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世界に300以上の店舗を持つ家具量販店、IKEA(イケア)。利用したことがある方や名前を聞いたとがある方は多いでしょう。
イケアの家具は、自分で説明書に従って組み立てるという方式で販売されています。
これには家具組み立てにかかるコストを削減する効果があるだけではありません。実は、消費者の商品への評価を高める効果もあるのです。
その効果を行動経済学者のダン・アリエリーらは「イケア効果」と名付けました。そして、イケア効果の特性は、データの取り扱いにも影響するのです。イケア効果をキーワードに、データをもとにアイディアを考える際の注意点をご紹介します。
イケア効果とは、「労力がもたらす過大評価」を指します。
この効果を確かめるためにダン・アリエリーらが行ったのが「折り紙」に値段をつける実験です。被験者は折り紙を実際に折った「創作者」と通りすがって値段を聞かれただけの「非創作者」の2種類。彼らに完成した折り紙に払える最大価格を尋ねたところ、「創作者」の平均価格は23セント。一方「非創作者」の平均価格は5セントでした。創作者は非創作者の何倍も作品に価値を見出したのです。自分が労力を使って作り上げたからという理由で。
このような現象は、イケアの家具を買った人が作り上げるまでに労力をかけることで家具に愛着を持つ(価値を見出す)ことから「イケア効果」と名付けられました。
イケア効果と似た人間の行動特性に「自前主義のバイアス」というものがあります。これは、「自分(たち)が生み出したアイディアを過大評価してしまう」という傾向です。
例えばある問題の解決策について、元から回答が記載されている場合と自分で同様の回答を導き出した場合とで人はどちらを高く評価するでしょうか?
――正解は、後者です。それは、回答を考えるプロセスがただ単語を並べ替えるだけといったような労力の少ないものである場合も変わりません。人は、自分が少しでも所有感を持つデータやアイディアを「えこひいき」してしまうのです。
この特性からは偉人や大企業であっても逃れられません。エジソンは自らが発明した直流電流を偏重するあまり、交流電流の価値に気づけず特許を取得する機会を逃しました。ソニーやシャープといった日本の大企業が長らくイノベーションを起こせなかった背景にも自前主義のバイアスがあるといわれています。
イケア効果や自前主義のバイアスといった人間の行動特性は、ときに公平なデータの取り扱いを阻害します。「労力をかけて収集したデータを簡単に手に入れられたデータよりも重視してしまう」「他社のアイディアよりも自社のアイディアの方を優先してしまう」といったケースに思い当たるところはないでしょうか。
意識するしないにかかわらず、人間には自前のデータやアイディアを(特に労力をかけて収集したものほど)過大評価してしまう傾向があることを知っておくことが重要です。
このようなバイアスを取り除くために効果的なのは、データ・アイディアの作成者と評価者を別にすることでしょう。同じチームの上司と部下のように近しい関係者ではなく、そのデータ・アイディアを「自前のもの」と感じられない他者を作成者または評価者とするのが理想です。そのためにデータの収集を外部化するのも一つの手段。複数の立場で評価できる仕組みづくりを行うことが、バイアスを排除してデータ・アイディアを取り扱う際の基本です。
イケア効果、自前主義のバイアスには、プラスの側面も存在します。
ひとつはイケアの例のように消費者の満足度を高める効果があること。技術的には水を加えるだけで作れるようにすることも可能なケーキミックスが現在のように卵と牛乳を加えて焼く手間を要するのは、手間をかけることで「自分の料理だ」と感じられ満足度が高まるからなのです。
もうひとつは、仕事への愛着やモチベーションを高められるということ。仕事に労力を注ぎ、「自分ごと」として考えることで人はやりがいを持って働けます。ただし、イケア効果は労力をかけて成果物を「完成」させなければ十分に働きません。成果物にクレジットを記載するなど、自分の仕事が成果物の完成に結びついていることを、プロジェクトに関わる社員が実感できる仕組み作りが重要です。
人間には逃れえない行動特性が存在します。その実態を把握し、うまくプラスの面を発揮させ、マイナスの面を抑え込めるような仕組みづくりに取り組んでみてはいかがでしょうか。バイアスの存在を念頭に置くことで、より中立的な判断が行えるはずです。
【参考文献・URL】
・ダン・アリエリー著、櫻井裕子訳『不合理だからうまくいく 行動経済学で「人を動かす」』早川書房、2014
・IKEA公式┃IKEA
・平成25年版情報通信白書┃第1部 特集 「スマートICT」の戦略的活用でいかに日本に元気と成長をもたらすか|総務省
(宮田文机)
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