受賞しているのはほとんど共感系です。そういう価値に照らし合わせてインサイトを発見するのが大事だと思っています。

数字頼みではもう問題解決できない

なぜこんな話をしているのかと言うと、数字だけの問題解決には基本的に限界があると思うからです。データってあくまで数字を含む情報を指すので、データ>数字だと思うんですよね。

今までエクセルなどでデータ分析する際は、ほとんどの企業が機能で勝負していました。こちらの商品はあちらの商品よりも何倍も汚れが落ちますよ、というような。機能性は数字で評価がしやすかったので、データ=数字という考え方が成り立っていたんですが、いま機能価値だけで下克上できる会社なんてほぼありません。1位の企業が機能で勝ってる場合、2位以下の会社が何で戦えばいいかとなると、ほとんどの企業が情緒価値や共感価値で商品戦略を立てられると思うんですが、まさにそれを計量的に理解する難しさに直面してるわけですね。

そういう場面で問題解決するためのデータという話をすると、数字という手法以外に、物事の価値、機能価値、情緒価値、共感などの観点をデータで考える必要性が非常に高まっていると思います。そのため価値というのは広義の意味ではデータにあたると思いますし、データサイエンティストであれば数量だけでなく物事の価値も含めて一緒に分析するべき時代が来ると思います。

ちなみに今デコムでは、消費者の隠れた心の奥底にある不満=インサイトというデータを発見し、それに数字も含めて分析しています。

理想的なデータドリブンとは

本来あるべきデータドリブンとはこういうことなんじゃないですか、というお話です。これは僕が好きな東洋水産の事例です。1990年に東洋水産から発売された「昔ながらの中華そば」は、家庭で調理する生麺タイプのラーメンで、それまでなかった1つの鍋で生ラーメンが作れるという利点がありました。下茹でがいらず1回お湯を沸かすだけで作れるというのが機能価値として優れていたので、ものすごく売れていたわけですね。

ところが発売後10年経っても十分な利益をとれるには至っていなかったんです。そこで東洋水産さんはどういうことをされたかというと、消費者のインサイトに目を向けて、そのインサイトから新しく商品を開発することにしました。

研究をしていく中で、北海道にある鍋の締めにラーメンを入れる文化に着目しました。すると開発班の人が、家庭でわいわい団欒してるときに、お母さんが締めのラーメンを下茹でするためだけに席を立つのはかわいそうというインサイトを発見したんですよ。だったらラーメンじゃなくてうどんでいいよね、になるわけです。ここで下茹でがいらないラーメンなら、お母さんが一家団欒を離れなくて済むじゃないかと。

そこで東洋水産はバリュープロポジションとして下茹でいらずの鍋用ラーメンを開発しました。「昔ながらの中華そば」のパッケージを変えただけという商品が誕生したわけです。大事なのはここからどれくらいの売り上げ予測を立てるのかというところです。ある調査会社の2016年のデータでは、冬場に鍋を食べる機会は月3.5回あるそうです。鍋の締めはうどん、ご飯、中華麺がトップ3ですが、支持率はそれぞれ51%、42%、17%でした。(マルチアンサー方式)こういう市場規模がわかったところで、売り上げ予測を立てていきます。市場規模はどれくらいで、何をして何%伸ばすかを考えます。

日本の全世帯5333万世帯で月3.5回行われる鍋の締めで、支持率24%の中華麺の中から東洋水産「鍋用ラーメン」が選ばれるのべ回数が全体売り上げになりますよね。2011年のタイミングで年間100万ケースに達成しましたというプレスリリースが書かれていたので、計算すると全世帯の0.45%が「鍋用ラーメン」を買ったと想定されます。ここまでわかると、上司が来年度は120万ケース出荷が目標と言えば、どんな要素を何パーセント上げるべきか計算式で求められるわけです。


データドリブンの話をすると、数字に特化して数字を深く掘り下げていけば結果的に何か新しいことが分かるという議論が多いと思います。その議論自体を否定する気はありませんが、ひとりの分析者の観点からお話させていただくと、僕は「そこからそんな大したこと分かります?」というスタンスです。左脳としての数字と右脳としてのインサイトを基に問題解決に挑むのが、本来のデータドリブンではないかと思っています。

インサイトというのは、いわゆるマーケティングプランナーの方や、広告代理店のプランナーの方であればおそらく馴染みがあるでしょうが、要約すると確からしい仮説ではないかと思います。100%の事実ではないけれど、おそらく消費者が考えてることはこうだろう、という「確からしさ」なんだと思います。その確からしさをベースに、確からしい仮説と結論を行き来するのが非常に大事だと思うんですが、確からしい仮説から結論に至るために数字を使うのが本来あるべきデータドリブンだろうと僕は思いますし、デコムが推奨しているところです。

ここまで言い切るのはどうかと思われるかもしれませんが、もはや機能価値での事業成長というのは不可能で、限界があるというのはほとんどの人が思ってらっしゃることではないでしょうか。

ご静聴ありがとうございました。

松本健太郎氏プロフィール
1984年生まれ。龍谷大学法学部卒業後、データサイエンスの重要性を痛感し、多摩大学大学院で”学び直し”。 その後、株式会社デコムなどでデジタルマーケティング、消費者インサイト等の業務に携わり、現在は「テクノロジーで『今起きていること』を明らかにする報道機関」を目指す報道ベンチャーJX通信社にてマーケティング全般を担当している。 政治、経済、文化など、さまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とし、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌にも登場している。

佐藤ちひろ

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