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2019年11月22日、プリンス パークタワー東京にてウイングアーク1st主催のカンファレンスWAF 2019|WingArc Forum 2019(以下、「WAF 2019」)が開催されました。今回のテーマは「UPDATA!」。データで組織やヒトをアップデートする示唆に富んだセッションや展示が行われました。
デジタルサービスの普及が進んでいる昨今ですが、本質について論理立てて説明できる人はどれくらいいるのでしょうか。海外では「サービス学/サービスサイエンス」としてある程度理論化されていますが、それが実践されているかは別の話です。そこでWAF2019のセッションの一つとして、ウイングアーク1stのマーケティング統括部 データエンパワーメント調査室の大川真史が、デジタルサービスの基本的な知識からサービスイノベーションの進め方、共有すべき価値などについて、理論と最新の実践例を交えて紹介しました。
セッションの冒頭、大川は「サービスとは何か?」について、さまざまなデータや研究者の発言を引用しながら「デジタルサービス」の定義を説明しました。一般にサービスとは、そのための役割や労働を担う「ヒト」と情報やデータ、マテリアルなどの「モノ」が組み合わせられて、ある特定の場面に価値を生み出すもの。デジタルサービスは、この価値を生み出すために必要な一連のプロセスや要素がデジタル化されたものを指します。
「現在の多くの人々が期待しているサービスの価値とは、リアルな場面だけでなくネットワーク上のさまざまな状態に変化を及ぼすものです。例えば、スマートフォンのアプリケーションでは、アプリの機能と事業者の提供するサービスの組み合わせが、顧客にとっての価値を生み出します」
サービスを提供する事業者は、自分たちが提供するサービスの品質と顧客の期待の間に生じるギャップを常に意識しなくてはなりません。コストや技術などリソースが限られている中で、提供するサービス品質と顧客の期待との間に開きが生じてしまうからです。
「そこでギャップを取り繕うのではなく、むしろ最初から完璧なものはつくれない前提で、ギャップの存在をできるだけ早く正確に認識し、それをサービス設計に戻して修正することが重要です。トライ&エラーのプロセスが常にスムーズに回るような仕組みを、内部で構築しておくことが成功の必須要件になります」
大川は続けて、具体的に良いサービスをつくるにはどうしたらよいのか、つまり、サービスイノベーションを実現する方法について触れていきました。そもそも良いサービスとは何か? それは、顧客がそのサービスを受け入れ、ずっと使い続けられるサービスです。「そのために多機能や高品質といった、ユーザーが進んで利用したくなる要素が数多く求められてきます」と大川は語ります。
「とはいえ、実際にどのサービスが良いかはユーザーにしか決められません。事業者側はつくったサービスをユーザーに試してもらって、フィードバックをもらいながら失敗と修正を繰り返すしかないのです。失敗と修正を繰り返すほど、良いサービスに育っていきます。つまり1日でも早く、1回でも多くお客様に『駄目』と言われた者が『勝ち』なのです」
大川は、トライ&エラーの進め方と実践のポイントとして、下記を挙げます。
①「ダブルループ」によるPDCAサイクルを確立する
IT の世界ではよく知られている「アジャイルループ」と、意思決定に利用される「OODA(ウーダー)ループ」と呼ばれる2つのサイクルを組み合わせた「ダブルループ」を使って、PDCAサイクルを回していく手法。一般にPDCAサイクルでは最初のプランに時間をかけてしまう傾向が強いですが、市場環境の変化が激しいサービスでは、前提の陳腐化が速く、気付かずに走ると後の工程が全て的外れになってしまいます。OODAループでは、現時点で見えている状況をそのまま受け入れて観察し、その中で最も良いと思われる判断を実行するため、そうしたタイムラグによる誤りが抑えられます。
②UXデザイナーが最も重要な役割を担う
ユーザーの望む機能やメリットを実現するには、数多いユーザーの中から最も典型的かつエクストリームな人を選び出し、その考え方や期待をくみ取って実装していかなくてはなりません。このためサービスの本質的な使い勝手などを実現するのは、顧客体験に直接関わるUXデザイナーの役割です。
③ディレクターは周りのノイズの防波堤になる
ディレクターは職階の最上位にいますが、実務では社内外の関係者の調整が主な仕事になります。また社内からいろいろな意見やアドバイスが上がってきますが、それは本当のユーザーの視点とは異なる場合も多いので、それらをノイズとしてキャンセルすることが重要な役割になります。
後半は、近年サービスの世界で起きつつある大きな変化について紹介しました。その最たるものは、欲しいものは自分でつくるという人々が続々と現れていることだと大川は明かします。
「この10年間で、ITの世界には劇的な変化がいくつも起きました。クラウドの普及やオープンな開発環境、クラウドファンディングの広がりのように、何かつくってみよう、試してみようと思った人たちが、自分たちの力でそのアイデアを現実のサービスにつくり上げることが十分可能になりました。その結果、これまでは大手メーカーやベンダーしかできなかったことを、個人で実現している例が数多く現れてきています」
その事例とし、都内のゴムパッキンを製造している会社の出来事を紹介。ここの社長は、数年前に初めてCOBOLのプログラミングを勉強して社内で使うシステムを構築。さっそく導入しようとしましたが、従業員は高齢でパソコンを使った経験がない人ばかりでした。
「そこで社長さんは、キーボードを自分で改造して、最小限の操作で使える仕組みをつくりました。高齢の従業員はマウスも使えませんでしたが、スマホならみんな持っているので、タッチパネルもCOBOLで開発して、キーボードと組み合わせて使えるようにしたのです」
IT のプロから見るともう少し最適解がないのかとも感じますが、実際にユーザーに寄り添ってつくっていったサービスは、むしろ「常識の目」からは奇妙に見えるものだと大川は話します。この他にも鋳造協会がIoTを活用する取り組みや、薬剤師が個人で開発した薬局向けのサービスプログラム。また伊勢神宮の門前の個人食堂がITを使って経営改善に成功した例などを挙げました。
欲しいものは自分でつくる人々の共通点として一番大きいのは、初期衝動です。現場で日々痛感している不便やつらさを解決したいという気持ち、ここさえしっかりと持っていれば、技術や方法はWebでも学べますし、つくったものを改良するための環境やツールは安くて良いものが世の中に出回っています。そして良いものができれば、同じ課題を抱えている同業者に販売するといった収益モデルにすることも可能です。
「彼らは『イノセントディスラプター(無邪気な破壊者)』と呼ばれ、ともすれば既存の市場やサービスを駆逐しかねないパワーを秘めています。サービスを考えようとするなら、こういう人たちが存在するのを知っておかなくてはなりません」
大川はこうした変化とその先に現れてくる世界を「ポスト工業化社会(デジタルサービス化社会)」と呼び、「IT化までは工業化社会の延長線上でこられたが、さらにIoTやAIなどが出てくると、もはや工業化社会の延長線上では扱い切れない状況になってきます」と語ります。
これまでの工業化社会とデジタルサービス化社会の大きな違いは、過去の「新しい技術によって機能を実装する」のに対して「新しい提供プロセスやインサイトを基にUXを提供する」に変わっていく点です。その典型的な成功例はUberやAirbnb。10年前ならこの業界で最も大きいのは、タクシーの保有台数がナンバーワンとか、世界最大のホテルを持っている企業でした。しかし、UberやAirbnbはそうしたアセットを持たず、プラットフォームだけを提供しています。ここからも、ユーザーにとって最も使いやすい UXを提供できる企業が、世界を席巻する時代になってきていることが分かります。
最後に大川は、「私たちはデジタルサービス化社会という、これから200年くらい続く変化の入口に立っています。サービスをつくる企業は、まずそのことを意識しなければならないし、サービス全体のトレンドもますますそうした方向に向かって変化していくでしょう」と展望を語り、セッションを締めくくりました。
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