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千葉県流山市は明石市に似ているのか–データと現地を見る交通利便性の類似点と課題

         

人口減少が全国的なトレンドになっている中、兵庫県明石市の人口増加が話題となっている。筆者も以前に明石市の交通事情を解説した記事を寄稿した。一方、首都圏で人口増加が顕著なのが千葉県流山市である。流山市も明石市と同様に子育てをサポートする施策により、子育て世代に人気を博している。

ただ、「単に交通が便利だから流山市の人口は増えている」という声もSNS上では散見される。そこで筆者は交通・地理データと現地に赴いた流山市の交通事情を調査。その本質的な要因を探った。

 

千葉県流山市の概要+人口増の実態

千葉県流山市は千葉県北西部に位置し、東京都心から25キロ圏内にある。ちなみに、都心から25キロ前後は専門家に言わせると「郊外の境目」と位置づけられ、25キロ前後を境に中古マンションの取引価格や供給量も変わるという。都心から25キロ前後はJR中央線だと立川、JR総武線だと津田沼あたりになる。

なお、兵庫県明石市は大阪市都心(大阪~明石)から約50キロ、神戸市都心(明石~三ノ宮)から約20キロの地点にある。

話は戻り、流山市の面積は約35平方キロメートルになり、東は柏市、西は埼玉県三郷市・吉川市、南は松戸市、北は野田市に接する。また、西には江戸川が流れ、自然豊かな住宅文化都市だ。

そんな流山市では人口増が続いている。2005年の人口は15万人ほどだったが、2023年12月時点で人口約21万人にもなった。2022年中の人口増加数は県内1位、人口増加率は県内2位に。人口増加数は7年連続、県内1位となっている。

つくばエクスプレスの開業で流れが変わった流山市の交通事情

次に流山市の鉄道事情についてみていく。流山市内には4路線(JR武蔵野線、東武野田線、つくばエクスプレス、流鉄)に駅が存在する。JR常磐線は流山市内を通るが、駅は存在しない。

この4路線の中で、都心に直通するのはJR武蔵野線、つくばエクスプレスである。ただし、JR武蔵野線は京葉線経由で東京駅に乗り入れ、ずいぶんと大回りになる。流山市の交通を劇的に変えたのが2005年開業のつくばエクスプレスである。

つくばエクスプレスは秋葉原駅と茨城県つくば市のつくば市を結ぶ。流山市内にはつくばエクスプレスの駅が3駅(南流山、流山セントラルパーク、流山おおたかの森)が存在する。南流山駅ではJR武蔵野線、流山おおたかの森駅では東武野田線に接続する。

秋葉原~南流山間の所要時間(昼間時間帯)は21分(22.1キロ)、秋葉原~流山おおたかの森間は25分(26.5キロ)である。朝ラッシュ時になると5分ほど加算される。

つくばエクスプレス開業以前はJR武蔵野線、東武野田線、流鉄のいずれかに乗車し、JR常磐線を利用するのが一般的であった。たとえば、流山市役所の最寄駅である流鉄流山駅から常磐線上野駅までの所要時間は45分、東京メトロ北千住駅までは34分である。流山駅から1.2キロ東にある流山セントラルパーク~北千住間は17分であり、流山駅からであっても自転車を利用すれば流山セントラルパーク駅経由の方が速く着く。

それでは、速達面からつくばエクスプレスと関東大手私鉄の特別料金不要の列車を比較すると、どうなるか。小田急の新宿~新百合ヶ丘間(21.5キロ)の所要時間は22分、京王の新宿~分倍河原間(23.1キロ)は26分、西武の池袋~所沢間(24.8キロ)は21分だ。

小田急線と西武池袋線は一部区間に複々線区間を有する。速達面を見ると、複線のつくばエクスプレスは複々線の関東大手私鉄と比較してもそん色はない。実際に、流山市はつくばエクスプレスの開業を機に人口が増加。交通至便と自然豊かな土地をPRしつつ、子育てサポートをプラスした結果、今日の人口増加につながっているといえよう。

一方、流山市は地区別に人口動態が大きく異なる。2003年と2019年を比較した。人口増加が続いているのは南流山駅がある南部、流山おおたかの森駅がある中部だ。いずれも、快速停車駅である。特に中部は2003年では最も人口が少ない地区だったが、2019年には南部に次いで第2位である。2003年と比較すると約60%増だ。流山おおたかの森駅周辺での大規模開発の証だ。

一方、普通しか止まらない流山セントラル―パーク駅がある東部は微増にとどまる。つくばエクスプレスが通らない北部は微減となっている。

数年単位で見ても人口増加の南部・中部と横ばい・微減の東部・北部でくっきりと分かれる。また、同じ南部であっても、つくぱエクスプレス沿線と流鉄沿線では全く異なる。流鉄流山駅周辺は昭和を彷彿とさせるのんびりとした雰囲気が漂う。

交通至便という点では流山市と明石市は似ているが、明石市は新線開業はなく、もともと交通至便なところだ。明石市4地区(本庁、大久保、魚住、二見)ともに大阪、神戸に直結する鉄道路線が存在することも流山市と異なる点だ。そのため、年にもよるが、4地区ともに転入数が転出数を上回ったことがある。

流山市は人口増は続いているが、このような地域格差を是正するのか否かという点は、今後注目するとおもしろいだろう。

気になるのは、明石市よりも割高な「運賃」と「高所得者世帯の集中」

よくつくばエクスプレスの話になると、運賃の高さが話題となる。本当につくばエクスプレスは高いのか。

ICカード利用時の運賃は秋葉原~南流山間(22.1キロ)が576円、北千住~南流山(14.6キロ)間は419円だ。秋葉原~流山おおたかの森間(26.5キロ)は629円、北千住~流山おおたかの森間(19キロ)は524円になる。

運賃が廉価なことで知られる京王(IC利用)は新宿~国領(14.2キロ)が230円、新宿~武蔵野台間(18.8キロ)が273円、新宿~分倍河原間(23.1キロ)が314円、新宿~聖蹟桜ヶ丘間(26.3キロ)が356円だ。

つくばエクスプレスと京王の運賃を比較すれば、京王の2倍弱がつくばエクスプレスの運賃になる、というわけだ。これだけ運賃差があれば、少なくとも低所得者層がつくばエクスプレス線沿線に住むのは厳しいといえる。

参考までに明石市の場合、大阪~明石間(52.5キロ)が950円、三ノ宮~明石間(21.9キロ)が410円だ。

翻って考えると、流山市には高所得者が多いという仮説が立つ。株式会社LIFULLが運営するサイト「住まいインデックス」によると、流山市の平均世帯年収は601万円となり、全国平均よりも100万円弱も上回り、千葉県内の市町村では第3位だ。

市内にある標準的な中古マンションの価格はこの3年間で約24%上昇している。これは千葉県の約17%を上回る。

ようするに、交通面から見た流山市の現状は首都圏直結の高額運賃な新線の沿線に住宅開発がなされ、そこに高所得者が居住。子育てサポートも相まって、人口が増えているといった感じだ。

一方、明石市の平均世帯年収は491万円で、全国平均よりも下回るのだ。興味深いのは中古マンションの3年間の価格であり、これは流山市とほぼ同じ約24%上昇となっている。

流山市は高所得者が集まる一方、明石市は幅広い所得者層が移り住んでいるということだろう。翻って考えると、流山市に居住した現役高所得者世帯がリタイア後も市内に住み続けるのか否か。また、その子世代も流山市に住めるのか、といった点が課題といえる。

最後に流山市と明石市は交通至便な点は似通っているが、所得など異なる点も多い。人口増や子どもへの手厚いサポートなどで注目されがちな両市だが、違いがあることも意識しておきたい。

著者:新田浩之
2016年より個人事業主としてライター活動に従事。主に関西の鉄道、中東欧・ロシアについて執筆活動を行う。著書に『関西の私鉄格差』(河出書房新社)がある。

(TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之)

 

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