7月11日は「世界人口デー」です。1987年に全世界の人口が50億人を突破した日を記念して、国連人口基金(UNFPA)が制定しました。人口といえば、マーケティング施策を進める上で、ターゲットとする商圏の人口構成や世帯構成などの調査は付き物です。そんな時に役立つのが、総務省統計局が発表している人口統計のデータです。具体的には、5年に1度行われる国勢調査のほか、人口推計、住民基本台帳人口移動報告などが挙げられます。実は、統計局が発表しているこれらの調査データは宝の山! それぞれの違いを押さえ、賢くビジネスに利用してみましょう。
誰もが一度は聞いたことがある「国勢調査」。5年に1度、日本国内に居住する人を対象に実施される大規模な調査で、前回は2015年に行われました。その調査票を積み上げると、富士山の約3倍の高さに相当するそうです。次回2020年は、東京2020の開催年でもあり、また日本で国勢調査が実施されるようになってからちょうど100年という節目の年に当たります。
しかしこの国勢調査について、調査票に回答したけれど、実際にどう役立っているのかわからないという方が多いのではないでしょうか。
国勢調査というと、「国の勢い」を調査すると思われがちですが、実はこの「勢」は「情勢」の意味です。情勢とは「変化している状況の現在の様子」を意味し、国勢調査の目的は「我が国の人口・世帯の実態を明らかにすること」です。日本国内に居住している人・世帯の実態を調査するので、外国人も調査の対象となります。また、学生など、住民票を移さずに東京に住んでいるという人の場合は、現在の居住地域で調査を受けることになります。
調査票のサンプル(PDF:277KB)を見ると、「これで何がわかるんだろう?」と思うかもしれません。実はここから、国全体の人口の増減から各地域の人口の推移、外国人が多い地域や、各地方の商圏が推計できるのです。
国勢調査でわかることについてはまた後ほど取り上げるとして、実はこうした人口や世帯に関する統計は、統計局から複数発表されています。具体的には、人口推計や住民基本台帳人口移動報告です。では、それぞれどのような違いや特徴があるのでしょうか。次の表にまとめました。
国勢調査-簡単にいうと「日本に住んでいる人・世帯の情勢がわかる」 | 人口推計-簡単にいうと「日本の人口の推移がわかる」 | 住民基本台帳 | |
概要 | 「日本に居住している全ての人及び世帯」を対象に5年に1度実施されるもので、統計法により国の最も重要な統計調査として「基幹統計調査」と位置付けられている | 5年に1度の国勢調査の「間」を補う推計データとして、国勢調査で得られた人口を基準とし、厚生労働省の統計による出生数や死亡数など自然増減や、法務省の統計による出入国者数など社会増減のデータを加減し、毎月発表している | 住民基本台帳をもとに、毎月転入届を出した人の数を年代別などで集計して、人口の移動状況を明らかにし、都道府県別には毎月、市区町村別には毎年発表している |
特徴 | 実際に日本国内に居住するすべての人を対象に、その居住地で調査していること。これにより、住民基本台帳にある住民票に基づく人口と、実際の人口との差が明らかになるため、実態に基づく行政が可能になる | 次の国勢調査までの5年間における人口の動きを推計することで、より精緻に細かく傾向を把握できる。たとえば2015年の国勢調査で、「国勢調査開始以来、初めて人口減少に転じた」ことがわかったが、人口推計で年別の増減を見ると、2008年がピークであったことがわかる | 都道府県・市区町村レベルでの人の動きを把握できる。東京一極集中など人口移動の現状がわかり、地方創生政策などで利用されている |
表:国勢調査、人口推計、住民基本台帳人口移動報告の特徴
国勢調査と人口推計については、「人口推計は国勢調査の『間』を補完するデータ」として密接な関係にあり、これにより人口の推移がより精緻に把握できます。
一方、住民基本台帳人口移動報告とは、住民基本台帳の転入届を集計したもので、地域別人口の変動要因(人口の出生・死亡、人口の移動)のうち、人口の移動に着目した統計データになります。いつ、どの年代の人が、どこから転入してきたかを明らかにすることで、各地方行政の企画立案に貢献しているほか、地方創生アイディアの原資として活用されています。
余談ですが、実はこうした統計局で公表している各統計データについては、統計局へ問い合わせすれば教えてもらえるそうです。「似たような統計がたくさんあるので、どれを使ったらいいかわからない」という場合、統計局に問い合わせしてみるのも良いでしょう。
これらのデータは、主に国政や地方行政の政策立案で活用されます。身近かつ大きな政策でいえば、衆議院の選挙区の区割りには国勢調査のデータが利用されています。またユニークなところでは、人口集中している居住区がわかるため、ドローンの飛行禁止空域を決める際にも国勢調査データが活用されているそうです。
ほかにユニークなところでは「昼間人口」と「夜間人口」の差なども出しています。これは国勢調査の質問票にある「従業地又は通学地」のデータをもとに集計したもので、これによると、特に都心部では昼間人口と夜間人口の差が激しいとのこと。このページ(PDF:815KB)を見ると、千代田区・中央区・港区・渋谷区・新宿区では、昼間人口が夜間人口の何倍にもなっています(リンク先PDF13ページ参照)。もし飲食店を開くのなら、昼の客層と夜の客層、どちらにターゲットをしぼるかで、形態がまったく異なると予想できます。
図1:昼夜間人口比率-東京都特別区部(平成 27 年)
国勢調査や人口推計、そして住民基本台帳人口移動報告は、人口や世帯に関するデータとしてはどこよりも詳しく正確なデータです。行政を始め、研究調査やビジネスの中で出てくる人口に関するデータといえば、多かれ少なかれ国勢調査の結果が入っていると考えられます。
特に国勢調査のデータは、実は非常に細かく、「市区町村の町丁字別にどういう年代や構成の世帯が多いか」ということまで把握できます。地図データと連動して提供されているので、出店計画や支店、営業拠点の進出の足がかりとしても活用できます。
冒頭で説明したように、第21回となる2020年の国勢調査は、調査が開始されてからちょうど100年という節目の年。「面倒だな」と思わず、この統計データは自分の仕事に役立つと思って、調査に回答しましょう。
取材協力
総務省 統計局 統計調査部 国勢統計課
企画担当課長補佐 羽鳥記章氏
総務省 統計局 統計調査部 国勢統計課
統計専門官(企画担当) 高野義幸氏
総務省 統計局 統計調査部 国勢統計課
審査担当課長補佐 西千奈美氏
総務省 統計局 統計調査部 国勢統計課
人口推計・人口移動担当課長補佐 本橋千登美氏
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