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日本人は「奥ゆかしすぎ?」の側面も! 観光資源の豊かさが高評価、観光競争力で 日本が初の首位に

WEF(世界経済フォーラム)は5月24日、世界117の国と地域の観光競争力をランキング化した「旅行・観光開発指数2021」を発表しました。この調査の最新版では欧米各国を抑え日本が初めて1位を獲得しました。WTO(世界貿易機関)によると観光業は世界で3番目に大きな産業分野とされており、明るい未来の兆しがやっと見えてきました。

         

旅行・観光開発指標とは

旅行・観光開発指数2021」は、観光に関する各国の政策や観光資源の豊富さなどを評価するものであり、UNWTO(国連世界観光機関)やIATA(国際航空運送協会)などをはじめとする国際機関の統計データをもとに、各国・地域の観光競争力を数値化しています。
スイスのダボス会議を主催することで知られる世界経済フォーラムは、2007年の調査開始以来、約2年に1回のペースで本調査を行っています。

詳しくは後述しますが、日本固有の観光資源の豊富さや、交通や宿泊といった観光インフラの利便性などが特に高く評価され、大きく順位を伸ばす結果となりました。

観光産業の新たな潮流「サステイナブル・ツーリズム」

観光産業は、旅行業と宿泊業を中心に、運輸業、飲食業、製造業などにまでまたがる幅広い産業分野です。この数十年にわたり、観光産業は成長を続けながら多様性を増し、世界で最も成長速度が速い経済分野の一つとなりました。現代の観光産業は開発と密接につながり、新たな旅行先も増えています。

これらが原動力となり、観光産業は社会経済を進展させる重要な推進力となっています。観光産業は国際通商において主要な一角を占めており、それと同時に、多くの発展途上国にとって主な収入源の一つとなっています。

ダボスで行われた世界経済フォーラム年次総会2022では、旅行・観光産業の回復状況、パンデミックで得た教訓、観光地が発展する上で不可欠な条件について、ビジネスリーダーによる意見交換が行なわれました。

「バーチャル市場とサステナビリティに対する意識の高い旅行者に適応しなければ、旅行と観光産業が生き残ることはできません」片野坂真哉氏(ANAホールディングス株式会社代表取締役会長)

1990年代以降の観光業にまつわる世界的な潮流を特徴づけるキーワードは「サステイナブル・ツーリズム(持続可能な観光)」です。これは、世界的な環境問題への意識の高まりとともに注目された「サステイナブル・デベロップメント(持続可能な開発)」の理念と深く関わるものです。

「サステイナブル・ツーリズム」とは従来の消費収集型の観光開発、そして従来型マス・ツーリズムの問題点、開発に伴う環境問題や地域の文化、歴史遺産の軽視などを克服する取り組みであるといえます。この理念は、観光の新たな潮流を示す諸概念の基盤となるものであり、アフターコロナの現代の観光においては特に避けることのできない課題です。

UNWTOでは「サステイナブル・ツーリズム」の定義を「訪問客、業界、環境および訪問客を受け入れるコミュニティーのニーズに対応しつつ、現在および将来の経済、社会、環境への影響を十分に考慮する観光」と定めています。

このように、世界では国際観光市場の発展と成長が期待されており,国際観光客の誘致がいっそう重要となっています。国際観光客から旅行選定先として選ばれる存在にならなければなりませんが、それは競合他国が多く存在しているということでもあります。

旅行・観光開発指標における調査因子の特徴

「旅行・観光開発指数 2021」は、各国の観光資源の豊富さや観光インフラの整備レベル、それらの持続可能性を複数の国際機関の調査から数値化しランキング化しています。分析にあたっては複数の評価軸が設定され「環境整備(治安・医療など)」「旅行・観光政策」「観光インフラ」「観光資源」「持続可能性」の5つのサブインデックスに大別されています。

今年の調査から新たにサブインデックス下に追加されたピラーには「非レジャーリソース」「社会経済力レジリエンス(Resilience:強靭)」「観光需要の圧力と影響」があります。具体的にみると、観光業界の長期的発展にとって持続可能性がいかに重要かを強調するため「環境面の持続可能性」「社会経済力レジリエンス」「観光需要の圧力と影響」のピラーは新しい「持続可能性」のサブインデックス下にまとめ直されました。

また、自然・文化資産以外の対象概念の拡大を反映した結果「自然・文化資源」のサブインデックスは「観光資源」と改名されました。

旅行・観光開発指数 インデックスの構造変化箇所 (出典:World Economic Forum. The Travel & Tourism Development Index 2021)

世界経済フォーラムが発表した最新の「旅行・観光開発指数フレームワーク」では、旅行・観光産業をより包摂的で持続可能、かつレジリエント(強靭)なものにすることで、業界をより良く再構築することの必要性を強調しており、これにより将来の経済的・社会的発展を促進する潜在力が引き出されることが期待されています。

環境整備の例を挙げると、質の高いインフラや保健衛生は持続可能性の概念であると言えます。より広範には、社会経済的な回復力の向上や人材やICTへの投資といった政策は、しばしば相互に大きく関連しているからです。

指標の数が増え、いくつかのピラーで構成が変わったことは、この調査がセクターの構造をより広くカバーするようになったことを反映しています。新しい指標は、過密リスク、均等な労働機会の提供、環境保護、観光産業におけるデジタルプラットフォームの利用の増加、宿泊施設の短期レンタルの増加といった、新たなトピックスのカバーに役立っています。

最新の調査から見えた日本の評価

今回、日本は調査を開始した2007年以来初となる首位を獲得しました。1位から10位までのランキングは以下のようになっています。

旅行・観光開発指数 2021総合ランキングTOP10 (出典:World Economic Forum. The Travel & Tourism Development Index 2021)

欧米とアジア・大洋州の経済大国が上位に並ぶ結果となりました。前回行われた2019年の調査から、上位の顔ぶれに大きな変動は見られませんでした。

日本の評価ポイントは資源の豊かさとインフラ

日本が首位を獲得する原動力となったのが、自然・文化資源の豊富さと、観光インフラの利便性です。新型コロナウイルスに関連する入国制限により外国人観光客が入国できなかった2021年においても、日本の文化は高い人気を得ていたことがわかります。そこに交通機関の安定性、宿泊施設の充実といったインフラ面の充実が加わり、ハード・ソフトの両面で高評価を得ることになりました。

日本においては、観光立国宣言など国政レベルで意識が大きく変わったのが2003年。観光の経済効果の大きさ、世界的な観光ブームを受け、そこから日本政府は観光重視の姿勢を強めてきました。ビザの要件緩和、免税対象の拡大などに取り組みながら、2020年の東京オリンピックの誘致が決定して以降、インフラ整備がより急速に進みました。

東京オリンピックには海外からの観客を受け入れることはできなかったものの、これらの要因が相互に作用し、政府支出や国のブランディングに関しての評価項目がある「旅行・観光業の優先」の順位を大きく牽引したものと考えられます。その国の観光産業に対する重要性を示している国際機関への観光データの提供の完全性と適時性が評価された結果、前回調査時から15位も順位を上げた結果となっています。

2021年版の日本のデータを追記した旅行・観光開発指数フレームワーク (出典:World Economic Forum. The Travel & Tourism Development Index 2021 dataset)

日本で今後ブラッシュアップが期待される2つのポイント

ひとつひとつのピラーを見ていくと、環境整備サブインデックスの「人的資源と労働市場」と「ICTレディネス」が前回の調査よりも大きく順位を落としていることがわかります。これらの項目では、他国の方がよりスピーディーに整備を進めていると判断されていることが読み取れます。諸外国の状況と合わせてこれらの指標の定義を確認してみました。

人的資源と労働市場、ICTレディネスのTOP10および日本の順位比較 (出典:World Economic Forum. The Travel & Tourism Development Index 2021)

人的資源と労働市場

質の高い従業員の確保と、労働市場の活力、効率性、生産性を測定したものです。質の高い労働力については、経済的ニーズへの教育システムの対応力、民間部門の人材育成への関与などが評価されており、労働市場の柔軟性、効率性、開放性、接客業、外食業、運輸業の労働生産性を調査しています。

ICTレディネス

ICTインフラとデジタルサービスの開発と利用を測定したものです。例えばモバイルネットワークのカバレッジや電力供給の存在だけでなく、デジタルプラットフォームが情報通信や関連サービスにどの程度使用されているかを測定しています。

デジタル化によって消費者のインサイトや嗜好を収集し、オペレーションを最適化して取引コストの削減に繋げながらプロセスを自動化することができます。そのため、ICTへの対応力が高い都市は需要動態が変化する中でも市場を多様化させることができ、デジタルノマドの増加や自然関連旅行の増加といったトレンドを活用するのに有利な立場にあるといえます。日本においても、このようなデジタル化のメリットを効果的に活用できる基盤整備が必要とされています。

奥ゆかしすぎ!? 世界と比べて低い日本人の自国評価

世界における自国の評判が下がった場合に、最も直接的な影響を受けるのは経済です。一般市民が持つ各国の印象は、移住やビジネス、投資、観光に影響します。ここまで見てきた観光競争力調査は、まさに他国評価が軸となった調査でした。では、日本人の自国評価についてはどのような傾向があるのでしょうか。

世界5ケ国におけるクリエイティビティに関する意識調査をみると、世界から見た最もクリエイティブな国は日本で、最もクリエイティブな都市は東京であるという結果になっています。その一方「自分はクリエイティブである」と認識している日本人は13%にとどまっており、他国評価と自己評価の差が大きく開いていることがわかります。自分を控えめに評価しがちな日本人の国民性が表れている一例だといえるでしょう。

世界で最もクリエイティブな国と都市(出典:Adobe Systems “STATE OF CREATE 2016”)

クリエイティビティに関する意識調査 (出典:Adobe Systems “STATE OF CREATE 2016”)

ランキング1位を追い風にさらなる観光業の活性化を!

世界経済フォーラムのレポートは、新型コロナウイルスのパンデミックについて「近現代の旅行・観光産業にとっての最悪の危機である」としています。世界的な危機に対応するためにも「観光・旅行業界のさらなる開発の必要性はかつてないほど高まっている」と指摘し、その必要性を訴えています。世界経済を上向かせる原動力となるためにも、海外旅行の全面的な再開・復興が待たれます。

今回のWEFの調査は他国評価がベースであり、日本が世界に評価されていることが形となって現れています。昔から日本人は、円滑な人間関係を保つために婉曲な表現を好んで使うなど、和を重んじた控えめな態度を美徳とする独自の文化を持っていますが、謙虚になりすぎずにもっと自信を持っても良いのではないでしょうか。

もちろん、今年の評価に慢心してはいけませんが、世界首位というランキングは誇るべき評価です。観光客に対する入国手順の簡素化など現状の課題を早急に改善し、世界一魅力があると評される日本市場活性化の追い風とする機運がより一層求められています。

 

小野寺 恭子(おのでら・きょうこ)氏
会社員時代に秘書サービスの個人事業主として開業後、観光地域づくり法人に転職しサステナビリティコーディネーターとして定量及び定性データの収集・分析業務に携わる。「やりたい仕事がないなら作ってしまおう!」と題し、NPO法人ハーベストで高校生向けの社会人講師として常識にとらわれない多様な働き方を推進。日本国際観光学会 観光への知的財産権活用研究部会員、知的財産アナリスト(コンテンツ)、第1回芝浦ビジネスモデルコンペティションファイナリスト。
データサイエンスの自学自習を支援するパラレルキャリア研究会所属

 
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