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CES2024から見る、日本企業は大きな絵を描くことができるのか?–世界の一次情報からDXの光を照らす「World DX Journal vol.02」

「データのじかん」の新特集、「World DX Journal」へようこそ!世界中で巻き起こるデジタル変革(DX)のリアルな声を、まるでそこにいるかのように届けます。報道におけるバイアスをそぎ落とし、生の一次情報を根拠に、日本から世界のDX動向をリアルタイムでキャッチ。読者のみなさん、各地のデジタル最前線の情報を通して、世界がどんな風に様変わりしているのか、目撃してみませんか?情報をシェアするだけじゃない、世界を「読む」ことで、これからを生きるヒントを一緒に探していきましょう。さあ、この冒険に、あなたも参加しませんか?第2弾は、第1弾「CES2024に参加して改めて感じた一次情報を取りに行く大切さ」に続き、2024年1月に開催されたCES2024をデータのじかんFRIENDの美谷広海さんがレポート。

         

世界最大のテクノロジーとしての見本市として知られるCES。今年は韓国のスタートアップが、これまで多くの出展社数で知られていたフランスの倍以上の500社の規模で出展し、国としてもCESに注力していることを多くの来場者に印象づけていた。また例年、LGやサムスンは、多くの予算を投入した派手なブースで来場者の注目を集めようとしており、特にLGのブースはCESでのひとつの名所となっている。

韓国企業がCESで提示する大きなストーリー

ただ数の多さや派手さで目立つだけでなく、展示内容もより洗練されるようになってきている。そしてそれ以上に筆者が注目しているのが、韓国企業がこの舞台を活かし、中長期的なコンセプト、ビジョンを魅力的に提示するようになってきていることである。HD Hyundaiの例を紹介したい。

巨大なモックの展示だけでなく、キーノートではサウジアラビア政府の関係者も登壇

HD Hyundaiは巨大な全自動動作の建機のモックを展示していたほかメディア向けキーノートイベントでもAIやテクノロジーを活用したソリューションの紹介を行っていた。 2019年にミュンヘンーソウル間での遠隔操作を5Gで実現し、2025年にはスマートワークステーションからのリモート操作を実現する予定となっている。

そして2030年に完全自動ソリューションを提供するのが目標。電動建機、水素建機はAIにより完全自動で動作したり、完全にリモートで操作される無人建機となる。キーノートでは巨大なスマートシティプロジェクトで注目を集めるサウジアラビア政府の関係者が登壇し、こうした建設現場向けへの協業がアピールされていた。

サウジアラビアでの巨大プロジェクトのひとつThe LINE。全長170km高さ500mの直線高層都市構想だ。

重要なのは建機そのものの性能以上に将来、無人での運用が想定されていることだろう。作業員の交代などなくとも、24時間現場を無停止で自動で工事、建設していくことが可能となるからだ。これを数多くの建設プロジェクトが進行中のサウジアラビア政府の関係者を巻き込んで、提示してくるのはとても巧みというしかない。

日本企業からあまり見えてこない勢い

翻って、日本企業のCESでの状況をみてみると、ソニーはホンダとの電気自動車のプロジェクトであったり、トヨタが実証都市Woven Cityのコンセプトを2020年に発表したりと、話題を集める事例がいくつか出ているものの、毎年継続してCESを観測していると、全般的に大きな勢いというものは感じられないというのが正直なところだ。

もちろん企業によっては、パナソニックのように消費者向けプロダクトから、企業向け製品やソリューションに注力するようになっていっているという変化があったり、CESがそうした場として日本企業によって選ばれなくなってきているという面もあるかもしれない。

今年のパナソニックのブース。良く言えばZen Styleで、ブース内の床のカーペットは一部のみで、全体的に展示エリアにカーペットを敷設せず展示会場の剥き出しの床となっている。

ただ全般的に経費削減や、縮小均衡に向かって行っているような印象をどうしても感じてしまう。

KPIを設定することの弊害?

そんな中、昨年はサントリーが初出展しており、液体の中に3Dプリントで模様を描く技術や、スマホのアプリで腸の健康を確認できるアプリなどを展示しており、とても注目を集めていた。噂で、競合企業車内で、CESに対抗して出展し負けずに注目を集めるように役員が発破をかけたという話が聞こえてきたほどだ。

昨年のサントリーのCESのブース。CES Innovation Awards も受賞。

しかし残念ながら、今年のCESではサントリーのブースの出展はなかった。理由はわからないが、CESへの出展には少なくない費用が発生するし、費用対効果が見合わない、あるいは継続しての出展は必要がないという判断がなされたのかもしれない。これはやむを得ないところかもしれないし、前述の韓国企業も毎年多額の予算を投じているものの、果たして費用に見合った効果が得られているか、というと必ずしもそう言い切れるものではないだろう。

少なくとも何百社ものスタートアップの出展支援に関しては、短期的な収支をみれば、すぐに回収できるものではない。ただそれによって、スタートアップの創業を後押しし、スタートアップ企業の海外進出を後押しし、スタートアップ人材に経験と販路拡大の機会を与え、国のブランド向上にも繋げ、といったいくつもの様子を複合的に見ていったときに、長期的には効果があるといえるかもしれない。

仮に訪問者数や、リード獲得数、商談獲得数などのKPIが設定されていたとすると、それをそのままの数値として見てしまうと物足りないと感じる人は少なからずいるだろう。HD HyundaiのCESでのキーノートはYouTubeで公開されているが、こちらの視聴数は、この記事を執筆している時点で8000弱となっている。

惰性としての継続と、挑戦的な継続との違い

そのため多額の予算を投じず、なるべく効果の高い成果を得るために、無駄に予算をかけず、とにかくリード数を効率よく獲得することに徹するという考え方もある意味正しいだろうし、そもそもCESへの出展メリットがないと考えることも間違ってはいないだろう。

実際、フランスのロレアル社は、オープンイノベーションに積極的であり、CES Innovation Awardsも毎年受賞する製品を送り出しているが、去年はCES Unveiledのみに出展し、一般向けの展示を行わず、会場のホテルのスイートルームを商談のための部屋として確保する形をとっており、今年も招待客だけが入れる形で、会場の会議室の中で出展するという形を取っていた。

一方で、韓国企業の動きを見ていると、単に予算を投じて注目を集めるだけでなく、単に商談としての場から、メディアやイノベーションに取り組む関係者間のネットワーキングの場として変化しつつあるCESにおいて、より長期的な成果を得ようと、展示の仕方、提示する内容が変化し、洗練されてきているように感じる。

そして日本企業がこうした大きな絵を描くことができるのか、と問われると、あえて描いていないだけで、こうした場に出てくる重要性も必要性がないからだというのが答えかもしれない。だが、こうした新たなビジョンをCESのようなお披露目となる場で定期的に提示し続けることによってこそ描けるようになるし、その提示していく能力も鍛えられるのではないか、また組織の中でそうした取り組みを思案し、調整し、提示に漕ぎ着けるための組織文化づくり、体制づくりが成されていくものなのではないかとも考えさせられる。

挑戦の機会が少なければ、成長の機会も少なくなるのは必然だろう。

ここ数年、AGCや、TDKが単独のブースで出展して、力を入れてきているのはCESの参加者として興味深いところだし、CESに限らず、海外のイベントで日本企業による面白い取り組みを目にする機会がより増えていくことを期待したい。

AGCのブースは初出展の去年よりも広く、凝った展示となっていた

データのじかんFRIEND:美谷 広海 
FutuRocket CEO & Founder
株式会社Cerevoにて2015年1月からSenior VP, Gobal Sales & Marketingとして、世界各国で展示活動、営業活動に従事。CES(3年連続)、MWC、SXSWを始め、海外30以上のイベントで展示を行う。
 
 

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