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働き方改革が推し進められる昨今、学問の自由のために自治を強調してきた大学においても教職員の働き方について大きな変革が求められています。
例えば、今年6月には島根大学が教職員約200人に対し残業代約9000万円が未払いであったとして、松江労働基準監督所が是正を勧告。大学は未払いを認め残業代の支払いを行ったそうです。
島根大学は、残業代未払いの理由として教職員の休日深夜の勤務の目的が個人の研究のためだった、ということから「職務以外の目的」として取り扱ったということを挙げています。
こうした問題からは、専門職における裁量労働制についての様々な課題は浮き彫りになってきました。
そこで今回は、大学における教職員の労働問題がどのように変わってきたのかをデータを見ることで、日本の大学教育や学術研究の意義、そして裁量労働制について改めて考えていきたいと思います。
とは、労働時間と成果や業績が必ずしも連動しない職種において適用される働き方です。裁量労働制においては、時間管理についても個人の裁量のもと判断されるので、出退勤等の勤務時間も自由に設定できます。
一方で、法律上、裁量労働制においても、時間外労働による割増賃金等は、きちんと支払われるということになっています。
裁量労働制はあらかじめ設定した時間(例えば、1日8時間というように)を労働時間として設定することで、賃金が支払われると言う仕組みになっています。しかし、裁量労働制で働いている人の実働時間が法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超過する場合は、割増賃金を払う必要があります。その他にも深夜帯や休日に働く場合は法定で定められた手当を支払う必要があります。
こうした中で大学教員をはじめ、多くの専門職において問題となるのが、どこまでを仕事とするか?という問題です。
例えば、四六時中数学について考えていて、数学のことを夢にまで見るなんて言う数学者は少なくありません。しかし、夢見ている間も労働時間に含めると言うのはなかなか現実的ではありません。
そこで、多くの大学が大学に滞在している時間を労働時間の基準、としています。大学教員の労働内容としては、大きく以下の三つの要素が挙げられます。
・学生への教育
・学生への研究指導
・学術研究
島根大学の残業代未払いは、大学教員にとって重要な仕事である学術研究についての目的意識の違いから発生したと考えられます。
生活と仕事が深く結びついた専門職に対する認識の齟齬は、大学教員にかかわらず起こりうることです。したがって裁量労働制を活用する側、提供する側が共に認識をすり合わせることが重要だと考えられます。
一方で、データを見てみると、この数年で大学職員の仕事も大きく変わってきていることがわかります。
例えば、文部科学省の「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査(平成30年度)」によると大学教員の仕事の主軸である、教育と学術研究の時間はこの十数年で大きく減少していることがわかります。
出典:大学等におけるフルタイム換算データに関する調査
そして、教育と学術研究にかけていた時間の割合が減少した分は社会サービス活動全般に割り当てられている、ということがわかります。
大学教員における社会サービス活動の需要が増加した背景には産学連携や高大連携など社会との連携を図る事業にまつわるイベントの増加があるのではないか、と考えられます。
実際に、学術研究にまつわる予算が縮小する中で、より社会に還元できる実益的な研究が求められ、企業との連携は強まっています。
また、高大連携事業については、近年の少子化傾向の影響もあり、経営面においても重要な役割を担うようになっているのです。
旺文社教育情報センターが行った「学校基本調査(平成30年度)」によると、日本における高校卒業者(現役)の大学進学率は2000年代に大きく増加し、2007年以降は全体の50%以上が大学に進学する状態が続いています。
高校生以下の学生たちの間で、大学進学が一般化する一方で、少子化は加速しています。
2000年代までは、少子化が多少進んでも、大学進学率が増加していたため、大学進学志望者数が減少することはありませんでした。
しかし、2010年代には大学進学率の増加が鈍化したこと、さらに、2018年以降はその年の18歳人口が減少することから、多くの大学で定員割れが加速し、閉学する大学が増えることも予想されています。
こうした問題は「2018年問題」と呼ばれ、このような喫緊の課題に対し、文部科学省は、すでに2019年度以降に経営難に陥った大学に対し、学部の削減や学生の募集停止、設置大学・短大の廃止や法人の解散など、経営判断を伴う対策を取るよう通知する方針を固めています。
そうした中で、高大連携事業を活用し、中高生に向けた大学教育にまつわる社会サービス活動を行うことで、優秀な学生の獲得を図るという取り組みは大学にとって非常に重要な取のです。
大学運営側にとって重要な社会との連携事業ですが、多くの大学職員にとっては、負担が増え、本来の目的である学術研究や所属学生たちの教育のための時間が縮小される厄介な仕事になりつつあります。
このように、個々人に大きな裁量を与える、ということが前提になっているにもかかわらず、トップダウンの仕事が増え、本来やるべき仕事ができなくなってしまったり、個人の裁量の範囲が縮小してしまう、という問題は、他のどんな職種であっても起こりうる事態です。
厚生労働省が行なった裁量労働制についてのアンケートでは、裁量労働制について「満足」、「やや満足」と答えた労働者側は70%を超えています。
一方で、「不満」、「やや不満」と回答した人も3割弱存在します。不満の理由として「業務内容が過大」や、「労働時間が長い」、「給与が低い」などの回答が多く見受けられました。
裁量労働をより多くの人が気持ちよく利用するためには、長期的に考えたときに、組織にとっても個人にとって良い方針なのかをきちんと問い続けることが重要になると考えられます。
多様な働き方が推進される今だからこそ、雇用主と雇用者共にベストな働き方について改めて考えることが大切かもしれません。
参考引用サイト
(大藤ヨシヲ)
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