新型コロナウイルスの世界的流行など、この数年だけで世界は何度も予想しえない事態に直面しています。
VUCAの時代(詳しくはコチラ)と言われる現代、企業の平均寿命が23年前後を行き来する状況(東京商工リサーチ調べ)で、経営者が生き残りのために取り入れたい考え方が「レジリエンス経営」です。
本記事では、レジリエンス経営とは何か、どうすれば実現できるのかなどについて解説してまいります!
「レジリエンス経営」とは、“危機が訪れても柔軟に対応することのできるレジリエンス(resilience:回復力)の高い企業の経営手法”を意味します。ここでミソとなるのが、危機を未然に防ぐことではなく、危機へ適切に対応し回復することに重点が置かれているという点です。ビジネス環境の変化や災害、世界情勢の変化を完全に退けるのは不可能です。その事実を認めることがレジリエンス経営の第一歩となります。
野村総合研究所(NRI)フェローの青嶋稔氏は、レジリエンス経営を推進するポイントとして以下の4つを掲げています。
1.ダイバーシティ&インクルージョンの推進
2.シナリオプランニングによる未来のシナリオの作成
3.OODA-Loopによる変化への対応力の増強
4.自律分散型組織の構築
出典:青嶋 稔『第4回 変化対応力を高めるレジリエンス経営(後編)<企業価値を向上させる日本企業経営のあり方>』┃知的資産創造2021年9月号
組織の多様性は単なる理想像ではありません。変化の可能性を高め、生き残りの可能性を高める経営戦略です。女性やLGBTQ、障害を持つ方々など、多様な人材の活躍を後押しすることで組織の柔軟性を高めるのが「ダイバーシティ&インクルージョンの推進」です。
シナリオプランニングは、自社の内部・外部で起こりうる変化を洗い出し、複数のプランを用意すること。データのじかんで以前ご紹介したSF思考はその一助となるはずです。
OODA-Loopについてはすでにご存じの方も少なくないでしょう。「Observe(見る)→Orient(わかる)→Decide(決める)→Act(うごく)」のサイクルで、環境の変化に合わせ“動きながら考える”VUCA時代の思考法で、『タイムくん』でも取り上げられてています。
最後の自律分散型組織は自律(自立)した個人が企業理念をもとに集まることで構築された組織のことで、トップダウンを基本としたピラミッド型の組織に比べ、変化に強いことが指摘されています。
このようにレジリエンス経営は組織作りとビジョンの策定、そして仕組みづくりなど経営戦略の深いレイヤーで行われることを想定しています。企業体質をがらりとかえる覚悟をもって、その導入に挑みましょう。
TABLEAU常務執行役員/カントリーマネージャーの佐藤豊氏は、「不確実な時代にはデータが企業に自信とレジリエンスをもたらす」(※)と指摘しています。
YouGov社の日本及びアジア太平洋地域に関する調査において、日本でデータドリブンな企業の75%が「パンデミック下で自社は圧倒的な優位性を持っているという点に同意した」(※)という結果も出ています。
「戦略的なビジネス上の意思決定を迅速に行える」「ステークホルダーとの効果的なコミュニケーションが促進される」「チーム間のコミュニケーションが増加する」「ビジネスの機敏性が高まる」など、データにより企業・ステークホルダー間のつながりが強まり、変化への柔軟性が高まることが結果として企業に回復力をもたらしているようです。
例えば出入国の制限によりサプライチェーンの分断が生じたとき、データによるSCM(サプライチェーンマネジメント)に取り組めていた企業とそうでない企業では、対応に大きな差が生じたはずです。
また、レジリエンスとデータに関する考え方で興味深いのが、「逆境をデータのように扱う」(※2)という考え方です。これは、Salesforceの事業開発部門、グローバル責任者のJesse Sostrin氏が2020年に公開したブログ記事『Stop Taking Adversity So Personally』で紹介されています。
逆境を戦う相手ではなく、ただ身の回りで起きている事実と捉えるのがリーダーとして好ましい態度であるとSostrin氏は綴っています。また、レジリエンスは常に発揮されなければならないものではないとのこと。優先順位を見極め、いい意味で状況に流される勇気を持つのもレジリエンスの一種ということでしょう。
冷静に逆境に対処するためにも長期的な目線でレジリエンス経営には取り組んでいきたいですね。
※…引用元:佐藤 豊『不確実な時代にはデータが企業に自信とレジリエンスをもたらす ~ データ利活用の意識調査(アジア太平洋地域と日本を対象)で判明』tableau
※2…引用元:ビジネスリーダーに必要な真のレジリエンスとは?┃salesforce blog
レジリエンスという概念はそもそも、第二次世界大戦後の孤児に対する追跡研究を通じ、“重大な逆境を跳ね返す・上手く対処する能力”として見出されたといいます。
当然ながら、個人のレジリエンスが高い企業は、企業としてのレジリエンスも高くなると考えられます。レジリエンス経営においては、いかにレジリエンスの高い社員を育成するかという視点も必要になってくるでしょう。
先に取り上げた青嶋稔氏の記事でも取り上げられている、キリンホールディングスの『なりキリンママ・パパ』などは組織を構成する個人のレジリエンスを高めることにつながる企業の取り組みとして興味深い事例です。
これは実際には子どものいない社員が子どもがいるという状況を1カ月単位で疑似的に体験するという取り組みで、期間中は出社時間・退社時間が決められ、『キリン保育園』から電話がかかってきたという設定で電話を受け、退社しなければならない場合もあります。
仮想的に制約を設けることで、『なりキリンママ・パパ』体験者は「子育て」という一大業務を背負ったうえで働く訓練を、チームのメンバーは事情を慮り補いあう訓練を積むことができます。結果として部署にバッファが生まれ、チームとしての結束の強化にもつながると考えられます。
このように、あえて将来起こりうる変化を今実現し訓練してみるのは、個人、ひいては企業のレジリエンスを高めるのに効果的でしょう。同様に、変化の「予行訓練」を行った取り組みとしては、クラウド会計サービスを提供するfreeeで、標的型攻撃とランサムウェアを組み合わせたサイバー攻撃被害の対処訓練が行われたことなども思い浮かびます。
レジリエンス経営とは何なのか、どうすれば実現できるのかについて、さまざまな言説を参照しつつ論じてまいりました。記事中でとりあげたOODAループやダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)など、近年注目のビジネス用語はレジリエンス経営と密接に関わっています。これらに共通するのが、“変化に柔軟に対応できる企業づくり”という視点です。
──貴社は変化に対応できそうですか?
まずは、“どんな変化が起こりうるのか”から考えてみてください。
【参考資料】 ・レジリエンス(MBA用語集)┃グロービス経営大学院 ・青嶋 稔『第3回 変化対応力を高めるレジリエンス経営(前編)<企業価値を向上させる日本企業経営のあり方>』┃知的資産創造2021年8月号 ・青嶋 稔『第4回 変化対応力を高めるレジリエンス経営(後編)<企業価値を向上させる日本企業経営のあり方>』┃知的資産創造2021年9月号 ・2020年「業歴30年以上の“老舗”企業倒産」調査┃東京商工リサーチ ・佐藤 豊『不確実な時代にはデータが企業に自信とレジリエンスをもたらす ~ データ利活用の意識調査(アジア太平洋地域と日本を対象)で判明』tableau ・ビジネスリーダーに必要な真のレジリエンスとは?┃salesforce blog ・田 亮介 、田辺 英 、渡邊 衡一郎『精神医学におけるレジリアンス概念の歴史』┃精神神経学雑誌 ・キリン人事施策「なりキリン」でパパママになり切る┃日経XWOMAN ・高橋睦美,ITmedia『自社のDB破壊しCEOに身代金要求、freeeが本当にやったクラウド障害訓練の舞台裏 「従業員はトラウマに」』┃CLOUD Use by ITmediaNEWS
(宮田文机)
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