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生成AIは世界を加速させる–第3回:日本企業が取るべき次の一手とは

生成AIがビジネスや官公庁の現場に導入が始まり、やがて一般企業にも次第に普及していく時代になるでしょう。DX導入が遅れて労働生産性が非常に低い日本企業は、AIを利活用している企業との差が激しくなるばかりです。第3回は生成AI時代の到来を見据えて、日本の企業は次の一手をどうすべきかをビッグテックや欧州の戦略を参考に考察してみます。


第1回|生成AIは世界を加速させる:生成AIが挙げる「成果」と「変貌」
第2回|生成AIは世界を加速させる:欧米の生成AI戦略「データの民主化」
第3回|生成AIは世界を加速させる:日本企業が取るべき次の一手とは(本記事)

         

登場人物

大学講師の知久卓泉(ちくたくみ)
眼鏡っ娘キャラでプライバシーは一切明かさない。

五里雷太(ごりらいた)
IT企業に勤めるビジネスパーソン。

 

※図版:筆者作成 プラットフォーマーとデータの民主化

データの民主化とは

 ゴリくん

前回の講義は、欧州の戦略を話す前に終わってしまいましたので、今回はその続きからですね

 チクタク先生

そうです。前回と同じ図になりますが、説明に必要なので再掲しておきます。欧州はアメリカのメガプラットフォーマーに対抗し国際競争力強化のために、先ほどの図の右側のようなコンセプトを提唱しました。(註1)
ここでデータスペース(Data Space)とは、国境を越えた様々な関係者が、データを安心して使えるように同じルールで管理されたデータ共有基盤です。そしてデータの民主化(Data Democratization)とは、組織が持つデータを、組織の関係者全体で共有するというコンセプトになります。データコネクタは、組織や企業がデータスペースにアクセスするための仕組みのことです

 ゴリくん

特定のプラットフォーマーに依存しないような枠組みを作ったのですね。実際には、どのような領域で利用するのでしょうか?

 チクタク先生

今回のパンデミック発生で、半導体や自動車など様々な製品のサプライチェーンが分断されてしまいました。現代社会は単独の企業だけで製品を製造することはできないので、今後は災害に強い強靭なサプライチェーンを構築する必要があります。そのためには数多くの企業から、製品の種類や価格、納期などの情報をプールして共有することが必要になります。
またSDGsの観点からもサプライチェーン全体でのCO2排出量のモニタリング(カーボンフットプリント・CFPの測定)も必要です。例えばAppleは2030年までにサプライチェーンの100%カーボンニュートラル達成を目指し、サプライヤーにはコミットメントの設定と、排出量等のエビデンス提出を求めています。このように各国の企業が協力しないと実現できないような場面を想定しています

 ゴリくん

なるほど、素晴らしい取り組みですね。別に対アメリカ戦略ではなく、世界全体としても必要な枠組みじゃないですか

 チクタク先生

このような公的な基準とかルールは、イニシアチブを誰がとるかが重要なのです。ICTに関するルールは、大半をアメリカ企業が主導しているので、アメリカが有利なルールになっています。欧州はドイツが中心となって積極的にこのデータスペースやデータコネクタに関するルールを策定して、既に実装を始めている段階です。つまり欧州以外の国が参画しようとしても、公開されているルールブックに準拠するしかないのです

 ゴリくん

日本からみると、アメリカのメガプラットフォーマーから欧州製プラットフォームに移っただけのようですね

 チクタク先生

そうでもありません。企業にとってデータが最も重要な武器だという、データの民主化という考え方そのものは、製造業が多い日本企業では、とても大切な考え方です。ところが社内に貴重な品質管理データや製造ノウハウが大量にあっても、死蔵しているだけで有効活用できていないメーカーが多いのが実態です

 ゴリくん

ではどうすればよいのですか?

 チクタク先生

前述したように生成AIに自社のデータやノウハウを学習させて、独自のサービスを販売するなどを検討すべきです。教育産業なら、大量にある生徒の学習進度と教材の関係性を分析したデータなどは有効だと思います。また、世界に誇るトヨタの”カンバン方式”は、サプライチェーン・マネジメントにおけるスタンダードです。
ただデメリットとして、トラブルや災害時における生産計画の大きな変更には弱いところがあります。このサプライチェーン・マネジメントに、先ほどのデータスペースとAIを利用すれば、サプライチェーンの自動再構築も不可能ではないと私は思っています。
ちなみにですが、OpenAIが2023年11月に発表した最新の大規模言語モデルGPT-4 TurboやGPTsは、1つのプロンプトに300ページ以上のテキストを入力することができたり、簡単にカスタマイズできる機能があります。つまり方向性としては、生成AIも個別に利用していく方向だと思います

 ゴリくん

そうかもしれませんね。それにしても日本はアメリカや欧州と比べて、かなり遅れていますよ。国として戦略的思考ができないから、IT後進国になってしまったのでしょうか

見本の戦略とメタバース

 チクタク先生

中国も今ではIT先進国ですが、まだアジアなど新興国を席巻しているわけではありません。新興国に対して日本は、データ連携を軸としたイニシアチブを取らなくてはいけないでしょう。
今回の講義は、生成AIの話から始めましたが、いつのまにか欧州や日本の戦略の話になってしまいました。では、日本企業が生成AIをさらに活用できる分野の話をしたいと思います。ゴリくん、日本企業が強い領域はどこですか?

 ゴリくん

そうですね、マンガ、アニメやビデオゲームなどのエンタメ系分野なら今でも世界のトップクラスだと思いますが

 チクタク先生

売上や利益などでは自動車産業が日本のトップですが、確かにアニメやビデオゲームの分野は強いですね。実は、日本で人工知能の研究を20年前からしているのは、主にゲーム会社なのです

 ゴリくん

え!そうなのですか?ICT企業ではないのですか?

 チクタク先生

ICT企業が、まだ画像認識コンテストに機械学習で挑戦していた2000年頃、ビデオゲーム業界ではゲームAIという概念が既に登場していました。周囲の状況や環境から、情報を自分で得て自分で行動することができる、自律型エージェントまで登場していたのです。このゲームAIの話をすると長くなるので、詳しくは三宅陽一郎氏の著作を読んでみてください。
とにかく、以前は日本の若いAI研究者の相当数がビデオゲーム業界に入ったので、日本のビデオゲームが発展していったのです。もっとも現在のAIエンジニアの市場価値は急騰しているので、初任給で数千万円を出すビッグテックにしか興味がないようですが

 ゴリくん

ビデオゲーム業界が日本のAI技術をリードしていたとは、意外な話です。そういえば、今の3Dゲームの世界は閉じられた仮想空間の中なので、実世界と違ってすべて予測の範囲だからAIとは相性がよいですね

 チクタク先生

その通りです。では同じようにAIと相性が良い業界はどこだと思いますか?

 ゴリくん

そうか、仮想空間といえばメタバースですね。ChatGPTが登場する前までは華々しく宣伝していましたが、最近はほとんど話題にも上りませんよ。メタバースは結局IT業界がよくやる、バズワードだったのですか?

 チクタク先生

旧FacebookのMeta社が、社運をかけていたメタバースですが、高価で大きなヘッドセットを装着するVRでは、ほとんど一般には流行りませんでしたね。ここはハードウェアの進歩がまだまだ必要なのでしょう。ただ、VR以外のARやMRなら着実に進化していますし、地道に利用が拡大しています

 ゴリくん

メタバースでは、VRとかARという言葉をよく使っていますが、ボクにはその意味の違いがはっきりしないのですが

※図版:筆者作成 VR,MR,ARの違い

 チクタク先生

簡単にこの表にまとめました。これらを総称してXR(Cross Reality)とも呼びます。ただしメタバースも進化が激しいので、MRとARの境界はそれほど明確にはなっていません

 ゴリくん

VRのゲームならボクもやったことがありますが、あの大きなヘッドマウントディスプレイを頭に装着して、長時間のゲームはあまりやりたくないですね

 チクタク先生

視界を完全に覆ってしまうVRは、長時間利用すると弊害があるようです。それにVR用の3Dソフトウェアの開発費が高額になるのも、大きな問題になっています

 ゴリくん

それだと日本の強みにならないですよ。そもそもメタバースはMata社のようなアメリカ企業が先頭を切っているじゃないですか

 チクタク先生

メタバースでも、エンターテイメント性の強いサービスが大半の一般向けVRではなく、企業向けのVRサービスやAR・MRは着実に市場を拡大しています

 ゴリくん

具体的には?

 チクタク先生

ゴリさんは、デジタルツインという言葉を知っていますか?

 ゴリくん

聞いたことがあるというレベルで、具体的には知りません

 チクタク先生

デジタルツイン(Digital Twin)とは、現実世界の物体や環境から収集したデータを基に、仮想空間上に限りなく現実に近い物体や環境を再現するテクノロジーのことです。
例えば製造業における設備保全での利用があります。製造ラインのデジタルツインを構築してあると、何らかのトラブルが発生した際に、IoTセンサーと連携することでリアルタイムにデータを収集・分析が可能となり、迅速にエラーや故障の原因を切り分けることができます。
また、新製品の試作を物理空間の情報を反映した仮想空間で、何度もトライアンドエラーを繰り返すことができるため、開発リスクの低減、開発期間の短縮、製品の品質向上につながるのです

 ゴリくん

なるほど。日本の製造業にイノベーションを起こす可能性がある技術ですね。でも実現するには、かなり難しそうですが

 チクタク先生

現実に社会実装するためには、膨大なIoTセンサーと大量のデータを処理・分析するためのAI、表示用のXR、仮想空間を構築運用するためのクラウドなど高度なテクノロジーが必要です。さらに日本が得意としている製造用ロボットを組み合わせることもできます。つまり、
AI×XR×デジタルツイン×ロボット
によって、製造業界でのゲームチェンジャーになれるかもしれません。日本企業の得意としている要素技術が多いですが、1社ですべての技術を持っている企業はないでしょう。したがって、資金力がある先進企業がAIやXRを得意とする有力ベンチャー企業などと連携して協力すれば実現は可能なはずです

 ゴリくん

そうですね。それでは、この分野の進展に期待しましょう

 チクタク先生

今回の講座は生成AIだけでなく、かなり幅広い分野のテクノロジーを扱ったため、想定以上に長くなってしまいましたが、これで終了と致します

終わり

著者・図版:谷田部卓
AIセミナー講師、著述業、CGイラストレーターなど、主な著書に、MdN社「アフターコロナのITソリューション」「これからのAIビジネス」、日経メディカル「医療AI概論」他、美術展の入賞実績もある。

(TEXT:谷田部卓 編集:藤冨啓之)

 

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