コロナ禍でよく耳にするようになった言葉「夜の街」。
都知事から「夜の街、夜の繁華街への外出はお控えいただきたい(※)」と名指しされたことやメディアの報道により、感染の中心地的なイメージばかりが広まってしまったのではないかと思います。
そこで本記事では「夜の街」のさまざまな側面をご紹介。その闇に包まれた顔をデータで照らします。
※都知事 夜の街への外出控えるよう呼びかけ┃日テレNEWS24より引用
まずはコロナウイルスの感染者増加における夜の街が影響した度合いをチェックしてみましょう。
以下は、2020年6月24日(木)~7月24日(金)中の東京都の新規感染者数(全体)とそのうちの夜の街関連の感染者数の人数を比較するグラフです。
報道発表/令和2年(2020年)┃東京都のデータ、各種報道発表を参照の上、筆者作成
冒頭の小池都知事による夜の街への外出抑制の呼びかけがなされたのは7月3日(金)のことでした。確かにそこまでの間、全体の感染者数が少ない分、新規感染者数の多くを夜の街が占めているようにみえます。
しかし、全体の感染者数が多くなるにつれて夜の街の割合はどんどん少なくなってきています。同期間における夜の街の割合を抽出した以下のグラフを見ると、増減ありつつも如実にアベレージが下がってきていることがわかりますね。
報道発表/令和2年(2020年)┃東京都のデータ、各種報道発表を参照の上、筆者作成
代わりに伸びてきたのが「家庭内」や「会食」の割合。それだけ第2波が本格的に始まっている証左であり喜ばしいことではありませんが、“もはや夜の街が感染源の筆頭ではなくなりつつある”ということは、知っておくべきでしょう。
そもそも夜の街という言葉が曖昧であるというのは多くの人が指摘するところです。
前掲のデータにおける感染経路「夜の街」が指すのは、主にキャバクラやホストクラブといった接待を伴う飲食店のことですが、それは街ではなく店ではないのか、と重箱の隅をつつきたくなるのは職業柄でしょうか。
富士通クラウドテクノロジーズは2019年の1年間日本中の街の夜間光の強さを取得し、ランキング形式で発表しています。このランキングが上位であるほどナイトエコノミーが盛んであり、すなわち「夜の街」度が高いといえるのではないでしょうか。
地区 | 夜間光の強さ | |
---|---|---|
1 | 東京都新宿区 | 400 |
2 | 大阪府大阪市中央区 | 343 |
3 | 北海道札幌市中央区 | 300 |
4 | 東京都渋谷区 | 297 |
5 | 大阪府大阪市浪速区 | 290 |
6 | 大阪府大阪市西区 | 280 |
7 | 大阪府大阪市北区 | 277 |
8 | 東京都豊島区 | 254 |
9 | 愛知県名古屋市中区 | 250 |
10 | 東京都千代田区 | 237 |
日本、きらめく夜の街ランキング~衛星データから分析するナイトタイムエコノミー~┃DATA DESIGN by NIFCLOUDよりデータ引用
夜の街が明るい都市1位は歌舞伎町を擁する東京都中央区、2番目は大阪一の繁華街難波(なんば)がある大阪市中央区、3位はすすきのが位置する北海道札幌市中央区でした。
いずれも日本有数の繁華街とともにあるため、納得の順位ですね。
さらに3都市の人通りが感染拡大前、緊急事態宣言前、前年同月から記事執筆時点(2020年7月28日(火))までの間にどのように変化しているかを見てみましょう。
新宿歌舞伎町 | なんば駅 | すすきの駅 | ||
---|---|---|---|---|
15時台 | 対感染拡大前比 (1/18~2/14の15時台平均) | -56.1 | -26.8 | -31.9 |
対緊急事態宣言前比 (4/7の15時台) | 14 | 18.1 | -3.1 | |
対前年同月比 (15時台平均) | -52.7 | -17.3 | -19.2 | |
19時台 | 対感染拡大前比 (1/18~2/14の19時台平均) | -42.7 | -35.2 | -47.1 |
対緊急事態宣言前比 (4/7の19時台) | -7 | 35.4 | 4.7 | |
対前年同月比 (19時台平均) | -38.8 | -22.9 | -41.7 |
新型コロナウイルス拡散における人流変化の解析「東日本エリア」「西日本エリア」2020/07/29┃株式会社Agoopよりデータ引用
3都市とも幅はありつつも傾向は一致しており、感染拡大前・前年同月よりは大幅に人通りが減ったこと、緊急事態宣言前よりは増えている(もしくは並びつつある)ことがわかります。緊急事態宣言前よりは人々の間にコロナ禍慣れが生まれ、連日100名以上の新規感染者が報告されても以前ほどは外出が控えられなくなったと考えられます。
最後に夜の街と関連する面白い研究をひとつご紹介しましょう。
それは、“夜の街の活発さ(夜間光の強さ)がその国の実態を表す”という研究です。上智大学経済学部経済学科の倉田正充准教授の研究において、バングラデシュ周辺の夜間光量と「人口密度」「工業化の進展」「インフラ整備」「成人識字率」などに正の相関が、「貧困率」「農業セクター雇用者の割合」「低体重児童の割合」などに負の相関が見られたことが報告されています。豊かな国ほど夜の街が元気というのは、感覚的にもしっくり来る気がしますね。
夜間光を指標とすることで、データの信頼性の低い国の「真のGDP」を推定したり、産油国で減産協定が順守されているかどうかを確認したりすることが可能になるといわれています。
2017年には東京大学大学院経済学研究科の渡辺努教授とビッグデータ・ベンチャーナウキャストにより、夜間光量をもとに正確なGDPを算出するシステムが開発されました。
同システムでも利用されている気象衛星「スオミNPP」の夜間光データはNOAA(アメリカ海洋大気庁)のサイトから取得可能です。
感染者数に占める割合、現在の人通り、GDPとの関係……。さまざまな夜の街の顔をご紹介してきました。
ウィズコロナ、アフターコロナの時代、夜の街と私たちの付き合い方は今までとは違ったものになることが予測されます。
台湾の夜市が大好きな身としては、夜の街文化が衰退してしまうのは悲しいことです。これからの夜の街を支えるためにデータを活用しつつ、新しい過ごし方を模索して行きたいですね。
参考資料 ・都知事 夜の街への外出控えるよう呼びかけ┃日テレNEWS24 ・報道発表/令和2年(2020年)┃東京都のデータ ・“夜の街”を上回り...東京で「家庭内感染」が最多に 軽症者ホテルの確保は┃FNNプライムオンライン ・日本、きらめく夜の街ランキング~衛星データから分析するナイトタイムエコノミー~┃DATA DESIGN by NIFCLOUD ・世界初、ビッグデータと衛星画像でGDP推計 公表値との違いも指摘┃Newsweek ・倉田正充「低所得国における夜間光と社会・経済指標の相関関係」┃上智経済論集 第 62 巻 第 1 ・ 2 号 ・VIIRS Daily Mosaic┃NOAA ・SuomiNPPとは?┃とらりもん ・新型コロナウイルス拡散における人流変化の解析┃株式会社Agoop
(宮田文机)
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