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自動化、VUCA、多様化、モノからコトへ……このようなキーワードが象徴する現在の社会状況の到来が、1970年の論文ですでに予言されていたことを、皆さんはご存じでしょうか?
そのタイトルは『SINIC理論─未来へのアプローチ』。電子機器、ヘルスケア製品などで知られるオムロン(株)の創業者である立石一真氏により打ち立てられた「SINIC理論(サイニック理論)」を論じる目的で執筆されました。同論文によると現在は「情報化社会の“次”」にあたる「最適化社会」のただなかにあり、これから「自律社会」→「自然社会」と社会は発展していくのだとか。
「SINIC理論」の骨子と、これから訪れる社会の変化について見ていきましょう!
まずは、「SINIC理論」とはいったい何なのか? という基本事項について解説いたしましょう。その理論を構成するアルファベットが意味するのは以下の3つの要素です。
・Seed-Innovation:革新の種
・Need-Impetus:刺激の必要性
・Cyclic Evolution:円環の発展
「SINIC理論」の未来予測においてベースとなるのが、“技術・社会・科学の相互作用によって未来は創られる”という考え方です。一般相対性理論がGPSの位置情報の補正に用いられ、それが社会に受け入れられることでGoogleマップのような便利なサービスを我々が享受できています。このように、科学は技術を生み、社会を発展させる「革新の種」であり、反対に社会は技術を必要とし、技術は科学に刺激を与え、「刺激の必要性」が駆動します。この双方向の作用がらせん状に円を描き、社会を発展させていくのが「円環の発展」というわけです。
『SINIC理論─未来へのアプローチ』では、西暦2033年をひとつの到達点として社会の発展を以下の11段階に区分しています。
(1)原始社会(1000M B.C. – 12M B.C.)
(2)集住社会(12MB.C. – 700B.C.)
(3)農業社会(700B.C. – 1302)
(4)手工業社会(1302 – 1765)
(5)工業化社会(1765 – 1876)
(6)機械化社会(1876 – 1945)
(7)自動化社会(1945 – 1974)
(8)情報化社会(1974 – 2005)
(9)最適化社会(2005 – 2025)
(10)自律社会(2025 – 2033)
(11)自然社会(2033-)
論文では主に、上記の11段階それぞれの特徴や進歩曲線を導き出すための数学的アプローチについて取り上げられています。
SINIC理論によると、2023年現在は2025年まで続く「最適化社会」にあたり、その後、「自律社会」(2025 – 2033)、「自然社会」(2033-)と社会は発展していくことが予測されています。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
「最適化社会」とは、情報化社会の次に到来する社会であり、たとえば個々人の嗜好や用途に合わせた製品を大量生産のボリュームを持って生産する「マス・カスタマイゼーション」のように、情報テクノロジーを中心とする技術を個人や社会課題の解決に向けて最適化することを志向します。それまでの物質的な豊かさを進歩の基準とする工業社会から、大変革を迎えるのがこのタイミングであり、現在のVUCAや「100年に一度の大変革期」といわれる自動車業界の状況などは、まさにその様相を反映しています。
最適化社会を経て、物質から人間中心の社会へシフトした私たちの社会は、2025年以降、「自律社会」となり、人々は社会や組織からのコントロールを必要とせず、それぞれの新しいものを創造することへの自律した志向によって社会は発展していくことになります。これはたとえば、組織のメンバー一人一人の自律した意思決定により存在目的を発揮する「ティール組織」の概念と重なります。
2033年以降の「自然社会」は、SINIC理論を超えた領域でありながら、最初期にあたる「原始社会」へ循環的に戻ったともいえる社会です。そこでは自らによる管理──自律すらなく、ホモ・サピエンス(ラテン語で「知恵ある人間」)の発展の駆動力であった理性以外の存在が人類を駆動すると考えられます。
SINIC理論を専門に取り扱う『SINIC.media』の記事『OMRON Human Renaissance vol.3「SINIC理論から、2020年代の社会をつかむ」(1)』では、産業技術総合研究所主任研究員/慶應義塾大学SFC 特別招聘教授/メディアアーティスト 江渡 浩一郎氏による「自然社会とシンギュラリティ(人工知能の賢さが人類を超える“技術的特異点”)の符号」に関する分析が紹介されています。
最適化社会に至るまで「SINIC理論」ですが、その内容に必要なアップデートについて書籍『SINIC理論 過去半世紀を言い当て、来たる半世紀を予測するオムロンの未来学 』では考察されています。
そこでまず更新の対象とされているのが、「一人当たりGNP(国民総生産)」を基準としていること。SINIC理論では、その範疇にある社会発展の到達点である「自律社会」の到来を“一人当たりGNPが4万米ドルを超えたとき”と設定しており、その段階はすでに達成されています。
※…GNI(国民総所得)。GNPが名称変更されたが、同じ金額を表す。
※引用元:資料5 事務局資料②参考<第1回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会┃経済産業省
また、すでに日本ではGNP、GDPの伸び悩む低成長時代が訪れていることはご存じのとおりです。
そこで、検討されているのが物中心の価値観に基づいた「GNP」とは異なる、「GNH(国民総幸福量)」や「OECDよりよい暮らしイニシアチブ(Better Life Index: BLI)」、「新国富指標」などを新たな指標として用いることです。
ほかにも、以前はなかった「科学-社会」間の相互関係や、心-物、集団-個人と対比されるもの同士の関係性について、より解像度を高めるアップデートが提案されています。
現在に至るまでの社会の歩みを正確にとらえるレベルの高さから、注目を集めるSINIC理論。アップデートが必要とされる個所はあるものの、1970年時点で、情報化社会、最適化社会の到来を予測していた点は確かに驚異的です。「SF思考」などデータのじかんで過去に取り上げた未来予測(創造)の手法と合わせることで、今後到来するという「自律社会」「自然社会」像の解像度をより高めてみるのも面白いかもしれませんね。
【参考資料】 ・中間 真一 (著)『SINIC理論 過去半世紀を言い当て、来たる半世紀を予測するオムロンの未来学』日本能率協会マネジメントセンター、2022 ・未来を描く「SINIC理論」┃omron ・未来社会の見方┃SINIC.media ・OMRON Human Renaissance vol.3「SINIC理論から、2020年代の社会をつかむ」(1)┃SINIC.media ・資料5 事務局資料②参考<第1回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会┃経済産業省
(宮田文机)
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