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(前編はこちら


Google ジャパンの同僚だったウイングアーク1stのPeople Success部 部長を勤める吉田善幸氏と一般社団法人at Will Work 代表理事の藤本あゆみ氏、Google同様自由な働き方を2010年から実践してきた株式会社Everforthの森下将憲CEOが、働き方とデータについて語り合いました。

定量的なデータにのみ注目する目標管理の問題点や、コミュニケーションや人の心理といった感性の部分を重視することの必要性に話が及んだ前編に続き、後編では高い成果の生まれる条件や、テクノロジーによって実現するより本質的な働き方改革の展望が見えてきました。

心理的安全性と目標達成のための緊張感のベストバランスとは

吉田:心理的安全が大事というのは、そのとおりだと思うんです。例えばGoogleの社員は実力主義でパフォーマンスによって報酬も大きく変わることを望んでいるようなイメージがあるかもしれないけれど、データ分析してみると意外とそうでもなかったんですよ。安定的な収入という安心が精神的な安定につながってパフォーマンスを出しやすくなる、という傾向があったんです。

藤本:ハイリスク・ハイリターンを狙うような人はGoogleではなく投資銀行に行くんじゃないでしょうか(笑)。ただ、Googleは常に成長して高い目標を達成していくんだという緊張感もあって、それと心理的安全が合わさった結果、良いパフォーマンスが引き出されるんじゃないかと思います。

Everforthのオフィスには2匹の猫がいる

吉田:森下さんの組織では、緊張感とハピネスのバランスはどのように考えていますか?

森下:基本的には、エンジニアはあまり緊張感を持ちすぎないほうがいいと思ってます。

吉田:事業目標とか数値目標も持たせない?

森下:エンジニアにそういうことは言わないです。VGTAのA(アーティファクト)を意識しようということだけで。
開発プロジェクトにはどうしても納期があるので、それだけでもプレッシャーなんですよ。エンジニアって真面目なので、それ以上のことは言う必要がないんです。

藤本:賛成です。「全員経営」みたいな考え方もありますけど、経営者には経営者の、エンジニアにはエンジニアの役割があるので、それでいいんじゃないかと。ひとりでできないことをチームでやるから会社として成り立つし、大きな目標を達成できるわけですから。

森下:私が大事にしてるのは、その人のキャパシティとやりたいことに合わせてロールを提供するということです。エンジニアはテクノロジーが好きでやってきてるので、経営のことまで分かる必要はないと思っています。それでも、経営を透明化することは意識しています。経営の情報は全部見えるようにして、興味ある人は見られる状態を作っているということが、大事だと考えています。

ハピネスの測定方法とデータ活用の可能性

吉田:以前は社員のエンゲージメントとかモチベーションと言われていたことが、今はハピネスというもっと人間の本能に近いものに定義し直されている印象があります。幸せ度って、どうデータ化できるんでしょうね?

藤本:すでに日立さんが、ハピネスの計測をやっていますね。3年前にはピンとこなかった研究が今はすごく脚光を浴びていて、時代の流れを感じます。ただ、日立さんのハピネスの定義にはまらない人もいるので、一般化するのは難しいです。一番大事なのは、「そもそも、なぜ働くんだっけ?」「何をしたいんだっけ?」という自分の基準をどれだけ持てるかだと思うんです。どうしても同じ指標で測りたくなりがちですけど、「幸せなんて人それぞれ違うんだよね」と認識することが、次に必要なことかもしれません。

森下:それこそデータでできると思いますよ。私は脳を解析したいんです。セロトニンの量なんかで物質的に研究ができるはずだし、そこがデータ化されると本当に世の中が分かってくるでしょう。ディープラーニングで解析していくと、「あなたは今この会社にいない方がいいよ」とか「意外と投資銀行が合っている」とか、そういう最適なマッチングができそうじゃないですか。
意味解析までしなくとも、脳波を見れば色々わかります。私も持っていますが、脳波計測のツールでかなり手軽にアルファ波やガンマ波なんかが測れるんですよ。そういうことが、5〜10年経ったら当たり前になってくるんじゃないですか。

吉田:どういう働き方をするとベストパフォーマンスを出せるか、見える化できますね。

森下:IoTも使えば、この人とこの人が近くにいるときはすごく脳波が出ている……とかも分かりますよ(笑)

藤本:面白い(笑)。それで相性のいいチームを作ったりできそうですね。例えば今までは「ストレングスファインダー」みたいなテストで相性を考えていたところが、他のデータの掛け合わせでもっと明確にわかるようになるというのは、ありそうですね。

人は環境で善悪どちらにもなり得る。性善説が可能な文化の醸成が必要

吉田:僕は、会社が幸せやエンゲージメントが上がる働き方を提示できれば、社員が自発的に動いて勝手に成果を積み上げてくれるものだと思っているんです。だけど、今の日本の会社のほとんどは「朝ちゃんと起きて、夕方までオフィスで働く」というやり方が刷り込まれているからなかなか変えられないんですよね。その点、森下さんのところは最初から全然違うやり方で始めていますね。

森下:我々の会社にトライアルで入って、かなり苦しむ人もいるんです。自由すぎてどうしたらいいか分からなくなっちゃう。色々な人がいるので、多くの人は「刷り込まれた働き方」の方がいいんだと思いますよ。無理に変える必要はないので。

吉田:柵がある中で放牧されているくらいの方がラクなんでしょうね。

森下:それぞれのキャパの問題なんですよ。キャパが地球規模になっちゃうと、自由すぎてわけが分からなくなるんです。我々の会社でロールを割り当てるときも、その人のキャパに合わせてアサインして、そのロールの中で自律的に動いてください、という形にしています。もちろんロールを飛び越えて思考、行動するのも自由ですが。

藤本:そのキャパは、教育でいくらでも変わると思うんです。環境が人を作ると考えると、自由な世界を経験していない人のキャパが狭いのは仕方がないですよね。Everforthのような会社が増えてくると、変われる人も増えてくるはずです。

森下:だから、この会社は社会実験だと思ってやってます。

藤本:私が会社員として働きながら社団法人をやるのも社会実験です。やってみないとわからないことがあるし、その実験が誰かのための事例になると思うからやっているんです。こういう社員がいると、人事の人は大変だと思いますけどね(笑)。

吉田:副業や複業を始めると、社員の帰属意識も変わってきますよね。

藤本:私はむしろ、帰属意識は高まると思いますよ。海外に行ったら日本が好きになった、みたいなことと一緒で。もともと組織にコミットしていなかったような人は、副業しなくても遅かれ早かれ出ていくと思うので。

吉田:森下さんは、経営者の側から見てどうですか?

森下:難しいですね。我々のところには社員と同じようなことを業務委託でやっている人もいます。契約形態が違うだけですけど、なんとなく正社員の方がコアメンバーに近いという感覚を持ってしまいがちです。最近はかなり区別がなくなってきましたが。
あと、業務の一部を副業としてやってくれている人は20人くらいいますね。そういう人たちとは、ノウハウをお互いに共有できるので、すごくいいと思います。

吉田:自分の経験では、社員を性悪説で捉えるか性善説で捉えるかで、人事の仕事は全然変わるんですよ。性善説でいくと、柵をできるだけ広げて自由にやってもらうことに腐心できるけど、わけがわからないメンバーがいると、問題を防ぐために柵が狭く高くなっていく。それは会社の歴史とか文化とか、組織的な民度によっても変わるんだと思いますが。

森下:こういう会社をやっていると、いつも「Everforthは性善説ですよね」と言われるんですけど、どちらでもないんですよ。ほとんどの人は善悪どちらにもなり得るので、カルチャーとか環境が大事なんです。情報の透明性とかコミュニケーションの仕方とか、そういうことに気をつけて、メンバーが自然と善の方へ向かって行く環境をつくることが大事なんだという考え方でやっています。「民度」というのは正にそういうことですよね。

5年後、10年後、日本の働き方はどうなっている?

一般社団法人at Will Work 代表理事 藤本あゆみ氏

藤本:副業ができるようになると、採用面接はなくなっていくんじゃないかと思うんです。副業でもプロボノでもいいんですけど、インターンみたいな感じでパラレルで働きながら、会社との相性を見ていくような形がいいんじゃないかと。というのも、最近は「組織のカルチャーが大事だ」とすごく言われるようになってきているけれど、そういうものは入ってみないとわからないじゃないですか。

森下:Everforthはすでにそうなってます。副業で2〜3ヶ月トライアルしてからお互い「どう?」というのが多いですね。

吉田:なるほどね。ほかに、この5年から10年の間に、日本の働き方にどんな変化が起きると思いますか? 最後はこの話題で締めましょう。

藤本:正直わからないですが、at Will Workを始めた時にイメージしていたのよりも早く変化している気はするんです。ちょうど今、会社も個人も「自分たちは何をするべきなんだっけ」ということを問い直しているところなので、その結果ある程度淘汰されていくのかな、とは思います。データを見るのが得意な会社はそうするし、感覚でやって行きます、というところもあるだろうし……。

吉田:今はあたふたしている会社も、それなりに自分たちのスペースを見つけて、その組織なりの最適解を持っている、というイメージですかね。そうなると、世の中はかなり良くなりますね。

藤本:はい。ならざるを得ないでしょうね。

森下:私はこの1〜2年で、我々のような働き方に憧れる人たちが増えていることを明確に実感しているんです。なので、制度や会社がどうなるかということよりも先に、労働者側の圧力で世の中が変わらざるを得ないんだろうと思います。

藤本:そうそう。人の方から変わってきていますね。

森下:その背景には、資本主義の行き詰まりがあるんでしょうね。モノの価値が減って精神の価値が増え、お金を稼ぐより気持ちよく働きたいよね、という人が明らかに増えているんです。そういう流れと相まって法整備も進んでいくんでしょうけど、大企業の人たちが我々がやっているようなことを本気でできるかというと、難しいでしょうね。

藤本:そうですね。だから個人としては、大企業にいながらEverforthで働く、みたいなことが増えていきそうです。

吉田:なるほどね。僕も、パートタイム人事みたいな、そういうビジネスモデルを考えようかな。人事ができる人たちをプールしてスタートアップに紹介するような。

藤本:それ、めちゃくちゃ需要がありますよ。

森下:いいですね。人のネットワークで人材を紹介し合うようなビジネス、いくらでもできると思いますよ。

吉田:ちょっと考えてみます(笑)。おふたりとも、今日はありがとうございました。

 

左からEverforth 森下将憲氏、at Will Work 藤本あゆみ氏、ウイングアーク1st 吉田善幸氏

(テキスト:やつづかえり PHOTO:Inoue Syuhei)

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